改訂のキーマンに聞いた!学習指導要領改訂に備えて現場教師が「今」やれることは?【後編】
今、学習指導要領の改訂に向けて、中教審の各ワーキンググループで期待と熱を帯びた議論が進んでいます。探究的で深い学びの実装、子供たちの多様化、そして深刻な教員の業務負担。山積する課題を前に、次なる改訂は何を目指し、学校の日常をどう変えるのでしょうか。
本記事では、文部科学省で改訂の舵取りを担う武藤久慶氏に、検討中の次期指導要領が企図する「変化とねらい」について解説していただきます。注目は、授業時間を生み出し、学校独自のカリキュラム編成を可能にする「調整授業時数制度」の全校導入や、不登校の子供たちへの柔軟な評価、さらには「デジタル化」される指導要領の構想です。現場教師に対しては、改訂を待たずに「明日からでも取り組めること」があると、武藤氏は語ります。

武藤久慶(むとう・ひさよし)
文部科学省 初等中等教育局 教育課程課長。2000年文部省(現文部科学省)入省。教育課程企画室、人事院長期在外研究員(ハーバード教育大学院、ボストンカレッジTIMSS&PERLSセンター客員研究員)等を経て、北海道教育庁へ4年間出向(教育政策課長、義務教育課長、学校教育局次長)。その後、教育制度改革室室長補佐、高等教育局企画官、高等教育政策室長、大学入試改革実行PT担当企画官、初等中等教育局企画官、学校デジタル化PTチームリーダー、就学支援・教材課長、デジタル庁参事官などを経て、2024年4月より現職に就任。次期学習指導要領改訂の舵取り役として検討を進めている。
前編はこちら:
改訂のキーマンに聞いた!次期学習指導要領で何が変わる? 現場教師が「今」やれることは?【前編】
目次
学習指導要領の「構造化」で本質的な理解への導きを
――学習指導要領を「分かりやすく使いやすいものにする」という方向性が打ち出されていますが、具体的に教師がイメージできるように教えていただけますか?
学習指導要領そのものの記述についても、抜本的な見直しを行います。その肝となるのは「構造化」です。
現行の学習指導要領は、個別の知識・技能が並列的に記載されている部分があり、ともすれば「これを一つずつ教えればいい」という表層的な理解に陥りがちです。
例えば、関数を例にとれば、比例・反比例、一次方程式といった個別の知識があります。しかし、関数を学ぶ一番の醍醐味は「ともなって変わる数との関係を捉えれば、わからない数が予測できるようになる」という統合的な理解にあります。この「統合的な理解」と「個別の知識」の関係性が、今の学習指導要領ではパッと見て分かりにくいと感じます。
つまり、この単元を通じて子供をどこまで引き上げたいかという大きなくくり、例えば「関数を使えばわからない数字がわかるようになる」というところまで持っていきたいと先生方がしっかり認識して、比例・反比例を教えたり、一次方程式を教えたり、できるようにしたいわけです。それが一目でわかるような書き方に変えていきます。
今はそういう学習指導要領の書き方になっていませんから、そのことが教科書の内容にも影響を与えていると思います。やはり教材は大事ですから、主たる教材である教科書の改善は非常に大事だと思っています。それを導くような学習指導要領や解説にしていく必要があると思っています。そのために学習指導要領の「構造化」を行うのです。それはつまり、より大事なものを明確にしていく、ということです。より大事なものを導くのに必要な個別の知識・技能は何かを明確にしていく中で、必要に応じた教育内容の精選に も取り組んでいこうと考えています。
使いやすさを目指したデジタル化への挑戦
――(デジタル化にあたって)従来のような冊子版やPDFのようなものとはどう違うのでしょうか?
「学習指導要領をもっとわかりやすく、使いやすくしてほしい」という声を多くの先生方からいただきました。そこで完全デジタル化をするつもりです。今はPDFになっていて、解説は別にありますが、次の学習指導要領では、解説も含め、全部をデジタルプラットフォーム上に置きます。そして、例えば学習指導要領の本体と解説が左右で対称になって画面の中に出てくるような形にします。
例えば、算数の「数と計算」という領域であれば、そこを見ると小学校の1年から6年までの知識・技能の指導内容が一覧に並んで出てくる、そういう機能も持たせたいと思います。また、教科横断的な指導もやりやすくします。例えば、小学4年生の担任の先生が「季節」をテーマに教科横断的に授業をしたいときには、「季節」という言葉で検索をかけたら、小学4年の季節に関わる部分が全部出てくるようにすることも考えています。
さらに、皆さんが使っている指導書に学習指導要領へのQRコードをつけていただいて、指導書から一気に学習指導要領と解説へ跳べるようにしたいとも思っています。そうすれば、個々の単元の指導をしているときに、「そもそも何のためにやっているんだっけ?」と思ったら、簡単に学習指導要領に戻れるようになります。例えばNHK for Schoolなどにも、「学習指導要領のこの部分に最もフィットする動画はこれ」という形で、学習指導要領から動画へ一気に行けるようにすることも考えています。(※実際の機能実装の可否についてはNHKと交渉中)
――学習指導要領のデジタル化において、AIも絡んでくるのでしょうか?
完全デジタルにすれば、生成AIにも読み込ませやすくなります。例えば、学習指導要領を生成AIに読み込ませて、そこから指導案のたたき台を生成することも可能になるでしょう。マシンに読ませて活用可能にすること、人間が読みやすいものにすること、それらの両方を兼ね備えたものに進化させたいと考えています。そうすれば、「小学校3年の教育課程の中で、教科横断で授業を行うとしたら、どんなアイデアがありますか」などと生成AIに聞いてみることもできます。そういうことをやりやすいようなものにしていきたいと思っています。
一方で、「表形式」といって、並列のものは表に入れて示し、読みやすく、あらかじめある程度整理されて、先生たちの目に入ってくる、そういうふうにもしていきたいと思います。

