「スクールロイヤー」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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近年、いじめや不登校、体罰などの様々な問題が複雑化・困難化していますが、このような問題に対して、法律の専門家である弁護士が、法的側面から教育現場に対する相談や助言を行う「スクールロイヤー」の活用が期待されています。今回は「スクールロイヤー」を取り上げます。 

執筆/金沢大学准教授 ・鈴木 瞬

みんなの教育用語

いじめ防止対策や保護者対応への期待

2019年9月には、文部科学大臣が約300人のスクールロイヤーの配置を目指すことを発表したことから、その社会的認知はますます高まっています。

現状では明確な定義のないスクールロイヤーですが、文部科学省のスクールロイヤー活用は、いじめ防止対策に主眼が置かれています。2017~2019年度にかけて実施された「いじめ防止等のためのスクールロイヤー活用に関する調査研究」では、弁護士が、専門的知識・経験に基づいて、法的側面からいじめ防止対策等にかかわることを目的としています。特に、「法的側面からのいじめ予防教育」や「学校における法的相談への対応」「法令に基づく(いじめ問題への)対応の徹底」が挙げられ、それらを通して、効率的な諸課題の解決に資する相談体制の整備が目指されています。

また、中央教育審議会の2019年の答申「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」等では、保護者や地域からの要望に対応するために、弁護士の活用が想定されています。学校への過剰な苦情や不当な要求等への対応においてスクールロイヤーを活用することで、教員の負担軽減を図り、業務の効率化を目指すものです。

このように、国の政策では、スクールロイヤーの導入は、いじめ防止対策や保護者対応を通じて教員の業務効率化・負担軽減を目指すことが目的とされています。

「子どもの最善の利益」の保障

一方、スクールロイヤーの導入にあたって先駆的な取り組みをしている教育委員会や日本弁護士連合会は、スクールロイヤーの導入にあたっては「子どもの最善の利益」を保障することが肝要であるとしています。

日本弁護士連合会が2018年に文部科学大臣に提出した「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」では、「学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉等の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士」を活用する制度を構築するよう求めています。

スクールロイヤーは、学校側の代理人となって対外的な活動を行うことを主とする顧問弁護士とは異なり、裁判になってからかかわるのではなく、トラブルが予測されそうな段階から学校内部において適切な指導・助言を行うことが期待されているのです。 

しかし、学校設置者の委託を受けて紛争解決にあたるスクールロイヤーが、弁護士としての「利益相反行為」に抵触することなく、子どもを擁護し最善の利益を保障した解決を行うことは容易ではありません。

よりよい制度設計に向けて

スクールロイヤーは自治体の顧問弁護士とは違って、法的観点のみの助言に留まらず、教育現場の実情に応じた相談や助言を行うことがその存在意義といえます。教育現場における複雑な利害関係を伴う紛争の解決には、日常的・継続的に児童生徒や保護者と接する教員の目線に立って相談や助言を行う姿勢が必要です。それがなければ、教員の負担軽減といった制度趣旨にも沿わないものとなってしまいます。

しかし、現在のスクールロイヤーの勤務形態として最も多いのは、教育委員会を介して委任されるなどして、弁護士事務所で相談者の相談を受ける形式です。この形式は、予算運営上、比較的導入しやすいものの、学校現場の声を直接聴くことができません。

これに対して、教育委員会の職員として雇用されて特定の学校に配置される形態や、教員を兼務した「学校内弁護士」という形態は、教育現場に日常的かつ直接関与する機会が多く、教員との信頼関係を構築し、児童生徒や保護者の実態把握も可能であり、スクールロイヤーの理念を最も体現しやすい形式として期待されます。

このような形態は、弁護士という専門職を含むチーム学校を構築する視点からも望ましいものです。特に、教員と弁護士双方の立場から教育現場に関与する学校内弁護士の形態であれば、子どもと最も近い立場で活動し、適切な法的支援を行うための正確な事実関係の把握が可能となるとともに、学校組織文化の特殊性を理解し、教育紛争の予防に貢献することができます。しかし、教員である以上、校長の監督下で職務を担当しなければならないため、弁護士としての独立性や第三者性は著しく後退せざるを得ません。

スクールロイヤー制度については、「子どもの最善の利益」を保障することを核としつつも、その理念実現と実質的な制度設計との間でまだまだ課題が多い状況です。各地で取り組まれている先行事例の成果を踏まえ、よりよい制度に練り上げていくことが期待されます。

▼参考文献
石坂浩・鬼澤秀昌編著『実践事例からみるスクールロイヤーの実務』2020年、日本法令
神内聡『スクールロイヤー―学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170』2018年、日本加除出版
神内聡『学校弁護士―スクールロイヤーが見た教育現場』2020年、KADOKAWA
ストップいじめ!ナビスクールロイヤーチーム編『スクールロイヤーにできること』2019年、日本評論社

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