「スクールリーダーシップ」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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校長や教頭などは一般的に「管理職」と呼ばれています。しかし近年では、「スクールリーダー」と表現する自治体も増えてきました。背景には、教育環境が複雑化しますますきびしくなりつつある今日、行政の指示や国の方針に従うだけの学校経営・運営では柔軟で機動力のある対応ができないという認識があるからでしょう。そこで、今回の教育用語は「スクールリーダーシップ」を取り上げます。

執筆/東京学芸大学准教授・末松裕基

みんなの教育用語

「プレイヤー」から「マネージャー」へ

従来、教育界では「教える」という仕事を担う「プレイヤー」としての教員の育成に比重がおかれ、その目的は達成されてきました。

一方、学校の「経営(マネジメント)」は、教職員を指導しながら、よりよい学校を運営していくための専門的な能力を必要とします。“名選手、名監督にあらず”と言われるように、プレイヤーが必ずしもマネージャー(スクールリーダー)になれるわけではありません。スクールリーダーになるためには、経営能力やリーダーシップを学習によって身に付ける必要があります。他の教職員と関わり合いながら、幅広い多様な視点を形成していかなければならないのです。つまり、「プレイヤー」から「マネージャー」になるためには能力の「開発」が必要になります。

このような前提のもと、1990年代より、よいスクールリーダーをどのようにしたら育てることができるかについて世界的に議論が行われてきました。

スクールリーダーシップの開発

OECDは早くからスクールリーダーシップに注目しており、2008年にその概念を整理し、次のように説明しています。

「校長職というあり方(principalship)の概念は、一人の個人が組織全体に対する主たる責任を負う学校教育の産業モデルに根差している。リーダーシップは、組織を導く権限が一人の個人にのみ存在するのではなく、学校内外の様々な人に分有されうるとする、より広い概念である。」

この提言などをもとに、スクールリーダーシップの開発において重要となるのは、
①リーダーシップは校長に限定されたものではなく広く分散されるべきこと
②教師のキャリアの各段階においてその育成が必要なこと
③幅広い学習方法を活用すること
④個人だけではなくリーダーシップ・チームのための育成プログラムが必要になること
という方針が世界的に確認されるようになってきています。

日本はどのような状況にあるか

日本でも、2008年に、管理職候補者をはじめとする指導的役割を果たし得るスクールリーダーの養成を目的とした教職大学院が設置されました。

また、2013年10月、教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議(文部科学省)の「大学院段階の教員養成の改革と充実等について(報告)」において、スクールリーダー養成の必要性が次のように述べられました。

困難な課題に学校が組織として適切に対応するために、学校の管理職をはじめ、学校現場でリーダーとしての役割を果たせる教員の養成が喫緊の課題となっている。

スクールリーダーには、学校現場が直面する諸課題について、構造的・総合的な理解を共有し、担当する教科・学年・学校種以外との関連を広く見据えながら、学校内や地域においてリーダーシップを発揮し、メンターとして若手教員の指導・相談に当たることが求められる。

ただし、日本の学校では現在、経験豊富な教員が大量に退職し、経験の浅い教員が大量に誕生しています。50歳代や20歳代が比較的多い一方で、30歳代、40歳代の中堅層が手薄となっているなど、組織運営にとってはいびつな年齢構成になっています。個々人のキャリアと学校や地域の課題を見越した計画的なスクールリーダーの育成が課題となっています。

教員の資質能力の向上は、養成段階よりも、採用後、現場における実践の中でOJTを通じて、先輩教員から新人教員へと知識・技能が伝承される側面が強かったのですが、今後はさらにその伝承の困難化が予想されます。

大量の新人教員と少数の中堅教員からなる教員集団をまとめていくためには、これまで以上に、組織的で計画的な教育活動と学校経営が不可欠であり、リーダーシップとマネジメント能力が求められています。

スクールリーダーを育てるために

このような状況を受けて、2017年4月には、教育公務員特例法等が一部改正され、教員養成・研修を計画・実施する際の基軸となるものとして、教員の育成指標が教育委員会と大学等の連携により各自治体で策定されることになりました。教員育成指標は、高度専門職業人として教職キャリア全体を俯瞰しつつ、教員がキャリアステージに応じて身に付けるべき資質や能力を明確化することになります。

教員のキャリアや資質能力を指標化することには、教員像の平板化や単純化の恐れもありますが、「指標は、画一的な教員像を求めるものではなく、全教員に求められる基礎的、基本的な資質能力を確保し、各教員の長所や個性の伸長を図るものとする」と育成指標策定の留意事項が述べられています(文部科学大臣指針、2017年3月)。つまり、育成指標は、人事評価を主たる目的としたものではなく、教員の成長の方向性や目安を示すものとして活用されることが期待されています。

このような指標を校内研修などとうまくリンクさせながら、今後のスクールリーダー育成のあり方が構想される必要があります。

▼参考文献
小島弘道・淵上克義・露口健司『スクールリーダーシップ』学文社、2010年
OECD編著・有本昌弘監訳『スクールリーダーシップ―教職改革のための政策と実践』明石書店、2009年
篠原清昭編『世界の学校管理職養成』ジダイ社、2017年
NITS 教職員支援機構・平成30年度全国調査「育成協議会の設置と育成指標・研修計画の作成に関する調査研究プロジェクト(プロジェクトA-a)」
NITS 教職員支援機構・平成30年度・育成協議会の設置と育成指標・研修計画の作成に関する調査研究プロジェクト報告書 『育成指標の機能と活用』 2019年

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