ページの本文です

固定担任制? チーム担任制? 子どもが主語の学校を作るために、本当に必要なことは何でしょう?

連載
大切なあなたへ花束を
関連タグ

元大阪市公立小学校校長 みんなの学校マイスター

宮岡愛子
大切なあなたへ花束を
バナー

あなたの学校では、どんな担任制を行っていますか? 最近は教科担任制が推進されていることもあり、さらに学年複数担任制やチーム担任制など、様々な担任の仕方が生まれてきています。これらは時として、従来の固定担任制と対比されるものとして論じられがちですが、果たしてそうなのでしょうか? 今回は、担任制について、少し考えてみたいと思います。

【連載】大切なあなたへ花束を #22

執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子

チーム担任制と固定担任制

私は今(2025年)、あかし教育センターのスーパーバイザーをしています。
その活動の一環で、兵庫県教育委員会の「教職員自主研究推進事業」の一つである「チーム担任制実践研究グループ」の交流研修会に参加してきました。以前、本連載でご紹介した中野裕香子校長が転勤され、新しい学校で初めてチーム担任制の研修会が開かれたためです。

今、「学級固定担任制」から、「チーム担任制」に変えているという学校が多くあります。
子どもの自殺、不登校やいじめ、そして教員の休職や不祥事など、学校が抱える課題や、特別支援学校や特別支援学級が増えているという現実が大きくクローズアップされている今、あなたの学校はどんなシステムですか?
子どもたちは、楽しく安心して学べていますか?
そして教職員のみんなは、生き生きと働けているでしょうか?

ぜひ、あなたの学校の現状を踏まえながら、まずは「学級固定担任制」と「チーム担任制」の違いについて考えてみましょう。ぜひ、一緒に考えながら読んでみてくださいね。

「学級固定担任制」の特徴

  • 単純接触の原理で信頼構築をしやすい
    毎日同じ担任が子どもたちと関わることで、心理的な距離が近づき、信頼関係が築きやすくなります。反面、担任と相性の悪い子どもは、しんどくなることがあります。
  • 一人の目による継続的な見取りができる
    担任が子どもたちと毎日継続的につながることで、表情や行動の微妙な変化に気づきやすく、個々のニーズや状態を深く理解するのに役立ちます。チーム担任制でこれができるのか、教員間の連携は難しくないか、と考える教員や保護者が少なからずいますが、一人の教員による見取りには、認知的なバイアスがかかる可能性があります。
  • 一貫性のあるサポートができる
    一人の担任によって、一貫性のある関係性の中で子どもたちの成長をサポートできます。成長を実感できたときに、子どもにとっても教員にとっても、素晴らしい成功体験になります。しかし、子どもと教員の相性によって、大きく左右されるものだと言えます。
  • 子どもが心理的な安心感を持ちやすい
    大人に対して心を開きにくい子どもや、環境の変化、あるいは多様な人間関係を苦手とする子どももいます。一人の担任との深い信頼関係を作ることは、こうした子どもが学校で安心して過ごすための基盤となります。
  • 学級づくりがしやすい
    担任と子どもたちの間に強い絆が生まれることで、クラスに一体感が生まれ、良好な学級の雰囲気を作りやすくなります。しかし、これはいわゆる“学級王国”につながる恐れがあります。私のクラスが一番すぐれている、という自信が、傲慢さに転じるかもしれません。

「チーム担任制」の特徴

  • 多彩な価値観に触れられる
    子どもたちがさまざまな教員と出会うことで、多様な価値観に触れる機会が生まれ、成長につながります。これからの社会を生きる子どもたちには不可欠な学びです。これこそが、チーム担任制の最大のメリットだと私は考えます。
  • 児童生徒の多彩なニーズに対応できる
    複数の教員がいれば、児童生徒の多様なニーズや特性に多角的に対応できます。一人で対応していたら抱え込むこともある、発達課題のある子どもにも、柔軟な関わり方をすることができます。しかし、人が変わることでしんどさを感じる子どもには工夫がいります。
  • 細かな対応が可能になる
    子どもを見取る目が多くなればなるほど、子どもの変化に気づきやすくなります。子どもは相性のいい教員を選べることで、安心して学校生活を送ることができます。保護者も同じで、自分の困りごとを信頼できる教員に、自分が選んで相談することができ、学校への信頼感も増します。
  • 効果的な指導や課題解決、人材育成ができる
    教員がチームとして協力・協働することで、教員同士が得手不得手を補完しあい、自分の強みを生かした指導ができるようになります。若手とベテランが協働することで、専門性の向上や人材育成も図られます
  • 教員の負担が軽減される
    複数の教員で業務の分担をすることで、教員1人ひとりの負担を減らすことにつながります。何より教員たちの風通しがよくなり、自分が困っているときには、気軽に代わってもらうこともできます。どの子のことも分かっていますから、代わる方も代わられる方も安心感が違います。

チーム担任制なら、実態に合わせた柔軟な工夫ができる

この研究会に参加された、あるチーム担任制を実践している学校からは、1・2年生チームと、3年~6年チームの2チーム体制にしているとの報告がありました。さらにこの学校では、修学旅行の担当になった教員は、その時期だけ6年生の担任になるように工夫をしたり、音楽会があるときは音楽担当の先生を担任から外したりするようにしている、とのことでした。
なるほど、学校の実態に応じて、さまざまな工夫があるのだな、と学びました。
私が校長をしていた学校では、1・2年、3・4年、5・6年と3チーム制をとっていました。子どもたちは小学校生活で3回、下の年齢の子どもたちをひっぱるリーダーの体験ができる、というのが主な狙いだったのですが、これは小規模校などでは、なかなか難しいかもしれません。

また、グループに分かれての交流会に参加した、ある若手の先生がこんなお話をしてくれました。

「私、校長先生から『うちは、チーム担任制でやるから、先生には1年と2年を担当してもらいますね』と言われたときには、とても残念に思いました」

担任として自分のクラスをつくり、目の前の子どもたちと遊び、学んで、かけがえのない経験を共有していきたい。そんな燃えるような思いを胸に、一生懸命大学で学んできたのでしょう。あるいは、自分の子ども時代にすてきな先生との出会いがあり、その担任に憧れて、自分も素敵なクラスをつくりたい、と教員になったのかもしれません。

しかし、彼女が続けて語った言葉は、こうでした。

「でも私、今の学校がチーム担任制で本当に良かったと思っています」

その言葉を受けて、他の先生がそれに続きました。
「チーム担任制やから、今、仕事ができていると思います」
「チーム担任制を入れている学校の新任の離職者は0で、その後もリスクの回避度はとても高いです」
「まずは、自分の学年からやっていきたい。始めに学年で教科担当制を入れていくのはどうか」

活発な意見交換と、前向きな気持ちにあふれ、会は成功裏に終わりました。

私は最後に、裕香子先生がみんなに対して、

「理念が大事やねん」「形ではないねん」

と熱く語っておられた姿が忘れられません。

裕香子先生が言わんとしているのは、

「子どもにとって、安心して学校に来ることができる方法を考えよう」

ということ。これに尽きると思います。

最も大事にしたい理念とは

この記事をシェアしよう!

フッターです。