暖かな春を待ち望む木々たちの姿を観察してみよう~冬芽のあれこれ~
みなさんは、春に木々はどんなふうに芽吹くと思いますか?
枝から新しい芽を出して、それが葉になったり、花になったり…という姿をイメージされる方も多いのではないでしょうか。それは半分正解です! 新芽(しんめ)と言って、春になると新しく生えてくるものがあります。この他にも、冬芽(ふゆめ・とうが)と言って、枝先で越冬する芽もあるんですよ。
目立たないものですが、よく観察してみると興味深いです。今回は、暖かな春を待ち望みつつ、冬芽を観察して冬の自然を子どもたちと手軽に楽しむ方法をご紹介したいと思います。
【連載】モンタ先生の自然はともだち #31
執筆/森田弘文
目次
街路樹や庭の木々たちは…

冬になると多くの木々たちが葉を落とし、いかにも寂しげな景色になってしまいますが、よーく見てみると、植物たちは一生懸命に生命の営みを続けています。枝の先々には、来たるべき春のために冬芽をつけているんですよ。
冬芽とは
冬芽とは、来たるべき春に花を咲かせたり、葉を茂らせたりするための、越冬用の芽のことです。花となる花芽(かが)と、葉になる(ようが)に分かれていることが多いです(中にはふたつが一緒になっているものもあります)。みなさんもよく目にされるツバキを例にしてみましょう。

冬芽には、花や葉っぱのもとが入っています

冬芽の特徴は、その中に花や葉っぱとなる部位の原型を、すでにしっかりと持っていることにあります。ツバキの花芽の断面図を見てみると、頑丈な組織の中に、花が小さく小さく折りたたまれて入っているのが分かりますね。
これに対して新芽は硬い組織をもたず、柔らかい芽がいきなり伸びてきます。
冬芽とひと口に言っても、実は花になる芽と葉になる芽はあらかじめ決まっています。それぞれを、花芽(かが)と葉芽(ようが)と言い、一般論として花芽は葉芽に比べて大きかったり、特徴的な形をしています。本記事では花芽の写真を掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。
身近な樹の冬芽あれこれ
ここからは、身近な木々の冬芽をご紹介します。種によってさまざまな特徴があります。開花したときや実をつけたときの様子も併せてご覧ください。
【1】イチョウ
イチョウは落葉する前から、写真のように小さな冬芽をつけます。春に向けてゆっくり生長し、サトイモのような見た目になります。日本に元々あった樹であるかのようですが、実は中国原産です。イチョウの特徴的な形の葉は、芽吹きの頃から同じ形のまま大きくなります。みなさんもぜひ、春に葉をつけたイチョウを見に行ってみてください。ミニサイズでとても可愛いです。


【2】ケヤキ
秋になると葉が深紅に色づく、紅葉を代表する樹の一つですね。冬芽は8~10枚くらいの芽鱗につつまれていて、先端が尖っているのが特徴です。高木なので、冬芽を見た人はあまりいないと思います。落ちてきた枝についてないかどうか、見てみましょう。


【3】ハナミズキ
白やピンクの可憐な花をたくさん咲かせ、たいへん美しいので、街路樹などとしてもよく植えられています。じつはアメリカ原産の花木なんですよ。花芽は写真のように平べったい半円形の特徴的な形です。葉芽は、円錐形で細長い形をしているので、比べてみると、その違いはとてもよく分かります。


【4】トチノキ
とても大きな冬芽で、10枚くらいの芽鱗で覆われています。春になると、ユニークな形の美しい花を咲かせます。何といっても、この冬芽の特徴は、ベトベトした樹脂が全体を覆っているところにあります。一度自分の手で触って直接体験してみると楽しいでしょう。また、秋に生るトチノミの中には、クリそっくりのタネが入っていますが、たいへん渋いです。食べるときはしっかりアク抜きをしましょう。


【5】ウメ
1月下旬には早咲きのウメが花を咲かせ、芳香を漂わせます。花芽と葉芽の違いは、その大きさと色です。花芽は大きく芽鱗は赤褐色で、葉芽は小さく濃い褐色で、円錐形をしています。写真には2つの花芽が左右に見えます。


【6】カエデ(モミジ)
紅葉の王様といえる美しい植物ですね。葉がうちわのように広がった形をしたものをモミジ、カエルの手のようになっているものをカエデと呼びますが、両方とも同じカエデ属の仲間です。写真のように左右同じ所から、同じような色・形の冬芽が左右2つずつ並んび(対生)ます。その姿は、寒さに身を寄せ合う双子のようですね。


【7】コナラ
子どもたちに大人気のドングリをたくさん提供してくれる樹の一つです。冬芽を見た人はあまりいないのではないでしょうか。この仲間はどれも、先端にたくさんの冬芽を密集させて生えているのが特徴で、クヌギやミズナラも同じです。なお、ドングリに関してはこちらの記事でも詳しくご紹介しておりますので、あわせてお読み下さい。


【8】ヤマザクラ
写真の左は花芽、右は葉芽です。このように、少し開いたような形になるのが特徴的です。桜の開花時はみなさん注目するので、この形の冬芽に見覚えのある方も多いのではないかと思います。人気のソメイヨシノも同じような形をしていますが、ヤマザクラには毛が生えていないのに対し、ソメイヨシノの方は裸芽のような細かい毛がびっしり生えているのが違いです。


【9】ホオノキ
ホオノキは葉も大きいのですが、冬芽もとてもジャンボで、4~5cmはあるでしょうか。毛は一切なく、すっぽりと2枚の大きな革質の芽鱗に包まれています。その姿は、まるで皮ジャンを着ているようにも見えます。


【10】アカシデ
アカシデの冬芽は芽鱗が栗色で光沢があり、形も紡錘形でとても美しいです。いわば正統派の美しさをもつ冬芽ですが、実は、葉っぱのような変わった形をしており、風で散布されるための羽の役割をしています。実がなっている姿が、神社のしめ縄などに下がっている紙垂(シデ)に似ていることから、この名前になったそうです。


【11】ハクモクレン
モフモフのフリースを羽織っているようで、とても暖かそう。一度見れば、その姿を忘れることはないでしょう。長い銀色の軟毛に覆われた芽鱗にすっぽりと包まれています。コブシやモクレンなども同じ形です。


【12】エゴノキ
冬芽はとても小さく、同じところから大小あわせて2つの冬芽が生えてくるのが特徴です。ルーペで見ると軟らかな細かい毛がびっしり生えているのが分かります。エゴノキは枝が折れやすく、また葉も散らばりやすいので、栽培用としては好まれません。街なかでは、あまり見ることのない樹だと言えるでしょう。


【13】ムラサキシキブ
その名前が示す通り、紫色の美しい花が咲きます。また、実も大変に美しい紫色に熟します。そのため、観賞用としてよく栽培されています。冬芽の縮れた葉っぱの形をした部分には、よく見ると多くの毛があります。


冬芽の観察方法について
写真/森田弘文・写真AC
イラスト/ミセスモンタ

森田弘文(もりたひろふみ)
ナチュラリスト。元東京都公立小学校校長。公立小学校での教職歴は38年。東京都教育研究員・教員研究生を経て、兵庫教育大学大学院自然系理科専攻で修士学位取得。教員時代の約20数年間に執筆した「モンタ博士の自然だよりシリーズ」の総数は約2000編以上に至る。2024年3月まで日本女子大学非常勤講師。その他、東京都小学校理科教育研究会夏季研修会(植物)、八王子市生涯学習センター主催「市民自由講座」、よみうりカルチャーセンター「親子でわくわく理科実験・観察(植物編・昆虫編)」、日野市社会教育センター「モンタ博士のわくわくドキドキ しぜん探検LABO」、あきる野市公民館主催「親子自然観察会」、区市理科教育研修会、理科・総合学習の校内研究会等の講師を担当。著書として、新八王子市史自然編(植物調査執筆等担当)、理科教育関係の指導書数冊。趣味は山登り・里山歩き・街歩き、植物の種子採集(現在約500種)、貝殻採集、星空観察、植物学名ラテン語学習、読書、マラソン、ズンバ、家庭菜園等。公式ホームページはこちら。
