寒い冬を、虫たちはどんなふうに乗り越えているのだろう?
春から夏にかけて、あんなにさまざまな虫たちでにぎやかだった野山は、冬になるとすっかり寂しく、生命感がほとんど感じられなくなってしまいますね。暖かい春を迎え、私たちの眼の前に再び現れるまで、虫たちはどんなふうに過ごしていると思いますか? 今回は、みなさんに馴染み深い虫たちの越冬する姿をご紹介したいと思います。なかなか外に出づらいこの季節、教室での子どもたちとの話題に活用していただけたら嬉しいです。
【連載】モンタ先生の自然はともだち #31
執筆/森田弘文
目次
冬の虫たちはどうしているのだろうか?

冬は、昆虫たちにとって大変厳しい季節です。昆虫は変温動物なので、気温が下がってくると体温が低下し、満足に動けなくなってしまいます。さらに、身体の水分を失いやすい昆虫にとって、冬場の乾燥は深刻です。気温より乾燥のほうが、昆虫にとっては大問題だと言われています。
そこで虫たちは無駄なエネルギーを使わず、なるべく安定した環境で冬を越えようとするのですが、その方法は種によってさまざまです。
新しい世代に命をつなぐ種がほとんどで、卵や幼虫、あるいはさなぎの状態で越冬しますが、中には成虫でも冬を越えられる種もあったります。
卵の姿で世代交代し、越冬する虫たち
まずは、卵の状態で越冬するタイプをご紹介します。冬の野山を歩いていると、枯草の茎や木の枝に茶色でスポンジ状、あるいは薄茶色の発泡スチロールのようなものがついているのをよく見かけますが、これらはカマキリの「卵のう」と呼ばれるものです。
最もよく見かけるのはオオカマキリで、それ以外にもハラビロカマキリやコカマキリなどの卵のうがよく見られます。カマキリの仲間は、日本には10種ほどおり、どれも卵のうの中で越冬します。
卵のうには冬の寒さや乾燥から卵を守るだけでなく、雨水の侵入などを防ぐ役目もあるようです。卵のうの中にはバナナのような形をした卵が200個以上も入っています。春になり、気温が20度程度になってくると、ある日突然、一斉に孵化します。ほんの数ミリ程度の、成虫そっくりの姿をした極小の幼虫がワラワラとはい出してくる様は、命への感動の念を呼び起こしつつもホラーチックで必見ですが、なかなかその瞬間に立ち会うことができません。

また、おなじみのバッタたち、トノサマバッタやショウリョウバッタなどは、土の中にバナナのような曲がった形の卵をたくさん産み付けます。しかも、地面から5センチほどの深い場所に産み付けるため、自然環境で見つけるのはとても難しいです。カマキリと同様、春になると成虫に近い姿で生まれてきますよ。

さなぎの状態で越冬するアゲハやモンシロチョウ

モンシロチョウやアゲハチョウなどは、成虫の寿命がだいたい2週間程度しかありません。そのため1年間のうちに数回、特に春から秋にかけて世代交代をします。この中で、夏に成虫になるものを夏型、春に成虫になるものを春型と呼びます。春型は、前年の秋頃に卵から生まれ、さなぎとなって越冬します。環境に合わせた保護色をまとうので、夏のさなぎが緑の葉に似た緑色をしていることが多いのに対し、越冬するさなぎは枯れ葉や枯れ木の色に似た茶色をしていることが多いのが特徴です。
さなぎは裏庭のブロック塀や、家の軒下や網戸等、体を隠し固定できるいろいろな場所にぶら下がっています。モンシロチョウのさなぎはキャベツやダイコン、コマツナと言った幼虫が好むアブラナ科の植物の近くにある建物や畑の枯れ木など。モンキチョウはシロツメクサやエンドウ、アズキなどのマメ科の植物の近く。アゲハチョウ・クロアゲハのさなぎは幼虫の食草であるミカンやサンショウ、ハッサク、レモンなどミカン科の樹の付近にいることが多いです。チョウは人間の生活圏で共存するかのように生きていることが多いので、比較的見つけやすいのではないかと思います。
成虫で冬を越す長命の虫も



ごく一部ではありますが、寿命が長く、成虫のまま越冬できるタイプの虫もいます。みなさんも、冬の暖かい日に活動している虫をご覧になったことがあるでしょう。
チョウの仲間でも、キタテハやテングチョウなどは1年近く生き、成虫で越冬します。
一般的なイメージ通り短命なキリギリスですが、その仲間のクビキリギスは例外的に長寿で、1回の越冬は余裕です。過去にはなんと2回越冬した個体もあるそうなので驚きです。
ちなみにクビキリギスは非常に顎の力が強く、ものを噛んだ状態で無理に引き離そうとすると首がとれてしまうことから、その名がついたと言われています。

成虫で越冬する虫たちは、ふだん安定した環境で隠れるように過ごしています。落ち葉の下や石の下、土の中、朽木の中、木の皮の下などを探すことがポイントです。アリやダンゴムシ(昆虫ではありませんが)などは石の下によくいるので、すぐに見つけることができます。マツの倒木などでは、スズメバチの女王やタマムシの仲間など。さらに、コナラやクヌギの朽木では、コクワガタの成虫やオサムシ類に出会えたりします。
また、テントウムシは集団で越冬することが多く、煙突や建物の壁、窓の枠部分などに、たくさんのテントウムシ(ナミテントウ)が身を寄せ合っています。

カブトムシやオオムラサキの幼虫探しをしよう!
幼虫で越冬する代表的な昆虫と言えば、子どもたちが大好きなカブトムシです。人が入ってこないような雑木林の、柔らかい朽木と落ち葉が集まっているような場所によくいます。手で触るとポロポロ崩れるような朽木のある場所を探してみてください。筆者も自宅近くでたくさんの幼虫をゲットしたことがあります。

さらに見つけやすくて楽しいのが、オオムラサキの幼虫です。雑木林の、エノキの高木の下、落ち葉の多いところを探せば、比較的簡単に見つけられます。

筆者は同じ日にエノキを数カ所探し歩き、合計で287頭のオオムラサキの幼虫を確認しました。ある大きなエノキの木の下では、80頭もの幼虫を確認することができ、とても驚き感動したことを覚えています。もちろん、採集が目的ではないので、オオムラサキの幼虫探しの作業は、確認し数を記録するだけに留め、また元の状態にしておきました。
最近は、同じ仲間のアカボシゴマダラが増えてきているので、簡単に見つけられると思います。エノキの木がある場所で、その落葉を一枚一枚丁寧にめくりながら探すと、必ずゲットできると思います。
参考文献
原色蝶類検索図鑑 1990年/猪又敏男/北隆館
写真/森田弘文

森田弘文(もりたひろふみ)
ナチュラリスト。元東京都公立小学校校長。公立小学校での教職歴は38年。東京都教育研究員・教員研究生を経て、兵庫教育大学大学院自然系理科専攻で修士学位取得。教員時代の約20数年間に執筆した「モンタ博士の自然だよりシリーズ」の総数は約2000編以上に至る。2024年3月まで日本女子大学非常勤講師。その他、東京都小学校理科教育研究会夏季研修会(植物)、八王子市生涯学習センター主催「市民自由講座」、よみうりカルチャーセンター「親子でわくわく理科実験・観察(植物編・昆虫編)」、日野市社会教育センター「モンタ博士のわくわくドキドキ しぜん探検LABO」、あきる野市公民館主催「親子自然観察会」、区市理科教育研修会、理科・総合学習の校内研究会等の講師を担当。著書として、新八王子市史自然編(植物調査執筆等担当)、理科教育関係の指導書数冊。趣味は山登り・里山歩き・街歩き、植物の種子採集(現在約500種)、貝殻採集、星空観察、植物学名ラテン語学習、読書、マラソン、ズンバ、家庭菜園等。公式ホームページはこちら。
