組織で守る!チーム対応とエスカレーション
保護者クレーム対応の実践スキル 危機を絆に変える技術⑧

これまでの連載では、個人レベルでのクレーム対応技術を中心に解説してきました。しかし、教育現場でのクレーム対応は、個人の努力だけでは限界があります。組織全体で協力し、チームとして対応することで、より効果的で継続的な問題解決が可能になります。第8回となる今回は、組織的なクレーム対応体制の構築、適切なエスカレーションの方法、そして心理的安全性の高い職場づくりについて詳しく解説していきます。個人の負担を軽減しながら、組織全体のクレーム対応力を向上させる実践的な方法をお伝えしていきます。
執筆/一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事・熱海康太
目次
組織的クレーム対応体制の設計
効果的なクレーム対応を実現するためには、まず組織としての明確な対応体制を設計することが不可欠です。この体制は、役割分担の明確化、情報共有システムの構築、そしてエスカレーションルートの確立という三つの要素から構成されます。
役割分担においては、第一次対応者、第二次対応者、最終決定権者を明確に定めることが重要です。一般的には、学級担任や教科担当が第一次対応者となり、学年部長や教科主任が第二次対応者、管理職が最終決定権者という流れになります。ただし、クレームの内容や緊急度によって、この流れを柔軟に調整する必要があります。
情報共有システムでは、クレームの内容、対応経過、今後の方針などを組織内で迅速かつ正確に共有する仕組みを構築します。情報の欠落や伝達ミスは、問題の深刻化や保護者の不信増大につながるため、確実性の高いシステムが求められます。
エスカレーションの適切なタイミング
エスカレーションとは、個人では解決困難な問題を上位の管理者に引き継ぐことです。適切なタイミングでエスカレーションを行うことで、問題の拡大を防ぎ、より効果的な解決を図ることができます。しかし、タイミングを誤ると、組織の機能不全や、対応者のスキル向上機会の喪失につながる可能性があります。
エスカレーションを検討すべきタイミングとしては、問題が複雑化し、複数の部署や担当者が関わる必要がある場合です。いじめ問題で複数の学級が関係している場合や、部活動と学習面の両方にわたる問題などがこれにあたります。
さらに、感情的な状況が継続し、現在の対応者では信頼関係の回復が困難と判断される場合も、エスカレーションを検討すべきです。ただし、この場合は対応者の能力不足ではなく、人間関係の相性の問題として捉え、対応者のケアも同時に行うことが重要です。
「校長を出せ」への戦略的対応
クレーム対応で頻繁に遭遇するのが「校長を出せ」という要求です。この要求に対する対応は、組織的な対応体制の真価が問われる場面でもあります。基本的な方針としては、いきなり管理職対応にするのではなく、段階的なエスカレーションを原則とします。
まず重要なのは、要件と真意を確認することです。「校長先生にお話しいただきたい内容について、詳しく教えていただけますでしょうか」といった形で、なぜ校長への面談を求めているのかを理解します。多くの場合、権威ある人からの対応を求めているか、問題の重要性を強調したいという意図があります。
次に、現在の対応者の裁量権について説明します。「この件につきましては、私に決定権がございますので、責任を持って対応させていただきます」といった形で、適切な権限者であることを示すことで、保護者の要求に応えることができます。
心理的安全性の高い職場づくり
組織的なクレーム対応を成功させるためには、職員間の心理的安全性を確保することが不可欠です。心理的安全性とは、職員が安心して意見を述べ、助けを求め、失敗を報告できる環境のことです。
クレーム対応で困った際に、「こんなことで相談するのは申し訳ない」と感じることなく、早期に相談できる環境を作ることが重要です。
重要なのは、個人の問題を組織全体の問題として捉え、協力して解決しようとする姿勢です。クレーム対応は個人の責任ではなく、組織として取り組むべき課題であるという認識を共有することが大切です。
チーム対応の具体的実践方法

バナーイラスト/futaba(イラストメーカーズ)

著者:熱海康太(あつみこうた)
一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事
大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立学校で教鞭を取る。
大手進学塾の教育研究所を経て、現職。
10冊以上の教育書を執筆し、全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動している。
