伝える・ぶつかる・創造する 映像制作でICT実践〜森村学園初等部・榎本昇先生の実践例

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小学校にタブレットが普及してきて、最近はカメラ機能とアプリを使って子どもたちが映像作品を作り、クラス内や学校内で共有するという機会も多くなりました。

森村学園初等部(神奈川県横浜市)では、10年以上前から映像制作を授業に取り入れる実践があり、2010年からは、パナソニックの教育支援プログラム「KWN(キッド・ウィットネス・ニュース)」に参加して、子どもたちの作品をコンテストに応募。学校内だけでなく世の中に発信しています。実際に、授業の中でどのように映像制作が進められるのか、テーマ決定から完成までのプロセス、そして子どもたちがそこから何を学んでいるかについて、榎本先生に伺いました。

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2020年、子どもたちが取り組んだテーマは「フラワーロス」

森村学園・榎本先生
榎本昇先生(森村学園初等部教諭)

森村学園初等部の取り組みについては、長年映像制作を指導してきた榎本昇先生による『みらいに、つたえる』(前編)(後編)(2019年4月)というiTeachersTVのプレゼンテーションで紹介されています。

KWNは、パナソニックが1989年にアメリカで始め、現在はいろいろな国で展開する教育支援プログラムです。子どもたちのコミュニケーション力や創造性を高めることを目標に、機材を貸し出したり、ワークショップを行ったりして映像制作を支援し、年に一度コンテストを開催しています。

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森村学園初等部では、2010年からこのプログラムに参加し、ほぼ毎年コンテストに作品を応募してきました。「KWN 日本コンテスト 2020」には、5年生の「桜隠し」という作品をエントリーしました。

この「桜隠し」という作品では、コロナ下で起きたフラワーロス問題を取り上げています。

映像を作るにあたっては、テーマを決めるところから、すべて子どもたち主体で行っています。テーマは、みんなで意見を出し合い、その総意で決まります。私は、見る人が明るい気持ちになったり、前向きになったりするテーマにしようといった提案はしますが、そのほかはすべて子どもたちに任せています。今回私が担当した5年生のチームの「フラワーロス」というテーマは、私からは出ないアイディアでした。

細かい役割分担。決定のプロセスも子どもたち主導

実際の映像制作は、役割分担をして進めます。仕事の種類は、マネジメント系、制作系、調査系に分けられ、プロデューサー、アシスタントディレクター、デスク、脚本、絵コンテ、音楽、クレイ、カメラ、照明、音声、ナレーションなど多岐にわたります。

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誰が何を担当するかは、一人ひとりが自分の希望を出して決めていきます。もちろん人数調整が必要になったりもしますが、それもすべて子どもたちが考えて行います。ここで教員が変に手出しをすると、子どもたちの学ぶ機会を削ぐことになります。もちろん、どうしてもうまくいかないときは、話を聞きアドバイスしますが、子どもたちが決めたことを覆したりすることはありません。

「置かれた場所で咲く」という表現があります。与えられたポジションで経験したことがよい学びにつながる、これがこのプログラムに子どもたちが参加する意義です。最も大事なのは、自分の思い通りにいかなかったとしても、その中で全力を尽くすという経験をすることです。

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このように細かく役割分担すると、成長領域が役割によって違うので、子どもたちの成長が限定的になるのではないかという懸念があるかもしれません。でも、仕事によって身に付く能力が違うことは当然ですし、それは、子どもたちのこれからも続く学びの時間の中で十分に消化できる違いだと思っています。

ロイロノートで各チームの進捗状況を可視化、共有、意見交換

クラスでの映像制作は、総合学習の時間に取り組みました。担当に分かれて10以上のチームがそれぞれ違う教室で作業をしますが、チーム同士が連携して作業を進める必要があるので、毎回ロイロノートを使ってお互いの作業の内容や進捗状況がわかるように共有しました。

ロイロノートでは、まずその日の目標を明確にします。そして作業の様子を撮影して掲載し、最後にその日の作業内容についての自己評価を書くようにしました。

それぞれのチームの状況が可視化できたので、まとめ役のプロデューサーやディレクターが進捗状況を細かくチェックし、必要な調整を行っていました。作業はすべて子どもたちに任せ、私はモチベーションや作業の様子をじっくり観察することができました。

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作業のスケジュール管理も子どもたちが行いますが、チームごとに役割が違うので、「脚本」が完成しないと「絵コンテ」の作成や「音楽」の制作ができないとか、「ナレーション」の仕事がスタートしないといったことも当然起こります。

そんな場合、いつ自分たちに仕事が降ってきても対応できるように、絵コンテ・ナレーション・音楽担当は、自分たちのスキルを高める準備をしていました。また作業が先行しているチームが「こんな感じになりそうです」という情報を共有して、それにあったイメージを考えたり、資料を集めたりすることもできました。

総合学習の時間だけで作業が終わらなければ、休み時間を使ったり、あるいは休日に取材に出かけたりすることもあります。自分たちの作品を作るというワクワク感があり、モチベーションがとても高いので、子どもたちは課外時間の作業にも楽しんで取り組んでいます。

学外の人たちへの取材についても、子どもたちが自分たちで立案・計画します。フラワーロスの問題を扱った「桜隠し」のチームは、取材先はすべて子どもたちが決めました。今回はコロナの問題があったので、交渉のときは私も間に入りましたが、過去の例では、取材交渉が終わってから報告を受けたこともありました。

制作担当のチームが作ったさまざまな映像素材を使って、最後に編集作業を行います。まず、子どもたちがiPadのiMovieを使ってラフな構成を作ります。本番の映像の編集は、主にAdobe Premiere Proなどを使い、私も加わって、子どもたちの意見を逐一聞きながら一緒に編集します。「桜隠し」は、最終バージョンになるまでに、45回もの修正が入りました。

映像制作を通じて子どもたちは何を学ぶのか

主体的に映像制作に関わることによって、子どもたちはさまざまな経験をし、時にはぶつかりあいながらも楽しんで作品を作り上げ、達成感を感じています。私たちが指導目標として掲げる
●情報伝達能力の向上=「伝える」
●役割分担・意見対立の経験=「ぶつかる」
●制作活動による達成感の獲得=「創造する」
は、しっかり達成できていると感じています。

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私は「伝える」というテーマで、10年以上授業の研究に取り組んできました。映像制作に限らず、私の授業は、子どもたちが発表する機会やジグソー法を用いたグループ活動が多いことが特徴です。

では、自分が伝えたいメッセージを、どうしたらしっかり「伝える」ことができるのか。

例えば、私は子どもたちが発表するときには、
「話すときは、伝える相手のことを想像して話すこと」
「スライドは、伝えたいことを絞ってシンプルに構成すること」
「スライドにはあまりことばを入れず、情報を詰め込みすぎないこと」
などのアドバイスをします。

映像作品を作るときも同じで、作業を進めながら「この作品を作ることで、私たちは観る人に何を伝えたいのか?」を常に子どもたちに問いかけています。いろいろな映像表現手段を覚えると、時にはテクニックに溺れてしまうこともありますが、そんなときは「それは本当に伝わる表現になっているの?」と聞きます。また、第三者の意見を聞いて、伝わっているかどうか確認することも大切にしています。

映像制作は役割分担をして進めますし、子どもたち一人ひとり個性も違うので、この経験を通じてみんなが全く同じ成長をするわけではありません。それでも、作品作りに参加することで、小学生でも身の回りのこと、あるいは社会のもっと大きな問題に関わることができ、場合によっては世界を変える力にもなれる、そんな自己肯定感を持つことができます。

映像作品制作で身につけた力や抱いた想いが、未来の自分や世界をいい方向に変えていくきっかけになれば、それはとても嬉しいことだと思っています。

榎本 昇(えのもと・のぼる) 横浜市の私立小学校、森村学園初等部教諭。ICT担当。 Apple Distinguished EducatorとしてApple社に2019年に認定される。またAdobe Creative Educatorとしても2020年に認定される。初等部内ではICT担当として環境整備やiPadの管理などを行うとともに教員への定期的な研修を主宰している。授業実践者としては「伝える」をテーマに2010年よりパナソニック社による教育支援プログラムであるKWNに参加している。

取材・文/石田早苗

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