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【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯19 進学・進級の4月に意識したい「啐啄同時」のアプローチ

連載
令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ
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元北海道公立中学校教諭

千葉孝司
【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ バナー

近年の子どもたちと昭和型学校システムとのミスマッチを要因とした令和型不登校への対応を、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案する好評連載、今回のテーマは、「心機一転の4月に、不登校の子どもにどう関わっていくのか?」です。

執筆&イラスト/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)

今回の相談事例

中学1年生担任からの相談(架空事例)です。

小学校時代に不登校だった生徒を受け持つことになりました。本人は入学式には参加できませんでしたが、その後に保護者の方と面談を行いました。保護者の方は「心機一転頑張ってほしい。きっかけがないだけだと思うので、どんどん学校に誘ってほしい」とおっしゃっています。家庭では、生徒はあまり話をせず、何を考えているのか分からない状況だそうです。
今度、家庭訪問をする予定になっていますが、保護者の願いどおり積極的に誘っても、本人に気持ちがなければ、かえって会いにくくなるのではないかと感じています。一方で、表面的な言葉だけを伝えても保護者の納得にはつながらず、小学校時代と変わらない関わりになってしまうのではないかという不安もあります。どのように関わっていくのがよいか、アドバイスをいただけますと幸いです。 (40代女性)

「行く」と「行かない」の二択にしない

進級や進学をきっかけに、もしかしたら登校できるようになるかもしれない。保護者の方がそんな期待を抱くのは自然なことです。でも、そっと見守ってきたけれど、実際には動けない子どもの姿を見ると、

「やっぱり背中を押すべきだったのではないか」
「でも、自分が言っても今までは効果がなかったし……」

そんな思いが交錯するのもよく分かります。

そうなると、どうしても“新しい担任の先生なら何とかしてくれるのでは”という期待が向けられます。

しかし、その期待をそのまま実行してしまうと、今度は担任が保護者と同じように空回りしてしまい、結果的に効果が出ないことも、これまでの経験から分かっているわけです。

だからこそ、「さて、どうしたものか」と悩むのは当然のことです。

子どもの気持ち、保護者の願い、先生の役割――その間で揺れるのは、むしろ自然なことです。
三者の関係を図にすると次のようになります。

担任、保護者、子ども、それぞれの思いを示したイメージ図

 

担任がどちらか一方に寄りすぎないでいるから、保護者、子どもと等距離でいられます。もし保護者の思いを優先するなら、次の図のようになります。

「保護者の思いを優先すると、子どもにとってどう感じられるか」を示したイメージ図

 

特に、保護者と同世代の女性の先生は、子どもにとって“母親の仲間”のように感じられることがあります。その場合、子どもは先生に心を開かないようにすることが、自分を守るための手段になることがあります。先生が関係をつくろうとしても、子どもがそうした防衛の姿勢をとっている限り、状況を大きく変えることは難しくなります。

イラスト1・保護者と同世代の女性の先生は、子どもにとって“母親の仲間”のように感じられる

大切なのは、「行く」「行かない」という二択だけで関わり方を考えないことです。そのどちらにも偏らない、第三の役割を担う存在になることが重要です。 

子どもに伝えたいこと

家庭訪問の際には、子どもに会えない可能性も想定しておきます。そのために、担任の自己紹介を載せた通信と、次の約束や担任としての役割を書いたカードを準備しておきます。直接会えなくても、「担任はこういう立場で、こういう関わり方をする人だ」というメッセージを確実に届けることができます。

4月以降の関わり方の方針を保護者に伝える通信の例

直接会えた場合は、次のようなことを伝えます。

「はじめまして。私はあなたのクラスの担任になりました◎◎です。自己紹介はこれに書いてあるから読んでくれるとうれしいです。あなたは大切な私のクラスの生徒ですから、どこにいても大切に思っています。私の役割はこのカードに書いてあります。次は〇月〇日の〇時に来ます。そのときに〇〇さんの好きなことやしてみたいことを教えてね。質問もOKだよ。今日は会えてうれしかったよ。ありがとう。またね」

最初の出会いは欲張らず、この程度で止めておきます。

「学校においでって誘わない」という宣言には、多くの先生が抵抗を感じると思います。しかし、子どもが安心するためには、これくらい明確に伝えることが大切なのです。もちろん、保護者にその趣旨を伝えておくことも必要です。

「この先生は今までと違うかもしれない」
「この先生なら力になってもらえるかも」

そう思ってもらえることが、最初の一歩になります。

もちろん、“誘わない”と言っても、子どもが「行ってみようかな」と言ったときに止めるわけではありません(笑)

保護者に伝えたいこと

後で保護者の方が読み返したり、ご家庭で共有したりできるように、関わり方の方針を通信の形でまとめておくことも大切です。文章として残しておくことで、担任の意図が誤解なく伝わり、お子さんを支える方向性を家庭と学校で共有しやすくなります。

〈通信例〉

お子さんの進級・進学は、新しい環境に踏み出す大きな節目です。
「この機会に登校できるようになるかもしれない」
そんな期待を抱かれるのは、とても自然なことです。
一方で、実際には朝になると動けなかったり、気持ちが追いつかなかったりする姿を見ると、
「もっと背中を押すべきだったのでは」
「自分が言っても動かなかったし、どうしたらいいのか…」
と悩まれることもあると思います。
私たちは、こうした思いを大切に受け止めながら、“啐啄同時(そったくどうじ)”という考え方を大切にしていこうと思っています。
啐啄同時とは、ひな鳥が内側から殻をつつくタイミングと、親鳥が外側からつつくタイミングが一致したときに、命が生まれるという喩えです。
教育も同じで、子どもが「少し動いてみようかな」と感じる内側の準備と、大人が外側から支えるタイミングが合ったときに、最も自然な一歩が生まれます。
そのため、担任は「行く・行かない」の二択だけで関わるのではなく、第三の役割として、“子どもが内側から動きたくなる準備を整える存在” でありたいと考えています。
負担の少ない接点を積み重ねながら、「この先生なら大丈夫」と感じてもらえる関係づくりを大切にします。保護者の皆さまには、「行けたら行こうね」「あなたのペースで大丈夫だよ」という安心できる声かけを続けていただけると、お子さんの“内側の準備”が整いやすくなります。
私たち学校と保護者の皆さまが、お子さんのペースを尊重しながら、その“タイミングが重なる瞬間”を一緒に待ち、支えていければと思っています。

4月の保護者との会話例

教師  中学校に進学していかがですか?
保護者 進学したら変わるかもと思っていたんですが、やっぱり朝になると起きてこなくて……。先生から誘ってもらえたら、ひょっとしたら行くんじゃないかと思っているんです。
教師  そのお気持ち、とてもよく分かります。
保護者 はい。私が言っても効き目がないので、先生にお願いできたらと思うんです。
教師  きっと、さんざん言ってきて、それでも効果がなかったらそう思いますよね。でも、学校が強く誘って、それでも効果がないということも考えられますよね。
保護者 それはそうですよね。
教師  そうなると単にお子さんにとってはプレッシャーを与えてくる人が増えただけで、余計に閉じこもってしまいます。
保護者 そうですね。でもこのままにしておくわけにもいかないので…。
教師  そのお気持ちはよくわかります。私は“啐啄同時”という考え方を大事にしています。ひな鳥が孵るときに内側からひな鳥がつついて、同時に外側から親鳥もつつき、そのタイミングが一致した時に命が生まれる、という意味の言葉です。子ども自身が内側から「少し動いてみようかな」と感じた瞬間と、大人が外側から支えるタイミングが合ったときに、一番力が出るのだと思っています。
保護者 でも、その“内側からの動き”が見えないから心配で…。
教師  そうですよね。だからこそ、私は“殻の外側から温める”ような関わりを大切にしたいと思っています。今の状態で無理に登校を促してしまうと、私はお子さんにとって「安全ではない人」になってしまいます。そうならないためにも、まずは家庭訪問で顔を見せたり、手紙やオンラインでつながったりといった、負担の少ない方法で関係を築いていきたいと考えています。
保護者 やっぱり、そこからするしかないんですかねえ…。
教師  急がば回れで、それが最短距離なのかもしれませんよ。
保護者 そうですよね。
教師  物足りないかもしれませんが、無理に殻を割るのではなく、温めていけたらいいなと思います。いつか子どもが内側からつつきたくなるタイミングが来ると思います。そのときに相談にのってもらえるような関係ができたらいいなと思っています。
保護者 わかりました。よろしくお願いいたします。

イラスト2・内側から殻を割る子どものイメージイラスト

 イラスト/千葉孝司
この連載は、原則として月に1回の更新予定です。

<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。

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