5年道徳「うばわれた自由」授業レポート~自由と責任を大切にする心情を育てる
道徳科の授業に生かせるアイデア満載の授業レポートをお送りします。今回は和歌山県和歌山市立岡崎小学校での実践です。小5の道徳の授業で「自由と責任」を大切にする心情を育てる内容です。
授業者/和歌山県和歌山市立岡崎小学校教諭・豊田麗香
監修/文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
小5 教材名「うばわれた自由」
教材(出典:『生きる力』日本文教出版)
内容項目:善悪の判断、自律、自由と責任
本時のねらい
「自由」とは、自分のやりたいことを自分勝手にするのではなく、みんなが規律を守ることによって自由が守られることに気付き、自分や他人の自由を大切にしようとする心情を育てる。
導入
発問1 「あなたのしていることは本当の自由ではありません」と言われたとき、ジェラール王子はどうなふうに考えましたか?
本教材は、わがままを「自由」と取り違えた結果、本当の自由を奪われた国王の話です。
導入では「自分のやりたいことをやりたいようにすることが自由な暮らしだ」と考えるジェラール王子の考えに共感させることで、「なんでも好きにやること」は、「自由」ではなく「わがまま」だと子供たちが気付くように進めます。
ジェラール王子の気持ちはどんなでしょう?
「自分の好きなようにしてもいいよね」という気持ちです。
「自分のほうが偉いのに、なぜ従わなければいけないのか」という気持ちかな。
いい気になっているのかな。自由で楽しい気持ちかもしれないです。
展開
役割演技を通し、ジェラール王が感じたことや考えたことを確認し「本当の自由」について考えます。
発問2 ジェラール王はうらぎりにあい、ろうやに入れられてしまったときどんなことを考えていたでしょうか?
ジェラール王が自分勝手に行動したことから、国内の秩序が乱れ、裏切りにあったストーリーに触れます。そうならずに「自由にする」とはどういうことか、「どうすればよいか」と考えられるよう話を進めます。
「ジェラール王は自分が勝手なことをして、みんなも勝手にふるまい国が乱れてしまった」と考えたと思います。
「あのとき注意されたことを聞いておけばよかった」と思っているかな。
「自分が思っていた自由は自由ではなかった」と考えたと思う。
ジェラール王とガリューがろうやで再会したときのことを役割演技をして考えてみよう
子供たちがジェラール王について考える時間を取った後、役割演技を行います。役割演技を行う子供だけではなく、見ている子供たちも、しっかり考えを深められるようジェラール王役の子供の表情や口調から「なぜそのような発言になるのか」、心を感じとるように伝えます。
ガリュー役:
王様は、なぜろうやに入れられてしまったのですか?
ジェラール王役:
わたしが間違っていたからだと思います。
ガリュー役:
本当の自由とは何かわかりましたか?
ジェラール王役:
本当の自由とは、わがままをすることではなく、きまりを守って、心地よくすごすことだと思います。
発問3 本当の自由に大切なこととはなんでしょうか?
役割演技の後、ジェラール王の心情の変化を確認します。「きまりを守る」「心地よいのが自由」「わがままをしない」などが、子供からの発言としてあげられました。
さらに「自由」について考えを深めるために、日常生活の中での実際の出来事などを交えながら子供たちと話し合います。教材と生活場面での「自由」とを行ったり来たりしながら、考えを深めていきます。
子供たちが考える”自分たちの自由”とは?
みんなが「自由にしていいよ?」と言われたら、何をしますか?
お店から好きなものを持ってきます。
家でゲームをします。
マンガを読みます。
ずっと昼寝します。
じゃあ、なんで今はそれができないのでしょうか?
お店に迷惑がかかるからです。
親とゲームの時間を決めているからです。
勉強しないと怒られるからです。
大人になったら、自分のことを自分で決められます。そうしたら、好きなことだけをしますか?
ゲームをやりすぎたら、視力が低下します。眼鏡やコンタクトレンズなどでお金がかかり、それは自分にかえってきます。
勉強ができないと、自分の将来に影響があります。
ある子供の結論
やりたいことをやることだけが自由ではなく、その自由を楽しむにはきまりや周りの人への思いやりが必要だね。
発問4 自由に考えて、行動するときに大切なことはどんなことでしょうか?
子供たちは教材や日常生活から考えた「自由」についてノートに書き、考えをまとめます。発表では「自分にとっては自由でも、周りの人には迷惑かもしれないと考えることが必要」「自由とは、なんでも好きにすることかと考えていたが、きまりや限度を守ることが必要」などの意見が出ました。
終末
1時間の授業を通じて、「自由」について自分で感じたことをふりかえりノートに書き、授業の結びとします。板書は下のように子供たちの意見をまとめます。
板書
子供たちのノートから
●本当の自由とは、いやなことを乗り越えてやっと楽しみをつかむことだと思います。
●自由ってよく考えてみればとてもむずかしい。だって、みんなが自由に生きていたらいろいろ大変なことがあるから。相手のことや自分の周りのことを考えて、自分がわがままか見直せばいいと思う。
●真の自由とは、心地よいもの。自分も周りの人もよくなる。いつわりの自由とは勝手。真の自由を大切に!
授業者のねらい
和歌山県和歌山市立岡崎小学校教諭・豊田麗香
小学生時代、友達との関係で悩んだときに「生きること」や「友達との付き合い」について本を読んだり、考えたりすることがありました。そこからの学びは多く、子供たちにも同じように、道徳を通していろいろなことを考えられる人間になってほしいと思います。
毎回の授業のテーマについては、子供たちと一緒に自分も何度も考えています。事前に授業ノートを作成し、周囲の先生方の意見も聞きながらよりよい授業を目指しています。
文部科学省教科調査官ワンポイントアドバイス
子供たちの表現方法を尊重する
文部科学省教科調査官・浅見哲也先生
この授業では、子供たちが、挙手による発言、つぶやき、役割演技、ノートに書くなど、自分の気持ちや考えを様々な方法で表現している様子が見られ、豊田先生は、一人一人の得意な表現の仕方を尊重しながら授業を展開しています。
特に役割演技では、演技を見ている子供たちに、ジェラール王を演じた子供の発する言葉だけでなく表情や口調に注目して聞くよう指示を出し、そこから「自由」とはどのようなものなのかを考えを深めていきました。道徳的心情を育てるこの授業では、きまりを守るということではなく、本当の自由の「楽しみ」や「心地よさ」が子供たちにとってのキーワードとなりました。
取材・文/ルル 写真/北村瑞斗 構成/浅原孝子
『教育技術小五小六』2021年6/7月号より