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職員同士が笑い合う職員室ほど強いチームはない|千葉県船橋市の元校長・渡邉尚久氏講演レポート

教育実践研究会「強い風がやむと 雨は降り始める」主催のセミナーにて行われた、渡邉尚久氏の講演レポートです。渡邉先生は、千葉県船橋市で教師、指導主事、校長として長年にわたり勤務し、そのなかで独自の学校経営観を深めてきました。現在は、全国の教育委員会や私的教育団体の招きで講演活動を行ったり、書籍の執筆を行ったりしています。
この講演では「自分らしさ」をキーワードに、日々の小さな行動で学校文化を育てる校長の学校経営について語っていただきました。

渡邉尚久(わたなべ・たかひさ)
1969年千葉県船橋市生まれ。千葉県公立学校教員・教頭・校長として22年、千葉県教育委員会・千葉市教育委員会等の教育行政で12年勤める。母校である船橋市立船橋小学校校長を最後に、56歳のときに早期退職し、長野県東御市に移住。『クラスがみるみる素直になる方法!』(学陽書房)『7つの習慣小学校実践記』(FCEパブリッシング)など著書多数。
全国の教育委員会や学校、私的教育団体から招かれ、リーダーシップや学校経営に関わる講演を行う傍ら、執筆活動にもいそしむ。『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー博士が提唱した、効果的な人生を送るための原則に基づいた習慣の体系)を日本で初めて授業化したことでも知られる。

取材/文:村岡明

校長を早期退職した理由

こんにちは。渡邉尚久と申します。私は千葉県船橋で生まれ、船橋で育ち、そして船橋で教員人生を終えました。退職は56歳です。早期退職を選んだのは、やりたいことがあるからではなく、「健康と家族を大切にしたい」からでした。私は14歳年上の妻と暮らしており、健康寿命を考えたときに、今しか一緒に過ごせない時間があると気づいたのです。平日に昼ご飯を食べたり、昼間に出かけたり。そんな何気ない時間を共有できるのは今しかない。だから私は“1に健康、2に家族、3・4がなくて5に仕事”をモットーに、自分の生き方を決めました。

現在は信州に移り住み、山々と千曲川を望む場所で静かな暮らしをしています。朝3時台に起きて手帳を書き、散歩し、コーヒーを淹れ、日記をつける。午前中は研修や講演の準備にあて、午後は妻と過ごす。この「自分の時間をデザインする」生き方は、退職して初めて得られた豊かさです。

仕事中心だった生活から離れてみて思うのは、「仕事よりも生き方を整えることの方が難しい」ということです。毎日が自由であるほど、自分を律する力が問われる。だからこそ私は、朝のルーティンを大切にしています。

現在は「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー博士が提唱した、効果的な人生を送るための原則に基づいた習慣の体系)を公立小学校に導入する活動をしています。企業の寄付を受け、学校経営や学級づくりにこの考え方を生かしていく取り組みです。代表理事として、導入校の授業や講演にも伺っています。また、教育現場の“パワハラ問題”にも関心を持ち、退職者や研究者らとオンライン対談講座「やっちゃえおっさん」を立ち上げました。権力ではなく、支え合う関係をどう築くか。これもまたリーダーシップの一形態です。

「自分らしさ」の学校づくり

令和の時代に求められる学校づくり。それは「自分らしさ」です。私は「校長らしさ」よりも「渡邉らしさ」で勝負してきました。リーダーシップとは、立場や肩書で示すものではなく、「他者に発揮する影響力」だと考えています。

たとえば、休み時間に「缶蹴りしよう」と声をかけて周囲を巻き込む子。これは立派なリーダーシップの発揮です。つまり、特別な力を持つ人だけがリーダーではない。場面によって誰もがリーダーになれるのです。

船橋市立高根東小学校校長として着任したときは、初日に「全員がリーダーです」と宣言しました。リーダーシップは立場ではなく行動です。たとえば沈んだ雰囲気のときに冗談を言う、困っている同僚を助ける、笑顔で挨拶をする——こうした小さな行動こそが組織を変える力になります。

日本の学校では「リーダーは選ばれるもの」という意識が根強い傾向があります。よく言うことを聞く子、声の大きい子がリーダーに選ばれがちです。でも本来、誰もがリーダーになれるはず。校長である私も「校長らしい校長」ではなく、「子どもと一緒にジャンボ滑り台を滑る校長」でありたいと思いました。

赴任初日、私は着任の挨拶で「ジャンボ滑り台が気になっているのですが、一人では滑れないので、一緒に滑ってくれる人はいますか?」と子どもたちに呼びかけました。子どもたちは目を輝かせ、「校長先生!滑ろう!」と声をあげてくれました。

後日、子どもに誘われて実際に滑ると、途中に“ジャンプ”があると知って驚きました。「校長先生は命を守る責任がある」と言って自ら滑り、安全を確かめました。これが子どもとの信頼を築く第一歩となり、「自分らしさを発揮する校長」という私のリーダー像の象徴になりました。

学校経営のビジョンは「幸せである学校」

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