遠足に弁当をもってきていない子【4年3組学級経営物語5】

5月②「絆づくり」にレッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
新任で4年3組を任されることになった渡来勉先生。 教師になってから初の遠足! しかし、その中でも問題が発生します。だれとも打ち解けず、遠足中も勝手な行動が多い一人の児童。はたして、渡来先生はどう向き合っていくのでしょうか。
目次
<登場人物>

主人公。教職1年目。教師になる熱意に燃えて、西華小学校に赴任。 やる気とパワーは人一倍あるものの、時には突っ走り過ぎるのが玉にキズ。しばしば飛び出す口癖から「トライだ先生」と 呼ばれるようになる。4年3組担任。

教職20年の経験豊富な学年主任。4年1組担任。一見いかついが、 温かく見守りながら的確なアドバイスをしてくれ、 頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。

教職3年目。4年2組担任。新採のトライだ先生を励ましつつも一 歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与 えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。
風雲児にトライだ!
「マリ、一緒に食べよう!」
傍に腰をおろした渡来先生 。
リュックを開け、弁当を取り出しながら、チラリとマリの様子をうかがいます。
「…弁当食べないの?」
先生はリュックをのぞき込み、そして…、驚きの声をあげました。
「ど、どうしたんだ。弁当無いぞ…!」
空のリュックを、じっとにらみ続けるマリ。
見守る渡来先生 。
ジュンたち3組女子も、お箸が止まりました。時間だけが流れていきます。

数分後、大きなため息をつき、マリは右拳を突き出しました。
汗に濡れた五百円玉が1枚、広げた手の平にピカリと光っていました。
「これ…、私の弁当代」
小さな声で呟きます。
昨夜、マリの母親は深夜に帰宅。
今朝は弁当どころか朝食を作る時間もなく、途中のコンビニで自分で買うよう五百円玉を渡されたのです。
「だから…、コンビニへ行こうとしてたのか」
言葉に詰まる渡来先生と3組の女子たち
無理やり、明るく軽い調子で話しかける先生。
「ちょうどいい! 今朝、気合い入れ過ぎて弁当2つも作っちゃって…。1つ食べてくれよ!」
取り出した弁当を、マリの膝の上に置きます。
「いらない! 私のことなんか放っておいて!」 *ポイント1
4年生の児童心理とは
幼児期から少年期への著しい成長が始まる時期です。個人差はありますが、この時期は「考える力」「感じる力」等や、「運動能力」が発達します。できる事が増えますが、自他を客観的に捉えることが、逆に「自信喪失」や「劣等感」につながる場合もあります。さらに、成長の過渡期ゆえの迷いや悩み、心身の成長バランスの崩れ、第二次性徴の始まりなども微妙に関わります。このような変化が、子どもたちの日頃の言動に影響を及ぼしていきます。支援・援助が必要な時期なので、発達的特徴や実態、家庭や地域の影響などをしっかり把握し、適切に指導しましょう。
怒り出すマリの機先を制し、先生は弁当のふたをサッと開けました。
中には卵焼きや、焼肉、タコ型ウインナーなどが見事に並んでいます。
「美味そうだろ。先生、弁当づくりが超得意なんだ。よく一人旅とかするから」
「……」
言い返そうとしたマリのお腹が、その瞬間グゥーッ、グゥーッと派手に鳴りました。
「マリ、一緒に食べよう!」
ジュンが誘います。
「私も一つ欲しいな。トライだ弁当のおかず」
タイミングよく、マリを取り囲む女子たち。
「よかったな、マリ。友達と仲よく食べろよ」
みんなでワイワイ食べながら、表情が和らいでいくマリ。
先生はフラリと立ち上がりました。