だらけて進まない卒業式合同練習にイライラ【5年3組学級経営物語23】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「次世代リーダー」にトライします。
フォロワーシップ体験が、次の最高学年への心構えを育み自覚を高めます。さあ、5年の総決算として「次世代リーダー」の育成にレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

3月①「次世代リーダー」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

高杉先生の決断!

5・6年の合同練習。講堂のひな壇で「呼びかけ」練習をする6年生を眺め、溜息をつく鬼塚学先生。

「また叱られているぞ、6年のユウトたち。卒業式に相応しい態度や行動、…教え込むのは大変だな」

3月初旬に始まった、5・6年の合同練習。講堂のひな壇で「呼びかけ」練習をする6年生を眺め、溜息をつく鬼塚学先生。言葉を忘れ、タイミングも合わない状況への厳しい叱責…。座席で見守る5年生の参加意欲も、薄れ気味。

「でも、それ以外の子どもたちもやる気が感じられない。叱りつけ、練習時間を増やし、上手くいかなければ、また厳しく指導する。儀式として体裁は整いますが、これでは全く心がこもらない卒業式になります。…分かっていますよ、5年生も」

苛立ちを募らせる渡来勉先生。ずっと考え続けていた高杉静先生が、思いを語り出しました。

「そうなんだ。こんな練習方法は教育的じゃないと何度も助言した。だが、相変わらずだ。分からないか、分かろうとしないのか。6年担任の考えは尊重したいが、子ども中心に考えたい。…合同練習の中止と練習計画の練り直しが必要だ。私が意見具申するしかない。校長先生に申し入れてくる」 ・・・ポイント1  

そう言うと、高杉先生は講堂を後にしました。

ポイント1 【意見具申の大切さ】
年長者や管理職に意見をすることは簡単ではありません。けれど、子どもたちのために必要なことならば、躊躇すべきではありません。感情論ではなく、冷静に客観的に問題点を分析し指摘する。その様な「意見具申」で問題点に気づいたり、よりよい解決法を獲得したりしたことが、私も管理職の頃に何度もあります。このような「ボトムアップ」を生かす教職員が、よりよい学校を創り出していくのです。

練習計画の行方

放課後。校長室に入った高杉先生を、職員室で待つ渡来先生たち。一時間を超えた、6年担任や大河内巌先生との話合い。暮れ始めた窓外の景色を眺め、鬼塚先生が深い溜息をつきます。渡来先生が話しかけようとした時、ドアが開き、疲れた表情で高杉先生たちが戻ってきました。

「…練習計画を練り直すことになった。今後は、学校行事主任の大河内先生が指揮をとられる。だが暫くは別々に練習だ。校長先生が、そう決められた」

不満そうな表情の6年担任たち。そちらを気遣い、声のトーンを落として話をする鬼塚先生。

「横槍を入れられたと、不機嫌そうだな…。一年前なら、オレもそう思っただろう。だが、あの練習方法は確かに良くない。仕方がないんだ」

「同僚との摩擦を恐れて、課題を見過ごしてはならない。教師である以上、どんな時も子ども中心の考えで行動する。それが私の信念だから」

周囲を気にせず、語る高杉先生。渡来先生は、6年の望月さくら先生の視線に気づきました。

磨き合いの大切さ

「すみません。…でも、高杉先生は立派でした」

帰りが一緒になった望月先生が、校長室での話合いを渡来先生たちに詳しく説明します。

「無理やり型にはめる指導は、私も賛成できません。でも自信がなくて…。こんな時、どう指導すれば改善できるか、分からなかったんです」

さらに、校長室の様子を語り出す望月先生。

「胸に刺さりました、校長先生の言葉…。学校の体面や教師のプライドより、子どもの幸せが大切。心のこもった卒業式を目指すために練習計画を見直す、と決断されました。そして、いつも最終段階で加わる教務主任が、今年は次の練習から指揮をとる、と指示されました。学年には申し訳ないのですが、私はこの機会に大河内先生の実践を学び、指導力を高めたいんです」・・・ポイント2

少し明るくなった望月先生に、渡来先生は指導を受けた日々を懐かしく思い出していました。

ポイント2 【心のこもった学校行事】
卒業式等の儀式的行事の指導では動作の仕方や行儀等の指導が重視され、それが子どもたちの参加意欲を削ぐことがあります。行儀等の形式は「日常の指導」の中で実践的に学ばせ、卒業式にあたっては「フォーマルな場に相応しい行動をとる社会的意義」「祝福してくれる周囲に感謝する心」等をしっかり自覚させることが大切。卒業式の主役として頑張る気持ちを高めて、心のこもった卒業式を子どもたちと共に創り出していきましょう。

大河内先生の大演説

翌日の講堂。大河内先生が舞台上に立っても、静かにしない6年。注意をしない6年担任たちに、苛立つ望月先生。けれどじっと見つめ続ける大河内先生。1分、2分、…5分。潮が引くように騒がしさが収まり、やっと話が始まります。

「時間を無駄に使わない、それが練習時間を少なくするコツだ。…その方がいいと思わないか」

頷くユウトたちを見て、説明を続けます。

「だが騒がしく、いい加減な態度は許さない。どんな時でも遠慮なく注意するぞ。でもな…、先生は君たちのカッコ悪い姿を、家の人に見せたくない。先生も父親だから、よく分かるんだ」

静かな講堂に、大河内先生の声が響きます。

「お家の人は、卒業式の主役である君たちの晴れ姿を見に来られる。12年間、育ててもらったことに感謝して、飛びっきりカッコいい姿を見せよう。だから、みんな本気で取り組もう!」

表情が和む子どもたちに、微笑む大河内先生。

「さあ、練習を始めるぞ。今日の目標をクリアできた時点で、練習は終わり。延長はしない!」

「え…。延長しないって、絶対に本当ですか!」

いつも叱られ、居残りを命じられていたユウトやコウジ、ミノルたちが思わず声を上げます。

「約束したことは違えない。だから集中しよう」

はいっ、と大きな声が、響きました。明るい雰囲気が、講堂に少しずつ満ち始めていました。

高杉先生の熱い思い

「凄いな、大河内先生は! 効果抜群ですね」

喜ぶ渡来先生に小さく頷くと、背筋を伸ばして着席する5年を優しい視線で見渡す高杉先生。6年に続き、始まった5年だけの卒業式練習。高杉先生は、ゆっくりと思いを語り始めます。

「先月の送る会では、フォロワーシップを十分発揮できた。児童代表として、卒業式も頑張ろう。6年を元気づけ、勇気づけるために。それから…」

言葉を切る高杉先生に、みんなが注目します。

「この経験を通して次の最高学年としての心構えや、自覚を高めよう。みんなは最高の6年になると先生は思う。だからベストを尽くそう!」 ・・・ポイント3

大きく頷く子どもたち。渡来先生も鬼塚先生も、心の中で一生懸命に拍手をしていました。

ポイント3 【 次世代リーダーの心構え】
「中1ギャップ」と同様、「小6ギャップ」をつくってはなりません。6年生は学校のリーダー。新学期早々から、委員長、部長等のリーダー的役割を担います。また様々な場面で最高学年としての行動が求められます。けれど、直ぐに自覚できるものではありません。5年の「キャリア教育」として、「次世代リーダー」の心構えを体験的に身につけていく指導が必要です。

(次回へ続く)

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