6年道徳科「自然環境を大切にする心情を育てる」授業レポート
道徳科の授業に生かせるアイデア満載の授業レポートをお送りします。今回は和歌山県和歌山市立岡崎小学校での実践です。小6の道徳の授業で「自然環境」を大切にする心情を育てる内容です。
授業者/和歌山県和歌山市立岡崎小学校教諭・大倉恵美子
監修/文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
小6「緑の闘士~ワンガリ・マータイ~」の授業
教材:緑の闘士~ワンガリ・マータイ~(『生きる力』日本文教出版)
内容項目:自然愛護
本時のねらい:自然環境保護に取り組むマータイさんの姿を通して、かけがえのない自然環境を大切にしていこうとする心情を育てる。
導入
発問1 マータイさんのことを覚えていますか?
導入として、5年生で学習したワンガリ・マータイさんについて、子供たちに問います。すぐに「もったいないの人!」という声があがりました。過去の学習内容を思い出しながら、本時の学習に入っていきます。
展開
マータイさんの考えと、他の人の考えを比較しながら持続可能な社会とは何かという考えを深めます。
発問2 マータイさんがケニアに戻ったとき、ケニアはどうなっていましたか? それを見たマータイさんはどう思いましたか?
教材を読み聞かせた後、教材のストーリーを追いながらそれぞれの立場や思いを子供たちと確認します。簡単な発問から発言を促しましたが、意見が出にくい様子だったので全員に立ってもらい、発言をしたら座る方法を取りました。
子供たちの発言
国外に高く売るコーヒーやお茶をたくさん生産していた。コーヒーなどを海外に売らなくてはいけないこともわかるがなぜ自然を壊すのか。
自然に助けられて生きているのに、こんなふうに自然を壊すのはだめだと思った。
国内の様子が変わり果てていて、びっくりした。
発問3 ケニアの変わり果てた様子を見たマータイさんたちはどんな思いから活動を始めましたか?
子供たちの発言を拾い、板書にまとめていきます。「自然を大切にする」マータイさんの考えや行動と、「経済を発展させてケニアを豊かにしたい」と考える人たち。どちらかが正しいのではなく、どちらも大切なことだと確認しながら、次の発問へとつなげます。
発問4 ケニアには、自然を大切にするマータイさんと、経済を大切にする人たちがいます。みなさんは、どのように思いますか?
マータイさん側の意見
● 経済を発展させたいのは理解できるけど、自分の育った街が大きく変わってしまうことは悲しい。経済を発展させるなら、商業専用の場所を作り、自然は残す。
● 自然を破壊してしまうと、戻すことに時間がかかる。
● お金がたくさんあっても、自然がなくては意味がない。
● 自分も故郷が変わったら嫌。落ち着かない。
どちらも大切
● 経済がないと、国が発展しない。
● 自然も大切だけど、経済発展がなかったらケニアが滅んでしまうかも。
経済が大切
● 自分たちの国が他国においていかれてしまう。
6年生は「正解」を考えて、意見を出す知識の高さをもち合わせています。両方の意見や、なぜそう思うかの理由を具体的に聞くことで、子供たちもしっかり考えるようになります(大倉恵美子先生)。
発問5 「受けつがれてきた伝統を守り、子供たちへ残さなければこの国に未来はない」というマータイさんの言葉にこめられた思いとは、どんなことでしょう?
環境保護に熱心に取り組むマータイさんの言葉から、「なぜ自然を大切にしなければならないのか」をさらに掘り下げて考えます。なんとなく「自然が大切」と理解していても、きちんと言葉にするのは難しいようです。「短期的には経済を大切にするメリットが大きいけど、長期的に地球のことを考えたら自然が必要」「災害を防ぐなど基本的な生活に自然は大切」など、いろいろな切り口から自分なりの考えを言葉にすることができました。
終末
発問6 日本に生きる私たちの「持続可能な社会」を作るための心構えとはなんでしょうか?
最後に、今の私たちの社会における「持続可能な社会への心構え」をノートに書いて提出します。時間の都合もあり、発表はしませんでした。表面的な結論で終わるのではなく、子供たちがもやもやした考えをもち続けることも大切な学習です。
板書
子供たちのノートから
- 自分が生きていく心構えとは、電気などをせつやくしたり、何かひとつでも自分でやれることを活用したりしていくことが大事だと思いました。
- 今のことだけを優先するのではなく、何十年後かのことを思う心構えが重要だと思う。
- 自分の行動で世界が変わってくるから、一人ひとりが責任をもつことが大切。
授業者のねらい
和歌山県和歌山市立岡崎小学校・大倉恵美子先生
6年生は精神的にも発達し、授業の展開や結論を先に読んで理想的な発言をしがちです。表面的な意見より、できるだけ心の奥から本音を引き出せる授業をしたいと考えています。そのために、異なる意見の両者を掘り下げながら、本当に考えていることに近付けるように、発問を工夫しています。
文部科学省教科調査官ワンポイントアドバイス
板書の工夫で現代的な課題を考える
文部科学省教科調査官・浅見哲也先生
これからの道徳科では、教材を生かしながら現代的な課題を取り上げることも増えてくると思われます。特にこの授業では、持続可能な社会について「自然愛護」をねらいとしていますが、大倉先生は、板書を工夫することにより、単に自然を守るということではなく、国や経済の発展も視野に入れ、天秤に掛けながら考えられるように工夫しています。
授業の後半まで経済重視の考えをもった子供もいましたが、それくらい単純に片付けられない問題として、未来を見据えて真剣に考えられています。子供の「落ち着かない」という言葉に込められた思いが道徳的心情につながるところだと感じました。
取材・文/ルル 写真/北村瑞斗 構成/浅原孝子
『教育技術 小五小六』2021年6/7月号より