「教員評価」とは?【知っておきたい教育用語】
教育改革国民会議で、「教師の意欲や努力が報われ評価される体制」の構築が提案されたのは2000年のことです。そして現在、ほとんどの自治体で教職員評価のシステムが導入されていますが、その実態はどうでしょうか。
執筆/常磐短期大学助教・石﨑ちひろ
目次
「勤務評定」から「人事評価」へ
2014年に改正された地方公務員法では、職務遂行で発揮した能力および業績を把握した上で行われる勤務成績の評価を「人事評価」とし、その基準や方法などは任命権者が定めることにしています(第6条、第23条)。
かつて行われていた勤務評定は、「評価項目が明示されない」「上司からの一方的な評価で結果を知らされない」「人事管理に十分活用されない」などの問題点が指摘されていたのに対し、「人事評価」は、能力・業績の両面から評価をすること、評価基準の明示や自己申告、面談、評価結果の開示などの仕組みにより客観性等を確保し、人材育成にも活用するといった違いがあるとされています。
文部科学省が毎年発表する「公立学校教職員の人事行政状況調査」では、人事評価の結果を利用する自治体は増加する傾向にあり、昇任、昇給・降給、勤勉手当、免職・降任、配置転換、研修、人材育成・能力開発・資質向上などの分野で活用されています。
教員評価の抱える課題
人事評価を導入する自治体が増え、業績主義的性格は強まっています。学力調査を教員評価に反映させようとした大阪市はその例ですが、学力の高低と教員評価の因果関係には議論の余地があります。問題は、何を「客観的指標」と捉えるかということです。
これに関連して、同調査でも制度運用においては、特に評価の難しさや、面接時間確保の困難を訴える声が多くあります。評価の難しさには、客観性の担保、自己目標設定レベルの適正化、評価者である管理職の評価能力の向上などが挙げられています。
同調査は、「人事評価と学校評価の関係」についても述べています。学校評価の目標にもとづいてそれぞれの教職員の目標が設定されるなど、教職員評価と学校評価を連動させている都道府県・指定都市は、2019年時点で全67中39あるという状況です。評価者である管理職、特に校長が策定する学校経営目標との関係によって教員を評価するということであれば、なおさら管理職の学校経営能力や評価能力は重要と考えられます。
自治体の取り組み
東京都は2000年、教員の職能発達を目的として教職員人事考課制度を導入しました。教員評価の先駆的事例です。
この制度は「自己申告」と「業績評価」の二つの柱からなり、管理職の指導・助言、研修等を通じて教員の資質能力やモラールの向上、学校組織の活性化を図るものです。
この事例がきっかけとなって、教員の職能発達を目的とする評価制度(いわゆる教員評価)が全国的に拡大していきます。
高知県では、1997年から始まった「土佐の教育改革」の一端として、2003年に教員評価を導入しました。この教育改革は、「教育の原点は『子どもたちの教育にある』」として始まったものです。取り組むうちに、「意欲ある教員やその努力が評価され、生かされる体制づくり」の必要性が認識され、2006年からは「職業能力育成型」と命名し、教職員の力量向上を目指すことを明確にしました。
運用においては、詳細な実施要領があり、特に評価者が陥りがちな誤差についても記載されています。評価基準も仔細に定めているため、客観性を保つことに寄与しており、評価能力に関して参考になる事例といえます。
この例から、教員それぞれの力量形成に寄与できるような人事評価とするとの目的を共有して取り組むことがいかに大切であるかが理解できます。各自治体で抱える課題は異なっているものの、この事例から学ぶことは少なくありません。
教職の魅力を高めるために
教員評価をする目的は、教師の業績を正しく評価し、給与や処遇に反映させることで教師の意欲や努力に報い、学校を活性化させることにあります。
しかし現在、人口が減少している状況において、教員の志願者が伸び悩んでいます。働き方改革などの労働改善とともに、学校は教員一人ひとりの力量形成を行うことができる場とならなければ、子どもの能力育成を行うこともできないばかりか、教員の仕事としての可能性も描けるはずがありません。
教員それぞれが、自らの成長の軌跡をイメージしつつ自己評価と研鑽に努めると同時に、管理職はそうした教員を支えていく方途を探り続けることが大切です。教員評価制度をより充実させ、適切に活用する必要があります。
▼参考文献
「地方公務員法及び独立行政法人法の一部を改正する法律」の概要(平成26年)
文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」2019年
高知県教育委員会「高知県公立学校職員の人事評価実施要領(職業能力育成型人事評価マニュアル)」2021年4月
土居英一「『土佐の教育改革』から教育振興基本計画へ─教職員に信頼を置いた学力向上対策の展開─」(『日本教育行政学会年報』第41巻)2015年