教科調査官インタビュー:10年後の社会を見据えた低学年国語科の授業づくり
「Society 5.0」ともいわれる10年後の新しい社会を見据えて、子供たちはどのような言語能力を身に付けるべきでしょうか。これからの時代に対応した国語科の授業づくりについて、文部科学省教科調査官の大塚健太郎先生に教えていただきました。
大塚健太郎(おおつか・けんたろう)●兵庫県生まれ。神奈川県公立小学校教諭、東京学芸大学附属小金井小学校教諭などを経て、2020年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官。共著に『板書で見る全単元の授業のすべて国語 小学校3年上・下』(東洋館出版社)など。趣味は登山。「北アルプスの蝶ヶ岳山頂から見る槍・穂高連峰は最高に美しいです」
目次
多様な人と協働できる言語能力を身に付けよう!
―10年後の社会を見据えて、子供たちはどんな言語能力を身に付けるべきですか。
大塚 言語能力とは、すべての学習を支える大切なものです。すべての教科等で学習していきますが、言葉を直接扱っている国語科が担う役割は重要だと思っています。学習指導要領はおおよそ10年ごとに改訂されていきますので、新しい社会に向けた内容も加味されています。つまり、新学習指導要領で育成を目指す資質・能力が、その答えになります。
特に大切なのは、一人ひとりの可能性やよさを認識し、その認識を最大限に広げていくこと。それから、さまざまな背景をもった方々とコミュニケーションを取ることになりますので、多様な人々と協働できるような言葉の力が必要になります。それを目指しているのが、学習指導要領だということです。これからAI社会になったからといって、人とのコミュニケーションがなくなるわけではありません。言語能力等は、従前どおりにしっかりと身に付けていく必要があると思います。
10年後の新しい社会を見据えたとき、例えば、「情報活用能力」も大切な資質・能力の一つです。ICT環境に慣れることも含めて、適切に情報を活用する能力の育成が求められます。
国語科でいえば、〔知識及び技能〕に「情報の扱い方に関する事項」が新設されました。話や文章の中にどのような情報が並んでいるかを整理したり、どのような関係性になっているかを捉えたりすることは、低学年から必須な資質・能力です。
コロナ禍ではICTを活用して、対話的な学びを保障しよう!
―全国の学校でタブレット端末もしくはパソコンが、全児童(一人1台)に整備されました。低学年にICTを活用して、どのように言語能力を育成するのですか。
大塚 タブレット端末にはさまざまな機能があり、情報を収集することや記録することもできます。例えば、聞く、話すという音声言語では流れていってしまうものを、録画することにより、映像を止められたり、繰り返し見られたりします。子供はきちんと発音しているつもりでも、いざ映像で確認すると正確でないことに気付くかもしれません。あるいは、発表の様子を映像で確認することで、大事なところは大きな声でゆっくりと話すなど、話し方の工夫に役立つかもしれません。書くこと、読むことに生かすだけでなく、こういった活用のしかたも考えられると思います。
―コロナ禍において、対話的な学習や話合い活動が減っているとも聞きます。
大塚 それぞれの地域、学校の感染状況に応じた感染症の対策を講じることが大前提です。そのうえでできる工夫としては、対話的な学習が長時間にならないように意識すること。それから、本当にそれは声を発する、つまり、飛沫が飛ぶような状況で学ばなければならない資質・能力なのかどうかを見極めることです。
例えば、ICTを活用して画面越しに対話するとか、付箋に自分の考えを書いて交換するといった代替案も考えられるでしょう。低学年の子供は、マスクをしている相手の表情を読み取りづらいでしょうし、不安も感じているはずです。ですから、マスクをしての対話も必要でしょうが、ときにはICTを活用して、マスクをせずに相手の表情が見える状況での対話も取り入れていただきたいと思います。
新学習指導要領の押さえるべきポイント
―低学年の国語科における「新学習指導要領」のポイントについて教えてください。
大塚 今回の学習指導要領の改訂では、国語科で育成を目指す資質・能力を、「国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力」と示すとともに、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱で整理しました。
「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」は、国語で正確に理解し適切に表現する上でともに必要となる資質・能力です。国語で正確に理解し適切に表現する際には、話すこと・聞くこと、書くこと、読むことの「思考力、判断力、表現力等」のみならず、言葉の特徴や使い方、情報の扱い方、我が国の言語文化に関する「知識及び技能」が必要となります。こうした「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」の育成において大きな原動力となるのが「学びに向かう力、人間性等」です。
改訂のポイントはさまざまありますが、例えば、語彙はすべての学習の基本であり「語彙指導の改善・充実」は、大切なポイントの一つです。語彙の量と質をともに高めるような指導が求められます。低中高学年ごとに重点的に指導する語句のまとまりが整理されています。低学年では「身近なことを表す語句」が指導の中心となります。体験を通して言葉を学んでいくことが大切ですので、他教科等で学習した内容を題材にすることなど、教科等間の連携を考えていただくことも重要です。
例えば、体育科で走ったときの感想を、いつも「楽しかった」「気持ちよかった」と伝えているのであれば、「何か足せる言葉はないかな」と声をかけ、他の子供たちの挙げた言葉を聞いて語彙を増やしていく。また、今まで読んだ本の中に使われていた「楽しい」と似たような言葉と比べ、言葉の意味や使われ方に違いはないかなどを考えるのも一案です。このように、体験を通して言葉による見方・考え方を働かせていくことで、国語科で育成を目指す資質・能力が発揮されることでしょう。
―新学習指導要領下で、学習評価はどのように考えればよいですか?
大塚 今回、「内容のまとまりごとに評価する」と、お示ししています。先生方は日常的に、子供に対する励ましやできるようになったことをすぐにフィードバックしてくださっていると思います。それも一つの指導に生かす評価ですが、記録に残す評価のところでは精選していただいて、資質・能力が最も発揮されたところで評価してください。
「指導と評価の一体化」を進めるには、単元を計画するときに、学習課程のどこでどういう活動をすると、この姿が出てくるはずだから、この資質・能力を評価できるということを、見通しをもって考えていただくことです。つまり、評価があとで付くのではないのです。評価のための評価にならずに、子供の学習に生かすような評価を目指していただきたいと思います。
取材・文/長 昌之 撮影/岡田泰裕
『教育技術小一・小二』2021年3月号より