保護者対応の基本スタンスとは【現場教師を悩ますもの】

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諸富祥彦の「現場教師を悩ますもの」
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「教師を支える会」代表

諸富祥彦

「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による人気連載です。教育現場の実状を説くとともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。

【今回の悩み】保護者の要求にはどこまで応えたらいいの?

保護者からの要求にはどこまで応えたらいいのでしょうか。学校にはさまざまな要望や依頼があります。丁寧な対応が求められているのはわかりますが、時には毅然とした態度が必要ではないかと思ったりします。若い先生方にアドバイスするためにも、保護者対応の基本スタンスを知りたいです。
(公立小学校教諭・50代、教職年数:28年)

横並びの関係が大事。向き合う関係は避けましょう

保護者対応のスタンスとして一番大事なのは「横並びの関係」を保つことです。つまり、教師と保護者は子どもを育てるという同じ目標に向かっていく一つのチームです。そういう「同志」感覚を醸成することが、保護者と関わりを作っていく際の基本になります。   

失敗するのは逆のケースで、保護者と「向き合う」関係です。これはトラブルが起きやすいです。向かい座っていると、誰でも「でもね、だってね」と注文をつけたくなるものです。

なぜかというと、正面で向き合うのは「お客様対応」だからです。正面で向き合っていると、保護者がお客、教師は店員のような感じになりがちです。「何かあったらおっしゃってください。私たちも一生懸命やっていますが、いろいろ落ち度はあると思います。いつでも遠慮なくご指摘ください」という立場になります。こういう関係はやめたほうがいいです。保護者と向き合うスタンスはオススメできません。向き合ってはだめです。保護者はお客様ではありません。

保護者会でパートナー宣言と全員握手のエクササイズを

新学年、新しいクラス編成になったら、できるだけ早い時期の保護者会で「私たち教員と保護者の皆さんは、子どもを育てるという目標を共有するパートナーです。一緒に頑張っていきましょう」とパートナー宣言してほしいです。「横並びの関係」をこちらから提示するのです。

二つ目に保護者会でやってほしいのが「全員が全員と握手」というエンカウンターのエクササイズです。まず、先生が保護者一人ずつに「今度3年●組の担当になりました△△です。よろしくお願いします」としっかり目を見て言います。そして、保護者も「〇〇〇〇の母親/父親です」と返して握手。このように教師と保護者、保護者同士で全員が全員と握手をしていきます。5分もあればできるでしょう。早い時期にいい雰囲気を作れば、「ああ、この先生はできる人だな」と信頼を得て「横並びのチームワーク」ができてくるでしょう。

「何でも言ってください」は間違い。共依存関係を作らない

保護者対応で失敗するケースの多くが、向き合うことをやりすぎているのです。この姿勢が保護者をクレーマーにしてしまうのだと思います。

以前、ある学校でいじめのことで保護者面接をしているときにこんなことがありました。私がカウンセラーとして「先生方の対応はどうですか?」と聞いたら、「すごくいいです。うちは転校してきたのですが、この学校の先生は最高です。何の注文もないです」とおっしゃっていました。

その後で担任とカウンセリングルームに入ってきたのですが、その時の担任の姿勢がまずかったのです。「すみません。今回は本当にご迷惑をかけてすみません」と、やたら謝ってしまったのです。すると、保護者は総体的に満足していたのに、担任の低姿勢が不安を刺激したのでしょう。「そうですよ、先生」と文句を言い始めました。教師の対応が保護者を攻撃的にさせたのです。これは人間の相互作用がもたらす関係性です。

ですから「謝ればいい、何でも言うことを聞けばいい」というのは間違っています。謝ることによって、保護者はどんどん依存的になっていきます。「校門の近くに犬の死骸が転がっている。早く片付けろ」と、学校に電話してくる人までいます。これは教師の仕事ですか? 保護者をお客様として扱わないでください。同じチームの一員として話し合いましょう。

ほかにも過剰なクレームや注文をつけてくるようなケースは「先生方が何でも言うことを聞く学校」という姿勢を示したがために、保護者との間に共依存的な関係ができてしまっているからかもしれません。それはいじめ対応などでも同じです。とても悲惨なことが起きています。そういう関係を作らないようにするためには、ノーと言うべきところは言うことです。

たとえば「先生、うちの子はもう学校が嫌だと言っています。うちの子だけクラス替えをしてくれませんか?」と言われてもそれはできない相談です。「お気持ちはわかるのですが、それはできません」ときっぱり言うべきです。そうしないと後々トラブルになります。

私も、いじめられたらクラス替えができるようなシステムがあれば一番いいと思います。しかし現状では無理ですから「できないことはできない」という姿勢を示すことがとても重要です。

また、よく言ってしまいますが、「何でも言ってくださいね」という言葉は使ってはいけません。横並びの関係であることを忘れずにいましょう。保護者とは対等です。「一緒に力を合わせてやっていきましょうね。こちらもお伝えすべきことはお伝えしますので、何かあればおっしゃってくださいね」これが基本のスタンスだと思います。


諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。

諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/

取材・文/長尾康子

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