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<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」第2部・学校づくり編 #3 愛媛県松山市立道後小学校・学校経営レポート①

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」 第2部・学校づくり編 タイトル

菊池実践を追試している3校の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載。第2部では学級にとどまらず、学年、学校、地域を変えていくことを視野に入れた話し合いの授業を展開、レポートします。今回は佐藤郁子校長による、学校経営に関するレポート。2025年5月に行われた菊池先生との対談形式でお届けします。

レポートする学校の3人の先生方の紹介

佐藤郁子校長による、学校の現状報告

創立136年目を迎えた道後小学校は全校児童673人、27学級の中規模校です。近くには、日本最古の温泉と言われる道後温泉があり、校区内には、俳人・正岡子規の記念館もあります。
地域との連携・協働を重視し、地域に根ざした学校教育を推進しています。教育目標「自らの玉の石をみがく道後っ子」に向けて、学校経営の中心に選択理論心理学と菊池実践を取り入れました。
児童の学力は全体的に高いものの、二極化しています。
また、転出入児童が多いことやコロナ禍で、他者との関わりについては低い調査結果が出ています。
目下の課題は、欠席者(不登校傾向)や遅刻者が多いこと。そこで、次のような1年後のゴールイメージを目指すことにしました。

⚫︎全校児童全員が、「学校は楽しい」と自信をもって言える
⚫︎対話・話し合いの授業の深化
⚫︎幸福度調査において、全校平均が10点満点中、8点以上

教育計画に目指す教師像を明記(言葉で人を育てる・ほめ言葉あふれる学校に)し、私自身も次のことに取り組んでいます。

⚫︎校内で見つけた子供を価値づけてほめる
⚫︎毎日1枚の価値語カードの掲示
⚫︎毎週水曜日の昼の放送で3分間スピーチ
⚫︎全学級での授業

また、全教職員と一緒に、次のことに取り組んでいます。

⚫︎ほめ言葉のシャワーと輪話和(わわわ)タイム、対話・話し合いの授業の深化を明記
⚫︎朝の正門でのお迎え(名前を呼んでの挨拶+肯定的な言葉かけを一言)

対談・菊池省三 ✕ 佐藤郁子校長

写真右・菊池省三先生、左・佐藤郁子校長
右・菊池省三先生、左・佐藤郁子校長

──道後小学校の校長として、佐藤先生は3年目を迎えました。

佐藤 今、一番の課題は、遅刻・欠席児童が多いことです。
学校が楽しく、自分の居場所や存在価値を見出せれば、子供たちは自ずと学校に来るはずです。子供が「学校は楽しい」「学校に行きたい」と、安心して安全に過ごせる場所をつくらなければいけないと痛感しました。
そのとき、菊池実践の「言葉の力」を大切にした教育が一番効果的だと思いました。
私は、「全ての行動は自分自身の選択である」と考える選択理論心理学を20年ほど学んできました。「他人と過去は変えられない、変えられるのは自分と未来」というコンセプトのもと、「願望を実現するためには、周りとの人間関係をよくすることが大切だ」と提唱しています。
選択理論心理学の理論と、「ほめ言葉のシャワー」や「価値語」など、菊池先生のほめて認めて励ます実践が、私の中でぴったり一致し、3年前から取り入れてきました。

菊池 遅刻や欠席がさらに進めば、不登校です。
もちろん、不登校は複合的な要因によるものですが、「学校が楽しくないから」という理由は大きいと思います。極論を言えば、家庭に問題があっても、学校が楽しければ子供たちは登校するのではないでしょうか。とはいえ、ただ「楽しい」だけでなく、学校には「みんなで学び合う楽しさ」がなければなりません。

佐藤 そうそう! 学校は、担任の先生が大好き、友達が大好き、そして授業が楽しい場所でなければならない。
そう考えると、従来の挙手指名型、知識注入型の授業は、やっぱり楽しくないと思うんです。対話・話し合いを通してみんなで意見を言い合いながら気づき、考え、さらに学びが深まっていく──。それが本当の「楽しさ」だと考えています。

菊池 学校全体で授業スタイルを変えていくためには、一人ひとりの教師自身が気づいて、少しずつ少しずつ進めていく必要がある、ということなんでしょうね。
対話・話し合いを中心にした学び合う集団を育てる指導は、多くの教師に経験がないため、不安・負担を感じがちです。しかし、知識注入型の指導だけでは、楽しい学級づくり・学校づくりは成り立たないのではないでしょうか。
学級運営や学校運営がうまくいかないとき、教師の自己責任だと考えるか、「あの子がいるから」「あの保護者がいるから」「この地域だから」と外に責任を転嫁するか。教師としてどう生きるのか、教師という仕事をどう捉えるのかという芯が問われるのだと思います。

佐藤 昨年12月、選択理論心理学会が提唱している「夢を叶える授業」と「ほめ言葉のシャワー」を全クラスで行い、事後に子供たちに対してアンケート調査を実施しました。
授業前と後で比べると、「みんなと仲良くなった」と答えた子供が90%を超える結果となりました。
「幸せを感じるようになったか」「友達のいいところを見つけることができるようになったか」などの問いにも、全て「はい」が90%を超える数値でした。正直、私は7割ぐらいがそう回答したなら成果があったな、と思っていたので、びっくりしました。
本校に赴任して2年間やってきたことが浸透し、子供たちが他者と関わることに幸せを感じる感覚が育ってきていることに自信を持てたので、今年度もやり続けるべきだと強く思っています。
取組を進める中で重要になるのが、理論と実践の共通理解です。なぜ必要なのかを全教職員が理解して実践意欲を持つことが大事ですから、新年度がスタートしてから2~3か月は、選択理論心理学の理論を説明し、私が理想としている菊池実践を例示してきました。

公立学校だからこそ、ダイナミックな学びができる

──新しい学級に慣れ、落ち着かなくなったり友達同士のトラブルが起こったり…。“魔の6月”と呼ばれる時期には、教室の空気もマイナスになりがちです。

佐藤 本校でも、この2年間の分析で6月には欠席者が多くなっています。
友達とのトラブルだけでなく、授業に対しても「おもしろくない」「勉強は塾でやっているから、もうわかってるよ」といった感覚が生まれてきて、「つまらない」「ちょっとしんどいから休みたい」「昨日、塾でたくさん勉強したから、今日は学校休んでもいいかな…」と思ってしまうこともあるのではないでしょうか。
だからこそ、ここでもう1度、学級担任が「楽しい教室」「楽しい授業」を意識し、係活動や委員会活動などを通して子供たちが自らの存在価値を感じ、成功体験を得られるよう、コーディネートしてほしいと強く願っています。

菊池省三先生
菊池先生

菊池 「学校が楽しい」というのは、「学校に居場所がある」ということです。学校においては、係活動などの特活でやりがいを感じさせたり、授業で友達との関係性を高めたり、子供たちが自ら活躍できる場面をつくることが何より大切だと思います。
自由な立ち歩きで意見交換をしたり、話し合いで様々な意見を聞いて自分の考えを深めたり、子供たちにはそういう、知的な「学ぶ楽しさ」を知ってほしい。
学ぶ楽しさを知ることで、「次のテーマはなんだろう」「もっと先のことを知りたい」と、子供たちの知的な欲求は深まります。その欲求に応えるため、授業の質も上がっていく。結果として、授業改善につながっていくのではないでしょうか。
子供たちの関係性における「輪」「話」「話」の「3つのわ」には、「知的な」という意味合いが込められていることに改めて気づきました。
知的な教室の中で、知的な学びの中心となるのは、話し合いだと思います。「学校は何のためにあるのか」と問われたら、誰もが「みんなが集まって対面で学び合うため」と答えるのではないでしょうか。コロナ禍を経て、教師も子供も保護者も、改めて学校のよさにきっと気づいたことでしょう。
ところが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とばかりに、また知識詰め込み型の従来の授業に戻ってしまいました。

佐藤 そうですね。結局、教師が一方的に教える方が楽なんですよね。

菊池 もう何十年も前から同じことの繰り返しです。だからこそ、今ここで変えていかなければ、今後も何十年も変わらないままです。一斉指導型から脱却するための一押し二押しが、今、必要ですね。

佐藤 その通りです。とはいえ、全教職員がそう意識するのは難しいのが現状です。
2:6:2の集団理論(集団においては、上位2割が優秀、中位6割が標準、下位2割が課題が多い、という構成比になる経験則)で見ると、8割方の教職員は理解して「やってみよう」と頑張ってくれるけれど、残り2割がなかなか難しくて……。
それでも、諦めずに全教職員の共通理解を図りたいと思っています。みんなが同じ方向を向けば大きな力となり、子供たちの成長につながるはずですから。
3年目の今年度は、研究三部会を立ち上げて、いよいよ本格的に取り組んでいきます。授業改善、コミュニケーションを深めるための「輪話和タイム」の実施、それらを支える環境整備の3つです。2年間の積み上げの成果を感じてくれたからか、各部会の部長たちもやる気になっています。
家庭や塾ではできない学び。学校でみんなで話し合えるから深まる学び。そういう思いが出てきたら、必ず子供たちの足は学校に向くと思っています。

菊池 全ての学校、特に公立の小中学校はそこに向かうべきですよね。多様な子供たちがいるからこそ、学びがダイナミックになる。公立学校の最大のメリットだと思います。
教師も意識を変えていかなければならない。そのための授業改善です。授業を変えて、目の前の子供たちの成長を実感できれば、授業改善も進んでいくでしょうね。

佐藤 挙手指名型や詰め込み型の授業がまだ多いのは事実です。ペア学習やグループ学習、ディベート的な話し合いを徐々に取り入れていますが、まだまだですね。
まずは対話・話し合いの授業の楽しさを教師自身が経験し、子供たち一人ひとりが楽しむ授業に取り組んでほしいと思っています。

菊池 子供全員を楽しませる授業にするには、教師にも相当な力が必要です。とても難しいことだけれど、それが教師としての仕事であり、生きがいだと思います。

授業改善に向けた教師の学びとは

──菊池先生はよく「教師も子供も学び続けることで成長する」と話されています。

佐藤郁子校長
佐藤先生

佐藤 日々の授業が大変でも、子供が「授業が楽しい」と思って成長していくことを実感できれば、教師にも「次に向かってもっと学ぼう」という意欲がわいてくるはずです。
若い頃、「授業が上手になりたい」「気になる子をどうにかしたい」という強い思いで、身銭を切って学びに行く人が多くいました。でも今は、働き方改革の関係で、遅くまで学校に残って自主的に学び合うことも少ないし、行政機関の研修に参加するのが精一杯という状況ではないでしょうか。

菊池 私の若い頃は、身銭を切って学んだことを、自分の授業で追試するのは当たり前でしたね。教育書に載っていた授業の再現記録と自分の授業を比べて、「同じ内容の授業なのに、子供の発言の質が違うのはどうしてだろう」と振り返ることで、自分に足りなかったところに気づいたり、自分なりの言葉かけを考えたりしました。

佐藤 私も、菊池先生の授業をいくつも追試してきました。でも周りを見ると、そういう学び方をしている人は少ないですね。
うちの教職員に対しても、「菊池先生の生の授業をこれだけ見れるのに、なぜ変わらないんだ!?」という歯がゆさがあります。

菊池 授業も授業動画も、何を学びたいのか、何がポイントなのかを考えずに見ているだけだと、「あれども見えず」で何も頭に残らない。だから、同じ授業を忠実に追試しても、表面的な授業になってしまいます。ましてや、授業の一場面だけを “つまみ食い” で再現しようとする方ならなおさら、リズムやテンポがおかしい授業になるでしょうね。
授業改善を進めるには、「授業をライブで見て→ストップモーション分析をして→追試する」という学びが必要だと思います。
中でも、ストップモーション分析で授業動画を振り返る学びは欠かせません。ストップモーションでは、どこをポイントにするかをあらかじめ決めておきます。対話・話し合いの授業であれば、「指名の仕方」と「子供同士の交流」が重要なポイントになるでしょう。

佐藤 今回(2025年5月)、5時間目に学級担任が授業し、6時間目に菊池先生に授業をしていただきました。菊池先生の授業での自分のクラスの子供たちの発言や意欲を目の当たりにした担任が何に気づき、何をどう変えたいか、そしてどうしたいかが明確になれば、その後の授業が変わってくると期待しています。

菊池 佐藤先生は、先生方の気づきを待って、その成長を促すというスタンスですが、これは校長としてなかなかできないことですよね。

佐藤 選択理論心理学の視点で考えるならば、本人自身が気づいて変わろうとしなければ、いくら校長から一方的に言っても変わりませんから。
気づいて成長してほしいから情報提供はするし、環境も整える。でも、それを選んで実践するのはその教師自身。だから強制はしないようにしています。
私の学校経営は、トップダウンタイプだと言われています。自分では、そう思ってはいないんですけれどね(笑)。でも、トップダウンが必要な時もあると思うんです。先生方の気づきにつながるような情報提供をしつつも、最終的な決断は校長が行わなければなりませんから。
コミュニケーションや対話・話し合いを軸とした学びは、自分自身が経験していないからと、尻込みする教師も少なくありません。
だからこそ、「ここに来てください」と私から一方的に伝えるのではなく、「一緒にここを目指していきましょう」という姿勢でいきたいと常に思っています。

菊池 これからが楽しみですね。

菊池先生から佐藤校長へのメッセージ

「授業改善が必要だ」という声をあちこちで聞きますが、どのように改善するのかを尋ねると、明確な答えが返ってこないことが多々あります。
「ワークシートを工夫しました」「全員挙手を目指します」といった断片的なものや、タブレットの効果的な使い方等、技術的なものなど、多くがどうでもいい表面的な “改善” ばかりです。
そんな中で、対話・話し合いを通して多様な学びに向かうことを目指す佐藤校長先生の話を聞きながら、「1本芯が通っていて骨太だなあ」と感じました。
コミュニケーション力を高めるためには子供同士の関係性がよくならなければなりません。雑談でわいわいおしゃべりするのではなく、対話・話し合いを教科の中に位置づけ、全校で本気で考え合い、聞き合う授業改善に取り組むことが大切です。
道後小では、コミュニケーションゲームやミニディベートを行う「輪話和タイム」、「ほめ言葉のシャワー」を帯時間に入れています。帯時間にこうした活動を入れている学校・学級は少なくありませんが、それらを本丸の授業とリンクさせ、対話・話し合いの授業のどこにどう活かすのかを見てみると、ほとんどはそこがリンクしておらず、分断されているのが現状です。
そんな中で学校の課題を認識し、様々な取組と授業とをリンクさせ続けていく佐藤校長先生の姿勢こそが、校内研究の本質ではないでしょうか。
選択理論心理学と、対話・話し合いを軸としてコミュニケーション力を高める菊池実践、理論と実践の二本柱で進めていく取組には、興味深いものがあります。
趣旨を説明するだけではなく、佐藤校長が全学級で自ら授業を行ったり、子供たちの学校生活をもとに作った「価値語」を校長室前に掲示したりと、管理職自ら実践のモデルを提供しています。何より、佐藤校長自身が子供の成長をともに楽しむ姿に、教職員も「自分もやってみたい」と感化され、学校がプラスの空気に包まれているな、と感じました。
学校全体として新しい実践に取り組むとき、まずはトップダウンで進めていくことになります。中には反発する教職員もいるでしょう。佐藤校長の場合、選択理論心理学の理論を活かし、トップダウンで情報を提供しながらも、教職員個々の主体性を大切にされています。佐藤校長のスタンスは、これからの時代の管理職のあり方の一つではないでしょうか。
様々な学校を訪問する中で、「学校は管理職が10割」だと強く感じてきました。自分の考えを威圧的に押しつける管理職、“パワハラ” と言われることを過剰に恐れ、「見ざる言わざる聞かざる」で事なかれ主義の管理職がいる学校は、学校全体が冷たい空気に包まれています。
管理職のあり方次第で、学校は良くも悪くもなるのです。

道後小学校の令和7年度の学校経営のポイント
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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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