現行学習指導要領にある「生きて働く」を実装することが重要【次期学習指導要領「改訂への道」#32】

前回は、中央教育審議会の総則・評価特別部会の副主査である石井英真准教授(京都大学)に、資質・能力の三層構造やそれらの質の違いなどについて説明していただきました。今回は、次期学習指導要領をより深く理解する上で必要な、3つの資質・能力と知の三層構造についてさらに深く整理、解説していただきます。
目次
全国学力・学習状況調査でも「使える」レベルを問う問題が出される
前回、知識や思考の三層構造や質のお話をしましたが、それらは一体的なものです。例えば、事実的知識なら覚えるわけですし、概念であれば理解するわけで思考が働いています。そのため、知識の側からも思考の側からも整理をして記述することができます。学力テストや評価方法をつくる枠組みであれば、「記憶する」「理解する」「活用する」といった具合に、思考のタイプで整理したほうがわかりやすいのですが、カリキュラムをつくるのであれば、内容を伴うため、知識の質、知の構造からつくったほうがよいと考えられますし、例えばカナダのブリティッシュ・コロンビア州の整理もそのようなタイプです。
ここでポイントになるのは、大きな問いを追究する中で多様な知識やスキルを結集する、吸い上げていく発想です。例えば、歴史で「日本の近代化」を考えるときに、教科書をめくり直しながら、日本の近代化で文明開化などを見直し、年表も調べ、先に学んだ西洋の近代化をも見直し、多様な知識やスキルを総合的に発揮しながら「日本の近代化」の特徴という大きな問いに挑戦していくわけです。それは「総合する」と言われる思考で、そこを大事にしましょうということです。
どんな学習活動であっても、そのように知識と思考と態度の育ちがセットであるのです。例えば、百ます計算は知識・技能を育てるものだと思われがちですが、そこで育つものには、計算技能という知識・技能だけでなく、それを正確に実行できるというスキルがあり、できた喜び・自己効力感があります。つまり百ます計算の学習にも3点セットがあるわけです。
一方で活用型と言われているものには、思考のほうにばかり目が行きがちですが、知識がまったくないわけではありません。より大きなその教科らしいものの見方や考え方のもとで、多様な知識を結集しながら問題解決を行うわけです。しかし、習得型の学習はどうしても知識面が意識されがちですし、活用型の学習はプロセスばかりが意識されがちになっていました。
資料1 従来の四観点の評価実践の傾向

そのため現行学習指導要領以前の四観点における評価では、知識・技能であれば「知っている・できる」レベルの知識が意識されていましたし、思考・判断・表現であれば「わかる」レベルの解釈や関連付け、比較・分類などが意識されていたわけです(資料1参照)。しかし、思考・判断・表現も「使える」レベルを求めるのであれば、知識のタイプもよりメタな、一般的なものにしておかなければ、目指す思考とミスマッチが生じてしまうのです。
加えて四観点から現行の三観点になったとき、知識・技能も思考・判断・表現も、より高次なほうへ寄ってきているのです(資料2参照)。それが、求められる学びの姿や目標、学力観のイメージなのです。
資料2 新しい評価実践の方向性

実際に全国学力・学習状況調査のような評価問題でも、思考・判断・表現であれば「使える」レベルを問う問題が出されています。しかし、授業などにおいては、知識のタイプとしては個別の事実のような知識に傾斜しがちであるため、ミスマッチが生じるのです。歴史における年号のような個別の事実には思考は働きませんから、思考の必然性を生むために知識のタイプをよりメタな知識にしていくことが必要なのです。
ですから、学習指導要領の目標・内容については、より概括的で大きな概念に焦点化することが必要ですし、それによって縦の系統性がより明確になると同時に、複合的で総合的な使えるレベルの思考を重視することになります。数学であれば、一次関数、二次関数よりも、関数というメタなもので整理すると、学習全体もスパイラルにつながっていくのです。小学校の先生にとっては、このように内容の系統性が分かるようになることが重要なポイントと言えるでしょう。
一方、中学校や高校の先生にとっては大きめの問いが扱えるようになることがポイントでしょう。「明治維新とは何か?」よりも「日本の近代化とは何か?」、さらには「近代とは何か?」というくらい大胆なメタな問いにすることで、多様な知識を総合して問題解決することで、より高次な思考へとせり上がっていくのです。
次の学習指導要領には、そのように縦で系統が見えるということと、よりメタな内容を扱うことで思考がせり上がるという両方の機能があるわけです。
