子供の記憶に残る「1時間で完結するスペシャル授業」で締めくくろう!|俵原流!子供を笑顔にする学級づくり #12

子供の笑顔を育てる「笑育」という実践のもと、安全で明るい学校、学級をつくってきた俵原正仁先生。これまで培ってきた学級づくりのアイデアやメソッドを、ユーモアを交えつつ、新任の先生にも分かりやすく解説します。月1回公開。
執筆/元・兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
はじめに
前回の連載で、たとえお楽しみ会ができなかったとしても、「1時間で完結する授業」で、子供たちの心に残る時間はつくれる。「ピーク・エンドの法則」は、特別なイベントだけでなく、たった1時間の授業でも、しっかり働く――と書きました。
※ピーク・エンドの法則…人が過去の経験を振り返るとき、その良し悪しを「一番盛り上がった瞬間(ピーク)」と「どのように終わったか(エンド)」でほとんど判断してしまうという法則。
今回は、その「具体例」となる6年生の授業を紹介します。卒業を目前に控えた子供たちへの、いわば、私なりの「スペシャル授業」です。
ただ、スペシャル授業と言っても、派手な活動をしたり、特別な準備物を用意したりするわけではありません。大切にしているのは、その1時間が、子供にとって「あとから思い返したときに、ふっと心に残る時間」になることです。6年間の学びを背負った6年生だからこそ考えられることに、あえて向き合わせる授業です。
まず、6年間の物語文を振り返ってみよう

「今まで国語の時間に、たくさんの物語文を勉強してきましたよね。どんなお話を勉強してきたか、覚えていますか?」
この問いかけに、子供たちはすぐに反応します。
1年生だったと思うけど、「くじらぐも」です。
懐かしさもあってか、1つ発表されるごとに、その物語文にまつわるつぶやきが、あちらこちらから聞こえてきます。
そう言えば、1年生のとき、みんなで大きなくじらぐもを作ったよなぁ。
2年生では「お手紙」をやりました!
やった、やった。かえるくんやがまくんのお面を作って、劇をしたよね。上谷さんのかたつむりくん、めっちゃ上手だったの覚えてる。
教室は、和やかな雰囲気に包まれていきます。
「スイミー」「ちいちゃんのかげおくり」「モチモチの木」「三年とうげ」「ひとつの花」「白いぼうし」「ごんぎつね」「大造じいさんとガン」「やまなし」「柿山伏」「海の命」……。次から次へと、6年間で出合ってきた物語文のタイトルが挙がってきました。
教師は、発表された物語文のタイトルを次々と黒板に書いていきます。黒板いっぱいに並んだ物語文のタイトルは、まさに壮観です。
そして、ここで一言。
今日は、この中から「スイミー」の授業をします。2年生のときに勉強したこと、覚えていますか?
「スイミー」で作者の言いたかったことは何ですか?
まずは、「スイミー」の内容を確認します。
ところで、「スイミー」って、どんなお話でしたか?
「小さな黒い魚が、仲間と協力して大きな魚を追い払う話」といった答えが返ってくるはずです。
さらに、問いかけます。
「スイミー」の作者は、誰でしょう?
どのクラスでも、1人か2人は覚えています。
レオ=レオニです。
そうですね。レオ=レオニです。よく覚えていましたね。ただ、細かい内容は忘れている人もいるかもしれません。そこで、もう一度ざっと見てみましょう。
ここで、「スイミー」の絵本を取り出し、読み聞かせを行います。
「懐かしいなぁ」
「あれ? こんな絵、あったっけ?」
「でも、話は同じだな」
教科書では編集の都合でカットされているページがあるため、その違いに気づく子もいます。最後まで読み終えたところで、改めて問いを投げかけます。
作者であるレオ=レオニさんが、このお話で言いたかったことは何だと思いますか?
次のような意見が出てきました。
「協力することの大切さです」
「よく考えること」
「スイミーのリーダーシップ」
ここまでの流れは、2年生のときに「スイミー」を学習した授業と、ほぼ同じです。答えの表現こそ6年生らしくなっていますが、内容自体は、2年生のときと大きく変わっていません。そして、最終的には、2年生のときと同様、大きな魚をおい出したラストシーンから次のような意見にまとまります。
「みんなで力を合わせてがんばること」
もちろん、この考えは間違いではありません。物語から感じることは人それぞれでいいからです。みんな違ってみんないい。
「そうですね。卒業式まで、みんなで力を合わせてがんばりましょう」と、ここで締めて授業を終えることもできます。
でも、実は、ここからが、この授業の本番なのです。
作者の背景を知って、もう一度考えよう
ここで、6年生らしくレオ=レオニさんについて少し勉強しましょう。作者の生き方が作品に影響を与えることは、「やまなし」の学習で勉強しましたよね。
次に、作者が「スイミー」を執筆した背景について伝えます。
1939年、イタリアに住んでいたレオ=レオニは、アメリカに亡命します。この年は、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻した年です。ユダヤ人であったレオ=レオニのアメリカ亡命は、ドイツと同盟を結んだイタリア政府に対する強い危機感によるものだったようです。「スイミー」は、戦争が終わり、レオ=レオニが再びイタリアに戻った後に書かれた作品です。
時間に余裕がある場合は、教師が話したような内容を、子供たち自身に調べさせてもよいでしょう。その上で、再び「スイミー」の読解に入っていきます。
今の話を聞いて、新しい発見はありませんか?
「やまなし」の学習では、宮沢賢治の理想や生き方を踏まえた上で、作者の思いと作品を重ねて読み取ってきました。また、社会科の歴史学習では、当時の世界情勢についても学んでいます。そうした学びを積み重ねてきた6年生からは、2年生のときとは違う反応が、いろいろと返ってくるはずです。
スイミーだけ真っ黒だったのは、アメリカで、自分1人だけがユダヤ人だったということを表しているんじゃないかな。
大きな魚というのは、ユダヤ人を迫害していた人たちのことだと思う。
戦争で多くのユダヤ人の仲間を失ったレオ=レオニ。きょうだいたちを失い、独りぼっちになった後に仲間を見つけたスイミー。レオ=レオニは、スイミーの物語に、自分自身の人生を重ねていたのかもしれない。
子供たちの意見をすべて受け止めた上で、次の話をします。
では、結局、レオ=レオニさんが一番言いたかったことは何だったのでしょうか。実は、レオ=レオニさん本人が、インタビューで次のように答えています。
スイミーは、その惨事の中でも生きのこります。苦しんだが故に、スイミーはじょじょに人生の美しさに気づくようになります。このところは、私にとって、とても重要なことなのです。スイミーは、はじめは淋しがっていますが、やがて人生を詩的なものとして眺めるようになり、生命力と熱意を取り戻し、ついには岩かげにかくれていた小さな魚の群れを見つけ出します。
出典:『子どもの館』(福音館書店)1976年6月号
さらに、絵本研究者の松居直さんは、「絵本は、作者が一番強く語りかけたいところに、多くの場面を割く傾向がある」(松居直『絵本のよろこび』NHK出版)と述べています。では、この視点で、もう一度「スイミー」の絵本を見てみましょう。
この観点で絵本を見直してみると、スイミーが独りぼっちになってから仲間を見つけるまで、海の中を泳ぎ続ける場面こそが、作者が一番語りかけたかった部分であることが分かります。全14場面中、その7場面――実に全体の半分が、ここに使われているのです。つまり、「人生の美しさに気づいていく場面」です。これは、先ほど紹介したレオ=レオニのインタビュー内容とも一致します。
ほんまや。「海には、すばらしいものがいっぱいあった……」のところが、一番多い。
子供たちも、思わず驚きの声を上げます。最後に、この時間の学びを、それぞれノートに書かせます。
そして、教師から次のメッセージを伝えます。
レオ=レオニの人生を知ることで、「スイミー」の違った面が見えるようになりました。知ることで、今まで見えなかったものが見えるようになります。同じ本でも、読む自分が変わると、見え方が変わる。それが「学ぶ」ということです。「学びとは、人生で一番贅沢な遊びである」という言葉があります。6年間、みなさんは本当によく遊び、よく学んできました。4月からも、ぜひその“贅沢な遊び”を続けていってください。
おわりに
3月は、学習内容の区切りがつき、少し時間に余裕が生まれる時期です。だからこそ、その時間を「何となく過ごす」のではなく、子供たちの記憶に残る1時間にしてほしいと思います。
今回紹介した、1年生から6年生までを一気に振り返る――というコンセプトは、物語文に限ったものではありません。「1時間で図形の総復習」「小学校で育てた植物一覧」など、他の教科や単元にも、十分応用することができます。大がかりな準備や、特別な教材は必要ありません。これまでに学んできたことを、1本の線でつなぎ直す。その作業そのものが、子供たちにとっては新鮮で、特別な学びになります。
お楽しみ会ができたクラスも、できなかったクラスも。ぜひ3月に、子供たちの心に残る1時間を、1本仕込んでみてください。その1時間が、その学年の「エンド」を、きっと温かいものにしてくれるはずです。「ゴールは、ハッピーエンドに決まっています」――1年間、お付き合いくださり、ありがとうございました。また、どこかで!

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校元校長。2025年3月に定年退職後、芦屋市を中心に教師の力量向上のための学校支援相談員として活動中。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
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【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
若い教師のための1年生が絶対こっちを向く指導(学陽書房)
イラスト/イラストAC
