ICT授業づくり、教材が決められない! 【5年3組学級経営物語5】
通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、渡来先生がICT教育に初チャレンジします。
ICTは、子どもたちが学習に主体的、探究的に取り組むための便利なツール。目標や必要感に基づく教師の適切な指導が、有効な活用を実現させることができます。自信が無くても、できる事から一歩一歩! さあ、教育の未来を拓くICT教育に、レッツトライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
6月①「ICT教育」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。
「ICT授業したい!」子供の声に応えられるか!?
円が2つの半円になり、上下に離れ、扇形に細分化。バラバラになったピースが再び近づき、デコボコな長方形のような形にまとまって…。
「デジタル教材『円の面積』だ。プロセスを具体化、可視化し理解を促す。…興味があるのか?」
タブレットを操作しながら、怪訝そうに問う鬼塚学先生。横で見ているのは、真剣な表情の渡来勉先生です。
「早く覚えたいんで。教えてください!」
放課後の2組教室。迷惑そうな顔の鬼塚先生。
「自分で覚えろ。オレは忙しいんだ。頼るな!」
「そう言わずに、お願いしますよ! 実は昨日…」
渡来先生は、昨日の出来事を語り始めました。
昨日の休憩時、教室で小テストを採点中の渡来先生に、ハジメが訴えてきたのです。。
「アクセスポイントになったよね、この教室も。2組はICT授業をガンガンやってるのに、3組は全然…。早くトライしてほしいです!」
近くにいた子どもたちも、大きく頷きます。
「さすがに時代遅れ。…先生ってもしかして、メカ音痴?」
サキの辛辣な指摘に、ドキッとする渡来先生。
「いや、そんな訳では…。3組でもトライするよ…」
しどろもどろで答える渡来先生は、校内ICT研修会での講師の言葉を思い出しました。講師は鬼塚先生、ICT教育の主任です。
『食わず嫌いは禁物…、ICTは使って覚える。気負わずに、できる事から始めればいいのです』
ICT、何から始めればいいか分からない!
「…VR活用が歴史への興味を高める。数値を打ち込むことで様々なグラフや図形を簡単に表す。デジタルドリル活用で、学習状況に応じた個別最適化の学びが実現。…こんな感じだな」…ポイント1
今日も鬼塚先生のICT講義です。熱心にメモを取る渡来先生に、困り果てた顔で鬼塚先生が告げます。
「このへんで解放してくれ…、オレ、忙しいんだ」
「ピタッとした教材が、まだ見つからなくて…」
渡来先生が謝っている時、2組のドアが開き、高杉静先生が現れました。
「最近、仲良くなったな…、授業の相談か?」
と2人に話しかける高杉先生。
「ICT授業を始めたいんですが…、何から始めるか全然決まらなくて…。鬼塚先生のご指導を…」
「本当に世話が焼けるよ。…早く決めてくれよ!」
機嫌が悪そうな鬼塚先生に、頭を掻く渡来先生。少し考えていた高杉先生が意見を述べました。
「ICTありきで考えるからだ…。授業づくりは、指導目標や教育課題から構想するのが本筋。自分の教育の原点、目標を思い出せばいいんだ」…ポイント2
本質的な指摘に、敏感に反応する渡来先生。
「最重要課題は、協力し合い、よりよい学級をつくる。そんな子どもたちを育てることでした」
「適した教材を、明日までに見つけてほしい。私は帰るぞ…、お迎えの時間だからな」
返答を待たずに立ち去る高杉先生。その後ろ姿に、鬼塚先生はお手上げポーズを取りました。
ポイント1【個別最適化の学び】
これまで一斉指導や画一化された教材では得られなかった「一人一人の子どもに最も適した学び」は、「未来の教室(2018,経産省)」、「Society5.0に向けた人材育成(2018,文科省)」に示されたように、ICTで実現が図られています。個々の学習傾向や運動や文化活動等のデータをICT機器で収集・分析する。そして、その結果を教師が活用して各々に「最適化」した学びを提供します。
例えば、デジタルドリルでは各々の習熟状況に即した算数の問題等を自動配信し、ヒントの提供や答え合わせ等で支援しながら子どものペースにあわせた学習の機会をつくり出します。
ポイント2【ICTと授業づくり】
ICT(Information and Communication Technology)の急激な発達が、我々の生活を変えつつあります。教育においても、遠隔授業や会議を可能とする通信技術、多種多様な情報の蓄積や処理、デジタル教材やVRの活用、等々が次々に開発・導入されています。また、AI(Artificial Intelligence)の進化により、ICTのさらなる発展が予測されます。
これからは、「情報を記憶する力」よりも「それを分析し活用する力」が求められています。そして、「必要な情報を収集・分析して、自己の目標達成に役立てられる子どもの育成」が教師の大きな仕事になります。それが実現できる「授業づくり」の工夫、実践が求められています。
鬼塚 教育情報化主任、本領発揮!
翌日、放課後のパソコンルーム。机上には大量の説明書や実践集、モニター画面にはデジタル教材。鬼塚先生が、疲れた顔で口を開きました。
「オレの全てだ。ピタッとくるのを探してくれ」
「口では面倒くさがっていても、後輩のためにこれだけの教材を集めるとは…。見直したぞ」
大量の教材に、鬼塚先生を褒める高杉先生。
「オレはただ、ICTの良さを伝えたいだけで…」
満更でもない鬼塚先生。暫くして、モニター画面に見入る渡来先生が、興味深そうに尋ねました。
「この天気予報みたいなのは…、何ですか?」
「ああ…、それは『心の天気』。各自がその日の気持ちを天気マークで表すんだ。晴れは気分爽快、曇りは少しブルー、雨はもっとブルー、雷は怒りや悲しみだ。子どもたちがタブレット画面のマークを毎日押す。そのデータを教師が蓄積・分析して、個別指導や集団育成に有効活用する」 …ポイント3
鬼塚先生の説明をじっと聞いていた渡来先生が、画面を睨んできっぱり言いました。
「これだ! これですよ。ピタッときました!」
そして二人の方を向き、宣言をしました。
「『心の天気』で、学級活動にトライします!」
ポイント3【心の天気】
EDUCOMが開発したシステムで、子どもが今の気持ちを天気の記号(晴れ、曇り、雨、雷)に例えて記録しデータ化していくことにより、今まで気づくことが難しかった心の変化を「見える化」します。このデータを教師集団が共有することで、一人一人の子どもを見守り必要に応じて声をかけたり、保護者と共有したりして課題解決に役立てることが可能になります。また、出欠や保健室入室等の各種情報とクロス分析すれば、より多角的な分析ができます。
(次回へ続く)