海外コロナ休校中の家庭学習事情《イタリア編》

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緊急事態宣言の解除をうけ、日本では多くの学校で6月から学校教育が再開されました。分散登校、体育館での授業、教室の換気等、感染予防を考慮しながらの学校運営が模索されていますが、海外の学校では、いまどのような方策がとられているのでしょうか。イタリアの学校教育についてのリポートをご紹介します。

タブレットを使って学習する子ども

突然の休校、そして訪れた混乱

イタリア・フィレンツェ在住ライターの佐藤モカです。3月5日に全国の学校が休校してから、3か月ほどが経過したイタリア。日常生活は少しずつ規制解除に向かっていますが、学校は9月の新年度まで休校になることが決定しました。

中部イタリア・フィレンツェ市の公立校に通う娘は、昨年9月に小学一年生になったばかり。入学から半年経ってようやく学校に慣れてきた頃に、突然直面した休校でした。

休校宣言が発令されたのは前日の夜のことだったので、教科書などの持ち物もすべて学校に置いたまま。まずはクラスごとに家庭学習に必要な教科書やノートのリストが作られ、それらを取りに行けるよう2日間限定で学校の門が開かれました。リストの教材だけでは足りない場合は出版社が公開しているデジタル教科書を使い、各家庭でプリントアウトして使っています。

出版社が公開している筆記体練習帳
出版社が公開している筆記体練習帳

イタリアではもともと、学習環境のデジタル化があまり進んでいませんでした。中学に入ると公立学校でも1人1台、iPadが支給されるのですが、小学校はまだまだアナログ。教師と保護者の連絡も手書きの「連絡帳」がメインで、一応学校のホームページはあるものの、ほぼ使われていない状態でした。

連絡帳が使えないため先生との通信手段がなく、結局、休校前から保護者間の連絡ツールとして使われていたWhatsAppという無料アプリのグループチャットに、保護者代表を通じて先生からの指示が送られてくるようになりました。

WhatsAppとは日本のLINEのような無料通話アプリで、近年ではクラスの連絡網のかわりにこのアプリのグループチャットを使っています。原則として教師は保護者の代表1名としか個人的な連絡先を交換できないので、先生からの連絡はすべて代表者を通じて転送される形になります。

手探りから始まった自宅学習

娘の通う公立小学校では、1クラス20名前後の児童に対し2名の担任の先生と、必要に応じた数の補助教員が付いています。

休校後は前代未聞の事態に学校側も対応が行き届かず、共通の指針などもないまますべては担任の先生に一任されることになりました。その結果、教科ごとの先生の個性がそのまま反映される形になり、熱心に毎日宿題を出す先生もいれば、何日も音沙汰がないままの先生もいます。

宿題の分量や内容も、最初のうちは多すぎたり難しすぎたり。保護者側も課題にアクセスできなかったり、プリンターがなくて印刷できなかったりとトラブル続きでした。

しかしそのつど、保護者たちで話し合い、互いに情報交換したり、必要があれば意見をまとめて先生に伝えることで、徐々に改善されていきました。

こうして、休校から2〜3週間ほどの期間がかかりましたが、コロナ禍における保護者間のつながりや、先生方とのコミュニケーションがゆっくりと確立されていきました。

教育の現場は学校から家庭へ

自宅学習に学校と同じレベルの内容を求めれば、親も子もキャパシティを越えてしまいます。すでに習った項目の復習をするだけではないので、夏休みの宿題を家でこなすのとはわけが違います。両親の仕事やきょうだいの有無など、それぞれの家に事情があり、勉強できる時間帯やかかる時間もバラバラです。特に低学年の子どもたちは、集中の度合いが周囲の環境に大きく左右されてしまいます。

我々保護者にとって幸いだったのは、早い段階で先生方に問題点を伝えたことで、それぞれの先生が学校と家庭は違うのだという認識を改めて持って、生活に配慮してくれるようになったことでした。

宿題の提出期限に余裕をもたせること、週末は連絡を控えることなど、互いのプライベートを尊重することも自宅学習に欠かせない配慮の一つです。

すべての家庭の希望を叶えるのは不可能ですが、現場で指導に当たる保護者たちの声に素直に耳を傾けてくれたことが、双方のコミュニケーションの質をぐっと上げてくれました。

実際に指導に当たるのは各家庭の保護者ですが、担任の先生方は全体を見ながら課題を出すスーパーバイザー的存在になり、課題の内容にも緩急がつくようになってきました。

Google Classroomの活用

休校からしばらく経って、Googleが提供する学校向けサービスGoogle Classroom用の個人アカウントが学校から各家庭に配付され、その日の宿題をスマホやタブレットのアプリ上で確認できるようになりました。

Googole Classroomのホーム画面
Googole Classroomのホーム画面

他の小学校に通う保護者たちに話を聞いてみても、やはり休校要請から3週間ほどでGoogle Classroomを導入した学校が多かったようです。

Classroomを使うようになって最もよかったことは、それまでは教師から一方通行だった連絡が双方向に変わったことです。課題の提出もアプリ上で済むようになり、子どもからの質問などもいちいち保護者代表を通さず直接先生に送れるようになりました。

プリントや、担任の先生の授業動画はもちろん、pdfファイルやサイトのリンクなどもアップすることができるので、宿題のバリエーションが増えました。

記入済みの宿題を撮影してアプリで送信
記入済みの宿題を撮影してアプリで送信

宿題は毎日出されますが、課題の提出は週に一度です。毎週金曜日に提出用課題が出され、保護者は火曜日までに写真を撮ってアップします。フィードバックや児童への個別メッセージも、コメント欄から確認できます。

タブレットを使った家庭学習の様子
タブレットを使った家庭学習の様子

家庭学習の義務化を受け、Classroomアプリ上で1日に1回出欠をとるようになりました。出欠といっても決まった時間にとる必要はなく、その日の朝から15時までの間に「出席」にチェックを入れて送信するだけという簡単なものです。

Meetを使ったオンライン学級会

Google Classroom用のアカウントが配布されたことにより、同社が提供するビデオ通信サービスMeetも使えるようになりました。これを使ってオンライン授業を行っている学校も多いと聞きますが、子どもたちのクラスでは20名以上が同時にビデオ通話すると画面が重くなりすぎて授業が成立しませんでした。

そのため、ビデオ通話は授業に使うのではなく、1か月に1〜2回の頻度で行う学級会の時間に使っています。先生以外はマイクをオフに設定し、当てられた子どもだけがオンにして回答します。久しぶりに同級生たちの顔を見ることができて、どの子もとても嬉しそう。1時間ほどの他愛ないおしゃべりですが、環境の変化と孤独に耐える子どもたちにとっては貴重な時間です。

勉強が楽しくなる課題の数々

自宅学習だからこそ活用できる教材もたくさんあります。YouTubeの学習動画などもその一つです。

娘のクラスでとても好評だったのは、インターネット上で無料公開されているゲームでした。正しい答えをもぐら叩きのように早打ちするゲームや、指示通りにコマを動かしてゴールを目指す迷路など、クラスメートと得点を競うこともできます。

答えが10になる式だけを早打ちする算数ゲーム
答えが10になる式だけを早打ちする算数ゲーム

時には、先生手作りの教材を使うこともありました。

中でも「モンスター作りコンテスト」は、子どもたちが喜んだ課題の一つです。表に体、目、能力などモンスターの各要素が書かれており、サイコロを振って出た数の部品を使ってモンスターを作り上げます。一番怖いモンスターの絵を描けた子が優勝! ということで、どの子も張り切って取り組みました。

モンスター作りコンテストの表
モンスター作りコンテストの表

イタリア語の先生はこの機会に本を好きになれるようにと、毎週1回イタリア児童文学の巨匠ジャンニ・ロダーリの小説を自ら音読した録音ファイルを送ってくれました。2か月間かけて一冊の長編小説を読むという気の長い試みでしたが、多くの子どもたちが心待ちにするようになりました。

配慮を欠いた宿題の出し方で失敗した例も

保護者と良好な関係を築き上げた先生がいる一方で、反感を買ってしまった先生もいます。

休校になってからというもの多くの先生方が温かいメッセージを送ってきてくれたにもかかわらず、宗教の先生からは長い間一切の連絡がありませんでした。それが突然、大量の宿題を送ってきたかと思うと、提出期限は翌日だというのです。しかも宿題が届いたのは、土曜日の深夜25時。その後も宗教の先生は毎週土曜日の深夜に宿題を出すようになり、とうとう「睡眠の邪魔になる」「非常識だ」と保護者からの不満が爆発しました。

話し合いの結果、宗教の先生は保護者のスマホを深夜に鳴らしているという認識がなかったこと、自宅学習と学校との違いに思い至らなかったことなどを謝罪してくれましたが、その後連絡が途絶えてしまいました。

思いやりと感謝の気持ちが大切

実際に体験してみてイタリアらしいなと思ったのは、先生方が「会えない間もみんなのことを思っているよ」「大好きだよ」と愛情たっぷりのメッセージを惜しみなく発信してくれることでした。そして、保護者に対しても「皆さんの協力があるからこそ成り立つ自宅学習です。ありがとう」と必ず感謝の言葉を添えてくれます。

保護者たちも、いざ自分が教える立場になったからこそわかる先生方の苦労などを垣間見ることができました。Google Classroomの公開コメント欄には、保護者から先生に向けた感謝の言葉もたくさん並んでいます。

これまで、学校と家庭とは二つの分断された世界でしたが、今では教師と保護者は一つのチームなのです。互いの仕事に敬意を払い、感謝すること。愛情や感謝は言葉にして伝えること。そんな当たり前のことが今までできていなかったことに気づかされました。

イタリアの学校はICT化という点においては発展途上国といえますが、人と人とのコミュニケーションの力と、「まずやってみて、ダメなら方向転換する!」という柔軟さが強みなのだと、今回改めて実感しました。

新年度が始まる9月、子どもたちが笑顔で学校に戻っていけるように、「アモーレ(愛)」の国イタリアの自宅学習は、まだまだ続きます。

佐藤モカ(海外書き人クラブ/イタリア在住ライター)

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