「プロアクティブな生徒指導」って? ~4つのステップで取り組む具体モデルの提案(実践編)~

小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等をまとめた、文部科学省による【生徒指導提要】。そこで示されている「プロアクティブな生徒指導」の具体的なモデルについて、具体的に考えていこうと思います。今回の理論編に続いて、今回は実践編を紹介します。
<本記事の前に、前回の理論編もあわせてご覧ください>
【連載】ストレスフリーの教室をめざして #29
執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀
目次
前回のおさらい
【図1】生徒指導の重層的支援構造(生徒指導提要p19を筆者が一部改変)

図1は、生徒指導提要に示された重層的支援構造で、「2軸3類4層構造」と呼ばれています。時間軸に着目した2軸、課題性で分類した3類、対象の範囲を示した4層から成っています。
プロアクティブに当たるのは、「発達支持的生徒指導」と「課題未然防止教育」の部分です。
プロアクティブな生徒指導モデル
【図2】プロアクティブな生徒指導モデル(筆者が作成)

理論編でもお示ししましたが、図2は筆者が考案した「プロアクティブな生徒指導モデル」です。プロアクティブに規定される「発達支持的生徒指導」と「課題未然防止教育」について、学校現場レベルで行う具体策を4ステップで整理しました。
以下、各ステップで取り組む具体的な内容について解説します。
STEP 1 スクリーニング
最も課題性が低く発達支持的であるのは「スクリーニング」です。課題性が低いというのは、ここでは未だ何らかの課題を認知していない段階を想定しているという意味です。ここでいうスクリーニングとは、「何らかの課題が発生していないか?という視点で全ての児童を観察及び確認すること」と定義しています。
具体策としてもっとも重要となるのは「日常の観察」です。先生方の目で児童生徒を見て、「おや?」「いつもと違うな」といった気づきを大切にします。これは、STEP 2 アセスメントにもつながる重要なものです。また、一人一台端末を活用した心の健康観察(#26参照)も有効なスクリーニングの方法です。児童生徒のSOSは、待っているだけではキャッチしきれません。アンテナを高くして、全ての児童生徒にセーフティーネットをかけていきます。
STEP 2 アセスメント
次に「アセスメント」です(#27参照)。スクリーニングとの違いは、「教師が具体的な目的をもって児童を見ているかどうか」にあります。例えばスクリーニングでは「何らかの課題が発生していないか?」と広く目的を設定していますが、アセスメントでは、例えば「児童生徒が学級に満足しているか?」と具体的な目標が設定されます。
ここでは、客観的なアセスメントツールを導入することをオススメしています。例えば「Q-U」「hyper-QU」(図書文化社)などは、児童生徒の学級満足度などを確認することができるアセスメントツールで、全国的に広く用いられています。
予算の関係で有償ツールの導入が難しければ、教師が共通の様式でアセスメントができるものを活用するのもひとつの手です。具体的な例として、「BPS(バイオ・サイコ・ソーシャル)モデル※」があります。この使い方は、埼玉県教育委員会のホームページや、東京都教育委員会のホームページを参考にしてください。 共通のアセスメントツールや様式を導入することで、みんなが同じ土俵に立って児童生徒の支援策を検討することができます。
※BPSモデル=対象者を生物学的、心理的、社会的な側面から総合的に考え、問題を解決しようとする考え方
STEP 3 ターゲット分類と把握
アセスメントの次は、「ターゲット分類と把握」です。学校心理学では、援助の段階を「1次的援助~3次的援助」に分類しています(数字が大きくなるにつれ、援助の重要度や困難度が増す)。スクリーニングやアセスメントの結果から、それぞれの児童がどの援助段階に位置づいているのかを分類し、援助の内容を確認していきます。
援助の基準は以下の通りです。
1次的援助:集団の中でかかわる
2次的援助:集団の中で個別にかかわる
3次的援助:個別に特別なかかわりをする
30人学級であれば、1人に対して5分かかわるだけで合計150分を要します。児童生徒のニーズに応じて、かかわり方を柔軟に調整できるのがプロの教師でしょう。自分の学級の児童生徒がどの援助段階に該当するかを分類し、重点的にかかわる必要のある子どもを把握します。ここでのポイントは2点です。
①「援助段階は流動的である」ということ
1次支援の子が2次支援に移行したり、3次支援の子が2次支援に移行したりすることもあります。定期的に援助段階は更新しましょう。
②1次支援の子を軽視するような考えは捨てること
「特に問題がないから、この子は大丈夫」という考え方は捨てましょう。あくまでニーズに応じたかかわり方の調整であって、優劣や重みをつけているわけではありません。どの子も発達の過程にあります。すべての子の発達の過程を支えるという意識を忘れないでください。
STEP 4 チーム援助
最後が「チーム援助」です。特に3次支援の対象になった児童生徒については、個人の対応では限界があります。従って、随時ケース会議を開催し、チームによる援助策の検討や関係機関との連携等について検討します。
ここでは、ケースに応じて柔軟なチームを編成することが大切です。例えば校内のチームにスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを加えたり、臨床心理士などの専門家の意見を求めたりすることも考えられます。
チーム援助には、これら一連の活動を円滑に進めるコーディネーターの存在が欠かせません。コーディネーターになり得る人材としては、生徒指導主事、教育相談コーディネーター、養護教諭などが考えられますが、校内の実態に応じて決めるとよいと思います。 なお、STEP 1~STEP 3までは全ての児童を対象に行い、STEP 4は一部の児童を対象に行われることを想定しています。
