青山新吾インタビュー「次期学習指導要領が目指す新しいインクルーシブの形」

次期学習指導要領に向けて、様々なワーキンググループがつくられ、議論が重ねられています。そこで今回、特別支援教育ワーキンググループ委員を務める青山新吾先生にインタビュー。
特別支援教育ワーキンググループでの議論から、今後求められるインクルーシブ教育の形と、教員のあり方について探ります。通常学級担任、特別支援学級担任はもちろん、管理職も必読の内容です。
目次
すべての教育課程の中心に「多様性の包摂」を据える
――特別支援教育ワーキンググループの委員として、様々な議論をされていることと思います。次期学習指導要領に向けて、何がどのように変わろうとしているのでしょうか。
青山 論点整理でも提示されましたが、特別支援教育に限らず、すべての教育課程において、三つの柱の一つとして「多様性の包摂」が位置付けられました。これはとても重要なメッセージだと思います。特別支援教育の文脈の中で、「多様性の包摂」を考えるのはある意味、当たり前と言えます。しかし今回は、特別支援教育を含む、すべての教育課程を考えていくときに、その中心に「多様性の包摂」を置くとしたことが画期的なのです。
そう考えると、特別支援教育の中だけで議論をしていくのではなく、各教科のワーキンググループや特別活動ワーキングループなどと連動・連携した議論になっていくかどうかが大きなポイントのような気がします。 例えば、学会レベルでは、この10年、15年の間に、学級経営と特別支援教育の視点を結び付けていく動きはものすごく進みました。ただし、現行の学習指導要領の中では、学級経営と特別支援教育の連動ということは示されていません。

特別支援教育ワーキンググループでいま議論されている「重層的な指導・支援」(図1参照)では、その第1層として「学級・集団づくり」の重要性を位置付けることが提案されています。このことが、特別活動ワーキンググループとも連動しながら議論が進んで、特別活動の中でも示されることが大切だと感じます。
これは一例ですけれど、このように、各ワーキンググループと連動した議論のうえで、次期学習指導要領が取りまとめられるならば、「多様性の包摂」が、全国の学校現場に大きく波及していくのではないかと思っています。

――ということは、次期学習指導要領下では、これまでの教育に「特別な指導・支援」を重ねる(追加する)のではなく、通常の教育で「子供たちの多様性を包摂する」=インクルーシブ教育の方向に変化させていくことになる、という理解でよいでしょうか。
青山 先進的に、通常学級においても「多様性の包摂」という視点をもって取り組まれている先生方や学校にとっては、特に新しい提案ではないかもしれません。しかし、全国のどこの地域でもどこの学校でもそれがスタンダードになっているかと言われると、そうではないと思います。
ですから、先進的にやってきた先生方や学校は、その視点を大切にしながらさらに進めていくことになるでしょうし、そうでなかった先生方や学校にとっては、「多様性の包摂」は特別支援教育だけのものではないという新しい発想のもと、指導・支援を積み上げていくことになるのではないかと予想します。
自立活動は、通常学級においても重要な視点となる
――次期学習指導要領がそのようになったと仮定すると、通常学級の担任はどんなことに注意しながら、学級経営や授業づくりをしていく必要がありますか。
青山 特別支援教育ワーキンググループの中で議論している「重層的な指導・支援」の第1層では、「学習者主体の授業づくり」や「学級・集団づくり」の重要性を提起しています。そして、これまでも、特別支援教育の視点を取り入れて、多くの子供たちに分かりやすい授業を展開していくためのアイデアは、多くの先生方やメディアから提案されています。これまでそういう視点にあまり関心がなかった先生であれば、目の前の子供たちを見ながら、そうした指導・支援を丁寧に取り入れていくことが考えられると思います。
例えば、ユニバーサルデザインの授業なのだから、子供たちへの刺激がなくなるように掲示物をすべてなくした教室環境がいいとか、できるだけ説明をせずに視覚的なものを多用した方がいいとか、ともすれば、アイデアレベルで取り組まれていることもあるように感じます。でも、それは、学習者主体の授業づくりではなく、教師の教えやすさ視点による発想と言えるのではないでしょうか。
学習者視点に立つこととは、例えば、視覚的なものを提示すれば、その子は分かりやすそうだから、自分のペースで絵や写真などを確認できるようにICTを併用する。教室環境については、掲示物を全てなくすのではなく、子供の学びにくさの要因となるところに対して環境を調整するといったことです。すべての学校現場において、「学習者主体の授業づくり」が大切な考え方として浸透していけばよいなと思っています。
――学級担任は「学習者主体の授業づくり」や「学級・集団づくり」を考えながら、それでも困難さを抱える子には「通常の教育課程の中で個別的な対応」をしていくことになります。困難さの要因に目を向けた工夫や手当て、合理的配慮の提供といったことが挙げられていますが、やるべきことはとても多岐にわたります。通常学級で個別対応をするときのポイントは何ですか?
青山 今のご質問は、「重層的な支援・指導」の第2層についてですね。この部分は、具体的に誰がどこでどう指導・支援するのかということが分かりにくいかもしれません。
これは私見になりますが、まず大切なのは、教師が一人一人の困難さの背景を見ようとするマインドセットをもつことだと思います。
そのうえで、具体的な指導・支援として、既存の特別支援教育の体制整備の中にあったものと結び付けること。例えば、校内委員会を使って丁寧にケース会議を行うとか、外部の相談機関と連携したり、特別支援学校のセンター的機能を活用したりすることなども考えられます。
それから、もう一つ大事なのは、授業の中でどんな支援をするかを考える以前に、その子供の本質的な困難さに丁寧に視点を当てたうえで、個別的な指導・支援を考えていかなければならないということです。
学校生活において多くの時間を占めるのが授業です。そのため、先生方は、授業の中でどのように子供を指導・支援するかということに意識が向きやすいように思います。学級担任が1人だけで、各教科の授業一つ一つについて個別的な対応をするのは難しいことだと思います。
ここに関連しそうなのが、特別支援教育の中の重要な領域である「自立活動」です。今後、自立活動の領域をどのように捉えて、どのように指導をしていくことがよいのかという議論が行われている真っ最中です。
大雑把に説明すると、国語が、算数がといった各論の話ではなく、一人一人の子供を丁寧に捉え、その課題を整理し、個別の指導計画に落とし込みながら育てていきましょうということ。
通常学級における指導には、自立活動という領域はありません。ですからこれまでは、通常学級においては参考にする程度だったのが実情です。
ところが、自立活動は、通常学級で個別的な対応をする際においても重要な視点なのです。自立活動についての議論が、今後通常学級とも連動したものになっていくのか、大いに注目しているところです。もし、自立活動の考え方が通常学級にも波及していったら、「重層的な指導・支援」の第1層と第2層がよりスムーズにつながっていくのではないでしょうか。
それから、自立活動の論点の一つに、障害の個人モデル(※1)から自立活動の指導を組み立てるという発想が強すぎるのではないかという意見が、私を含めて複数の委員から出ています。
この子の課題はこうだと言うけれども、じつは学級集団であったり学校の決まりであったり、包摂性の高低などの環境要因によってその子の課題の強弱は変化します。つまり、自立活動に、障害の社会モデル(※2)の視点を入れていく必要があるということです。
※1「障害の個人モデル」…障害は、個人の心身機能に原因があるとする考え方。「障害の医学モデル」とも言う。
※2「障害の社会モデル」…社会の環境やあり方が障害を生んでおり、障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるとする考え方。
そうしなければ、この子は自己調整能力が低いからとか、すべての課題が本人のせいになってしまいますよね。例えば、授業中にずっと座っていられない子がいます。その子は一斉授業では、落ち着かない子と見られる一方で、子供同士の対話を重視する授業では、積極的にコミュニケーションする子だと評価される場合もあります。
残念ながら、今の自立活動の指導計画は、障害の社会モデルを反映した構成にはなっていません。しかしながら、そういう視点が必要だという意見が複数の委員から出されていて、議論を継続しているところです。
大きな方向性としては、障害の社会モデルを基に捉える必要がある一方、個としての子供の課題を丁寧に見たときに、「それは世の中が悪いんだよ」というだけでは済まないこともあります。そう捉えただけでは、その子の課題は解決していないわけですから。
それゆえ、個の思いや願いに寄せていくという考え方も重要です。現行の教育制度において、個の思いや願いを実現するための指導・支援は、特別の教育課程の中でやることになっています。「重層的な指導・支援」の第3層と第4層ですね。
しかし、その子の願いを実現していくための手段が、常に場を変えて、特別の教育課程を編成することだけではないはずです。つまり、議論しなければならないのは、特別の教育課程は場を変えなければ機能しないのか。言い換えれば、個の願いを実現したいと考えている子供にとって必要な教育を、場を変える以外の方法で実現することはできないのか。
次期学習指導要領でどのようになるかは分かりませんが、今後10年、20年という長いスパンで見たときに、ここの議論が、インクルーシブ教育を実現するための重要なポイントになるのではないかと考えています。
特別支援教育ワーキンググループではなく、全体の教育課程部会から、授業時数の柔軟な配分を可能にする「調整授業時間数制度」というものが提案されています。そして、この4月から先取り研究校で実装研究を始める、という猛烈なスピード感で進められています。
個別的な対応を考えるときに、特別支援教育の議論だけでなく、柔軟に教育課程を組むといった発想も必要だろうと思います。

