教師のためのリフレクション(ふり返り)講座
授業力や学級経営力の向上に欠かせないリフレクション(ふり返り)。教師自身の力を伸ばすリフレクションの方法と併せて、子供たちに指導したい効果的なリフレクションの方法も紹介します。
執筆/栃木県公立小学校教諭・須永吉信
目次
Part1 教師の力を伸ばすリフレクション
「内省・評価」ではなく「心のケア・カウンセリング」と捉える
みなさん、学期末ですね。
最近は職場でも「学期末はリフレクションでPDCAサイクルの検証を……」などと言われるようになりましたが、ただでさえ忙しい学期末に加え、今年はコロナ対策、夏季休業の短縮……と過酷な日々が続き、リフレクションに取り組む余裕などないのが現状かもしれません(かく言う私も疲れています)。
しかし、リフレクションは決して無用の長物ではありません。正しく理解すれば大きな武器になり得ます。そこで、まずはリフレクションの意義から見直していきたいと思います。
ウェブメディア『組織づくりベース』にぴったりくる説明があったので、引用します。
リフレクション(内省)とは、人材育成の分野において「自分自身の仕事や業務から一度離れてみて、仕事の流れや考え方・行動などを客観的にふり返ること」です。失敗しこと・成功したこともすべて含めて見つめ直し、気付きを得て、新たな行動へとつなげる未来志向の方法論です。
『組織づくりベース』コラム「リフレクションとは?人材育成における内省とその効果」 より
リフレクションは「内省」と訳されることから、厳格に自らを査定し、客観的な評価を下さなければならないものと思われがちです。
しかし、この説明にもある通り、リフレクションは決して自分を追い込むためのものではありません。自分を客観的にふり返ることで漠然とした不安を解消し、明日への活力(未来志向)につなげていくためのものです。リフレクションをすることでリフレッシュし、心が前向きになる―そんな心のケア・カウンセリングと捉えてみてはいかがでしょうか。
「やり方」ではなく「あり方」がカギ
リフレクションをしよう!」と言われて、直感的に「仕事が増える……」と感じる人は、リフレクションを少し誤解しているかもしれません。研修や職場では「形にして提出しろ!」と言われるので無理もないのですが、そのような「やり方(形式)」重視のリフレクションは本質から外れていることが多いものです。
なぜなら、リフレクションにおいて最も大切なのは、授業、学級経営、保護者対応……さまざまな行いに対し、適宜適切に(その場その場で柔軟に)ふり返る習慣を身に付けることだからです。
PDCAサイクルで考えてみましょう。帰りの車内で、いつもその日の授業のふり返りをしているA先生がいたとします。
「今日の算数の授業はあまり活気がなかったな(Check)」
「少し一方的に進めてしまったから、話合いを入れた方がいいかもしれないな(Act)」
「よし、明日の授業は立式のところでペアトークをさせてみよう(Plan)」
→ 次の日の授業(Do)
A先生は特別時間を取らず、プリントにもまとめてはいませんが、PDCAサイクルがしっかり身に付いていると言えますよね。
リフレクションも同様で、リフレクションに特別な「やり方(形式・作業時間)」は必要ありません。適切なタイミング、その場に合った方法で適宜行い、思考の「あり方」として日頃から習慣付けていくことが肝要なのです。
私も今は2児の父。とても特別な時間は取れません。放課後の教室、帰りの車中などに、その日の出来事をふり返るようにしています。
重要なポイントは「メタ認知」と「未来志向」
リフレクションの習慣を身に付けるうえで大切なポイントは二つあります。
一つ目は「メタ認知(自己の客観的把握)」です。常日頃から「自分が子供だったら」「自分が保護者だったら」と、他者の視点に立って考える習慣を付けると力が付きます。
また、漠然とした不安を感じるときは、「AがうまくいっていないからBを試してみよう」と、現状を具体的に分析し、代案を立てるようにするとよいでしょう。
二つ目は「未来志向」です。失敗したときに「自分はダメだ」と自分を責めるのではなく、「失敗に気付けたのだから一歩前進!」と、前向きな気持ちを維持することが大切です。
ただ、前向きになろうと決めてなれるのならそんなに楽なことはありません。そこでよく私が使ったのが、先ほど書いた視点の転換です。
例えば、授業がうまくいかなくて落ち込んだとき、私はよく子供の椅子に座り「子供たちは毎日6時間近くこの椅子に座って授業をがんばっているんだよな」と、あれこれ思いを巡らせていました。相手の立場に立つと、自然と自分もがんばろうという気持ちになるのでしょう。それでずいぶんと気持ちが前向きになりました。
定期的なリフレクションは書き込み式がおすすめ
学期末などの定期的なリフレクションは書き込み式がおすすめです。よく5段階別評価などで行うことがありますが、それだけでは不十分です。項目に対する評価はすべて主観に基づいて行われるからです。
リフレクションのポイントは「メタ認知(自己の客観的把握)」なので、「授業に話合いを多く取り入れたか」などの項目に対し、「5」や「3」を付ける根拠が大切になります。この場合なら、「教科書を見返して話合いを実施できた回数を計算する」「実施した話合いの内容や形式を一覧にまとめてみる」などの洗い出し作業を行い、具体性を高める必要があります。
その点、書き込み式は自由に詳しく書き込むことができるので、具体性が高く有効です。私はA3用紙を4分割した表を使っています(下図)。ここには「できたこと」「できなかったこと」「嬉しかったこと」「嫌だったこと」の4項目について書き込みます。
なお、書き込む際はできる限り「+(プラス)」の方が多くなるようにします。人間は悲観的に考える傾向が強いし、当たり前のことに対する感謝を忘れがちでもあるからです。「感情面の書き込みは必要なのか」と思われた方がいるかもしれませんが、人間はロボットではありません。可・不可の判断基準だけでは未来志向など到底抱けません(職場や研修のリフレクションがうまくいかない一因です)。
自分の感情を理解することは大切です。これは隠れたバイアス(偏った見方)の発見にも役立ちます。
例えば、私は一時「嬉しかったこと」に「子供たちが積極的にするあいさつ」と書くことがよくありました。そこから「自分は意外にも礼儀を重んじる面があるんだな。逆に、もしかしたらあいさつしない子に対して自然と冷たくしているかもしれない……」ということに気が付きました。よく思い返してみると、思い当たる場面がいくつも思い浮かび、反省したことを覚えています。感情の理解は、教師としての自分という有機的な(複雑な)構造を解き明かすよい手がかりになるのです。
Part2 学期末の子供たちに有効なリフレクション
リフレクションをさせるのは「なぜか」をよく考える
低学年だと記述式は難しいかな……、3段階評価の方がやりやすいかも……と低学年のリフレクションには気を使います。私もあれこれ時間をかけてプリントを作った経験がありますが、大事なことを忘れてはいないでしょうか。
それは「なぜ(なんのために)リフレクションをやらせるのか」という大前提です。そう考えると「正しく自己評価をさせる」といった目的は低学年にはしっくりこないと気付きます。
私は低学年のリフレクションを「成長を実感し、喜び合う場」としました。目的が決まると自然と方法も決まります。私は下記のようなプリントを作成し、なるべくたくさん書くことを目標としました。
子供たちは「え〜! 20個!」と驚くのですが、そこは先生がお手本を示しましょう。低学年の内容で書くと、子供たちが喜びます。
また、中にはお手本を示しても書けない子がいます。そのときは「お助けタイム」を取り、友達同士でお互いの成長したところを書き合う時間を設けます。「少ない人にたくさん書いてあげよう」と助言すると効果的です。書き上がったら、3〜4人のグループで成長の実感を伝え合う時間を取ります。私は次のルールを設定しました。
- 一人一つずつ発表していく。
- 聞き手は短いほめ言葉(いいね、すごいねなど)を必ず言う。
- 相手の目を見て、笑顔で話し合う。
- (2分の話合いを10セット行うので)積極的にグループを組み替える。
これならば、短い時間でもグループ内の全員が発言でき、なおかつたくさんの友達とグループを組むことができます。たくさんの友達と喜びの共有ができる工夫を心がけましょう。
子供たちの自己評価と教師の評価のズレを見る
学期末には、学校・学年で3段階(5段階)評価の「学習・生活ふり返りシート」に取り組ませると思います。そのときに子供の自己評価の横に、教師の評価を書き込みます (項目一つひとつに書くのは大変なのですが) 。
全員分の書き込みが終わったら、項目ごとに子供たちの点数と教師の点数を総計します(A、B、Cの3段階評価なら、A=3点、B=2点、C=1点とし、項目別に集計していく)。
最後に、項目ごとに子供たちと教師の点数のズレ(差)を見ます。
点数の高低は問題ではありません。子供たちと教師の点数がともに高い項目は成果と言えますし、低い項目は課題と言えます。結果をそのまま受け入れ、次学期に生かせばよいのです。
問題は、子供たちと教師の認識(点数)がズレているところです。このような「ズレ」には二つの原因が考えられます。
① 教師と子供たちの到達目標が一致していない。
② 到達目標に対しての、教師と子供たちの判断基準(評価基準)が一致していない。
①のケースはさほど問題ありません。例えば、「明るいあいさつをした」の項目で、教師は「誰にでも」という目標を立てていたのに対して、子供たちは「先生に」という目標で行動していた場合、教師には「子供たちの自己評価は甘い」と感じられるでしょう。この場合は、目標のズレをていねいにすり合わせれば解決します。
問題は②のケースです。例えば、「友達と仲よく過ごせた」の項目に対し、「C」を付けた子がいたとします。ところが、この子はどの教師から見ても友達に恵まれていて、毎日楽しそうに学校生活を送っていたとします。学校生活アンケートやQU検査でよく見られるケースです。「あの子、あんなに友達がいるのに、悪い評価を付けるのよ」と職員室でもついつい愚痴がこぼれてしまう場面ですが、そもそもこの手の検査やアンケートは、すべて主観に基づいた自己認識をはかるためのものです。あくまで「本人が周りをどう思っているか」を診断するためのものであり、(教師との)判断基準のズレを発見するためのものでもあります。「ていねいに目標を説明しているのにどうもおかしい……」というときは、②のケースを疑いましょう。
結果はそのままにせずに具体策をもって次学期に臨む
一生懸命分析しても、そこで終わってしまっては意味がありません。結果を基に具体策を考え、次学期に生かすことが肝要です。
教師・子供たちいずれも点数の低い箇所は次学期の課題にすればよいでしょう。
点数がズレている場合で、②のケースの場合は、具体的な策が必要です。
例えば、私は「明るいあいさつをした」の項目で大きく点数の差が開いたことがありました。子供たちとは「交通指導員さんや廊下ですれ違った先生にもあいさつをしよう」とていねいに目標をすり合わせていたにもかかわらずです。私はイマイチと思っているのに、子供たちはできていると感じているようでした。
そこで、私は子供たちを体育館に連れて行き、あいさつの実演をしてもらいました。いざ実演すると子供たちは「何か違う」という様子。子供たちが自己評価の甘さに気付いた瞬間でした。もし、私が「その評価じゃ甘い!」と叱っても、大して改善はされなかったでしょう。低学年はまだまだ思い込みの強い時期です。自尊感情や向上心を尊重しつつ、上手に活動を設定してあげるとよいでしょう。
イラスト/高橋正輝
『教育技術 小一小二』2020年12月号より