評価は相互の対話で育つ~真摯に向き合い、ともに成長する教職員評価~


みなさんは、教職員評価をどうされていますか? 所感を評価シートに書き込むだけで終えていませんか? 教職員も学校も共に成長していくために、これを教職員と管理職の「対話の場」と位置づけて、評価する側もされる側も、互いを尊重し真摯に向き合うようにしてみませんか? 言葉一つで教職員は意欲を失うこともあれば、次の挑戦への一歩を踏み出すこともできるのです。
執筆/元山口県公立学校教頭・山田隆弘(ようだたかひろ)
目次
なぜ、評価の対話が重要なのか
学校における教職員の仕事は、一般企業における売り上げや契約数などのように、明確な数値で測ることが困難です。児童生徒の成長は、一朝一夕で成果が見えるものではなく、数値化できないからです。
だからこそ、給与や昇進に直接結びつきにくい評価制度を運用する立場として、多くの管理職がどう伝えるかに頭を悩ませているのが現実ではないでしょうか。
また、評価するということは、その対象から逆に評価されてもいます。
ご自身が若手だった頃のことを思い出してみましょう。
あなたもきっと、当時の管理職に対して、「この人は本当にわたしの日々の努力や教育への深い思いを理解してくれているのだろうか?」と思っていたはずです。
相互評価という視点を持つことで、評価は単なる手続きから、学校をより良くするための真摯な対話へと変わります。形式的な面談ではなく、その背景にある努力に焦点を当てた対話を行うことで、教職員は自身の取り組みを語り、新たな課題や次への展望を自ら見つけ出すことができます。同時に、管理職は、教職員一人ひとりの努力を真に理解し、信頼を勝ち取るための重要な機会を得ることになります。
同じ評価制度でも、関わる人々の姿勢ひとつで結果は180度変わります。ここに評価の真価があります。
評価を義務からともに未来を拓く対話へ
評価を単なるチェックリストの確認作業ととらえると、評価者も被評価者も「またこの時期が来たか……」と負担を感じるだけです。義務感だけで行う評価は、誰にとっても疲弊する一方です。
しかし、評価を対話の入り口ととらえ直すと、その価値は大きく変わります。評価の場は、教職員の仕事への思いを深く理解し、学校がめざす未来をともに描き、育てていく機会へとアップデートさせることができます。
対話を生む効果的な問いかけの例
対話を生む効果的な問いかけは、相手の思考を促し、内省を深める力を持っています。評価シートの項目を機械的に確認するのではなく、以下のような問いを投げかけることで、教職員は自身の仕事に対する情熱や工夫を主体的に語り始めるでしょう。
過去の実践を振り返る問いかけ
「この1年間で、とくに力を入れて取り組んだことは何ですか?」
「ご自身がいちばんうまくいったと感じる授業や、印象的なエピソードがあれば教えていただけますか?」
「想定外の事態に直面したとき、どのように乗り越えましたか?」
「学級の児童や保護者との関係で、とくに心に残っているやり取りはありますか?」
強みや得意なことを見つける問いかけ
「あなたのクラスの『らしさ』を一つ挙げるとしたら、どんな点ですか?」
「この1年間で、ご自身のどんな力が伸びたと感じますか?」
「他の先生から相談されたとき、どんなことで力になれそうだと感じますか?」
未来に向けた展望を促す問いかけ
「もしもう一度この1年間をやり直せるとしたら、どんな工夫を加えますか?」
「今後、さらに挑戦してみたいことや、学んでみたいことはありますか?」
「これからどんな教員になっていきたいですか? そのために、学校としてどのようなサポートができそうでしょうか?」
このような対話を通じて、評価は単なる手続きから、教職員一人ひとりの成長を応援し、学校全体の活力を高めるための重要なエンジンへと変わっていくはずです。
信頼を築く「伝え方」の3つの工夫
教職員評価を単なる事務作業で終わらせず、相手との信頼関係を築き、ともに成長するための対話にするには、伝え方を工夫することが不可欠です。ここでは、とくに意識したい3つのポイントを、具体的な例を交えて考えていきます。
ポイント1 具体的に伝える
「がんばっていましたね」のような抽象的な言葉は、一見ポジティブに聞こえますが、相手に、自分の何が評価されたのかが伝わりません。評価コメントは、何が、どのように、なぜ良かったのかを具体的に伝えることで、相手の心に深く響きます。
<例>
「あなたが毎朝、児童一人ひとりと笑顔であいさつを交わしている姿が、クラス全体に温かい雰囲気を作っていると感じました」
「保護者からの急な電話にも、すぐに折り返して丁寧に対応してくださったことで、信頼関係が深まったと聞きました。素晴らしい対応ですね」
具体性のあるコメントからは、「きちんと見てくれている」という安心感が伝わり、教職員の自己肯定感を高めることにつながります。
ポイント2 肯定と課題をセットにする
良い点だけを伝えても、課題点だけを指摘しても、評価は不十分です。両方をバランス良く、建設的なフィードバックとして伝えることで、教職員は評価を前向きに受け止めやすくなります。
<例>
「毎週発行していた学級通信は、保護者との信頼関係を深める素晴らしい取り組みでした。一方で、児童が通信の特集テーマや内容を考える機会を設けることで、より主体性を引き出せるかもしれませんね」
「あなたの熱意ある授業は生徒たちに伝わっていました。とくにグループワークでは、普段発言しない生徒も楽しそうに参加していたのが印象的です。もし可能であれば、発表の時間をもう少し長く取ることで、それぞれの意見をより深く掘り下げられるかもしれません」
このように肯定と課題をセットで伝えることで、教職員は「次に何をすればいいか」を具体的にイメージしやすくなります。
ポイント3 未来志向で語る
評価は過去の反省会で終わらせるのではなく、未来への展望を語る会議として位置づけることが重要です。過去の実践を振り返りつつ、そこから得られた学びを次のステップにどう活かすかをともに考えます。
<例>
「今回の授業研究では、時間配分に少し苦労されていましたね。来年度は、事前にICTツールを使って課題を共有しておくことで、授業中の生徒の活動時間をさらに確保できそうですね」
「今年度は初めての学年で大変なことも多かったと思いますが、粘り強く学級の児童と向き合ってくれたおかげで、彼らは大きく成長しました。来年度は、あなたの得意な○○○の分野をさらに伸ばして、授業に取り入れてみませんか?」
このように未来に向けた具体的な提案は、教員の行動意欲を喚起し、評価を単なる手続きではなく、自己成長のための重要な一歩へと変えていきます。
個の成長を学校全体の力に変える評価の活用法
教職員評価は、単に個々の成長を促すだけでなく、学校全体の文化を変え、組織を活性化させる力を持っています。評価を「個人の成績表」で終わらせず、「学校の財産」として活用するための具体的な方法を考えていきます。
成功事例を「共有の財産」にする!
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。