休校明けの荒れないクラスづくり|今こそ対話を大事にする
一年中「荒れのない」学級にするには、担任と子供、そして子供同士の対話が何より大切です。コロナ禍の中でも可能な「対話」の方法を考え、実行していきましょう。
執筆/宮崎県公立小学校指導教諭・肥後裕二郎
目次
担任と子供そして子供同士の対話が何より大切
私は落ち着いて学べる学級をつくるうえで、キーワードになるのは対話だと思います。それは学習指導要領が求める、学習上の「対話」のことではありません。
担任である私と子供たち、子供同士がごく日常の対話を通して、信頼関係を築くのが大切だということです。
私は仕事を家に持ち帰らず、朝早く学校に来て教室で行うようにしていますが、そうすると、朝最初に入ってくる子から最後にやってくる子まで、すべての子供とあいさつをすることができます。
そのときに朝何を食べてきたとか、昨日の晩は何をやっていたとか、ごく他愛もない日常の話をするのです。(※1)
また朝の健康観察も一人ひとりの席を回って行い、健康の確認だけでなく、ごく日常的な会話をします。
もちろん全員を回るわけですから、30秒もかけない短いものです。
私自身は一日に全然話をしない子をつくらないようにしようと始めたことですが、そのような話をする場を意図的につくっていくと、好きな食べ物とか、好きなサッカーチームとか、好きな音楽、好きなゲームなど、必ずどの子とも趣味が重なることがあり、話が膨らむ瞬間があります。それらは必ずメモして記憶していくのです。
さらに学期に1回、シークレットタイムと言って、子供たちを呼んで二人で話をする時間をつくっています。休み時間や昼休みなどの時間を使い、一日3〜4人ずつ1週間程度の期間で全員と話をするのです。
もちろん、そのような少し時間のある場では、子供たちの話を聴くだけでなく、自分自身の趣味や経験などについても話をしていきます。
さらに給食の時間にも、毎日二人ずつ教卓に呼んで、3人で話をしながら食べています。そのような機会を通し、学習に関わらないごく日常の話をしていくのです。(※2)
学級づくりを進めるには、まず先生と子供の対話が大切だと思いますが、同時に子供同士の対話の場面をつくることも大切です。
子供たちはたとえ単学級の学校であっても、意外に友達のことをよく知らないことがあります。そこで月曜日の朝にペアトークを行うなどします。
例えば「前の日にどんなことをして過ごしたか、隣同士で話をしてください」と言い、トーク後には聞いた側の子に、ペアの相手が何をしたかを発表してみんなに伝えてもらうのです。
それは人の話を聞く練習にもなって学習にも生きるのですが、「この子はこんな趣味があるんだ」「こんなおもしろいお父さんなんだ」と分かることでつながりができてきます。
それ以外にも自然に対話ができるように、玄関の靴箱や教室のロッカーなどを出席番号順にせず、ランダムに変えていくことで、違う子と出会う場面ができてきます。
いわば席替えと同様なのですが、そこで多様な子と出会い、自然に対話が生まれるようにしています。
学級を落ち着かせるために、管理することで荒れないようにする先生も少なくないと思います。しかし、内面的なつながりができていないと、いくら管理をしてもトラブルが起こることはあるのです。
だからこそ、まず互いに理解を深めることが大切だと思います。
そうした子供同士の信頼関係があると、「先生、ここが分からない」と安心して言うことができます。
それは対話を通して学習を深めるうえでも重要な基盤となるものです。
ちなみに保護者間でも対話をもってもらうために、私は保護者の交換日記をしています。例えば「どんな大人になってほしいですか」といった質問を私から出し、出席番号順に保護者に書いていただくのです。それは他の保護者がどんな思いをもっているのか知っていただくためのもので、私は意見を書きません。
また保護者会でも「子育てで悩んでいることは何ですか?」などの質問を出し、KJ法(※3)でカテゴライズしていくと、「同じような悩みをもっている人がいるんだな」と感じ、保護者同士の対話を深めるきっかけになったりしています。
(※1)(※2) 組織を機能させるためには、組織の目的となること以外の、一見冗長な情報が大切だという研究もあります。
(※3) KJ法…アイデアや情報をグループ化して整理しまとめていく手法。発案者の川喜田二郎氏のイニシャルからネーミングされた。
今こそ先生自身のありようが問われている
本県では分散登校の期間、子供たちがA、B、2グループに分かれ、交替で登校していました。
そのときにAの子たちにはBの子たちに向け、Bの子たちからも逆に、メッセージを黒板に書いてもらうようにしかけていました。そういう取り組みを通して、学級をつなげていこうと考えているのです。
もちろん再開に向けた取り組みの中では制約もあり、対話も形を変えないと難しい部分はあるけれど、それも考えればいろんな方法が見えるような気がします。
私はこういう時期だからこそ先生自身のありようが問われている気がします。
やらなければならない内容が多いからと、3密を避けることを言いわけにして、対話をしない授業づくりすら可能になってしまいそうな雰囲気が見えています。それでは、学習指導要領の実現は難しくなります。
もちろん先生自身にもストレスがあるし、そのメンタリティーも大きく影響してくるでしょう。しかしこんな時期だからこそ、ある程度、自分のコップの水を空けておくことが大切だと思います。
その余裕がないと、学習指導要領が求める「主体的・対話的で深い学び」も、机上の空論になってしまいます。
繰り返しになってしまいますが、今だからこそ、あえて心に余裕をもって対話を大事にする。それが今、求められる力を育むうえでの、重要な入り口になるような気がします。
取材・文/矢ノ浦勝之 イラスト/山本郁子
『教育技術 小三小四』2020年7/8月号より