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意図的に「思い出す」ことで学力が伸びる!? ~リトリーバル学習で “記憶の定着” をする授業づくり

連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

テストで「この前はできたのに…」という事例、皆さんもよく目にしませんか? それは、児童たちの脳内で知識がまだ「必要なときに取り出せる状態」になっていない証拠です。一度「わかった!」と思ったはずなのに、児童たちにとって(もちろん授業者にとっても)歯がゆく感じるこの現象。科学的な根拠に基づいて記憶を定着させるトレーニングをすることで、解消することが可能です。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

リトリーバル学習の原理と授業への取り入れ方

⑴ リトリーバル学習とは

リトリーバル学習(retrieval practice)は、一度学んだ内容を「思い出す」行為そのものが記憶を強化するという学習法です。単に復習として見返すだけでなく、意図的に「思い出す」プロセスを繰り返すことで、記憶の定着をより確実にします。実際、学力が向上している学級では、以下のような“思い出す練習”を日常的に取り入れている事例をよくみます。

⑵ 具体的なリトリーバル学習の方法

以下の方法はいずれも、記憶を呼び起こすことで脳内の神経回路が再活性化し、学習内容が定着しやすくなるという原理に基づいています。

① 紙に書き出す
授業やワークテストで習ったキーワードや要点を、ノートや白紙に書き出します。
書きながら思い出すことで、記憶を外在化し、定着を促します。

② 声に出して復唱する
黒板に書かれた要点や友だち同士で出し合った質問を、声に出して繰り返します。
自分の言葉で説明できるようになると、理解度がさらに深まります。

③ 友だちや家族に説明する
学習した内容を隣の席の友だちや帰宅後の家族に対し、実際に説明します。
他者から質問が返ってくることで、自分が理解していない点にも気づきやすくなります。

④ 板書のキーワードを付箋で隠して思い出す
黒板やホワイトボードに示された重要なキーワードを、付箋紙で隠してみます。
隠した部分を想像しながら思い出すことで、視覚的にも記憶を強化します。

⑶ 小学校の授業に取り入れるポイント

下記のポイントを押さえると、特別な準備や道具がなくても、日々の授業の中で手軽にリトリーバル学習を実践できます。

ポイント1 特別な準備は不要
教室にある教材や黒板、付箋紙など、通常の教室備品で十分に対応できます。電子機器や専用プリントは必須ではなく、日常の環境で気軽に取り入れましょう。

ポイント2 “すきま時間” を活用する
授業の切り替え時、ワークテストの合間、休み時間直前の数分間など、ほんの数分あれば思い出し活動を挟むことが可能です。短時間でも継続すれば十分な効果が得られます。

ポイント3 継続的に行う
一度だけではなく、週に数回または毎日の授業で繰り返し実践します。継続することで、「思い出す習慣」が身につき、学習効果がより安定します。

ポイント4 振り返りを組み合わせる
正解だけで終わるのではなく、なぜ間違えたのかを簡単に振り返る時間を設けましょう。間違いの原因に気づくことで、より深い理解と次回への改善が期待できます。

⑷ 導入後の効果と児童の反応

実際にこのようなリトリーバル学習を継続しているクラスでは、ワークテストや授業内小テストの得点が安定して向上する傾向が見られます。児童自身からは、「思い出すのが楽しい」「自分の言葉で説明できるようになった」といった声が上がり、学習意欲も明らかに高まっています。特別な道具や長い準備時間を必要としないで、授業の“すきま”に小さな“思い出し”の仕掛けを散りばめるだけで、児童の学力定着をしっかりサポートできる点が大きな魅力です。

リトリーバル学習は、単なる復習以上の効果をもたらす実践的な学習法です。導入のハードルが低く、教材や時間的コストもほとんどかかりません。忙しい小学校の現場でも、「思い出す」プロセスを取り入れるだけで、児童の記憶定着や理解度向上を確実に後押しできます。ぜひ、授業のすきま時間にこういったリトリーバル学習を取り入れ、児童一人ひとりの「思い出す力」を育てていきましょう。

低学年に効く! シンプルリトリーバル実践

⑴「しりとり」と「指さし」で記憶の引き出しを開ける

国語の時間、習った言葉でしりとりをします。
「今日のしりとりは『あさがお』からスタート!」と担任が声を掛けるだけ。児童は習った言葉を思い出しながら、声に出してつないでいきます。
簡単な算数の答えを指で示す方法も効果的です。授業者が「4+3」と言えば、児童は空中で「7」を指で書く。声と動作を合わせることで記憶が定着します。

⑵ フラッシュカードで “1日3問の取り出し”

市販のおけいこカード、もしくは児童の手づくりカードをリングで綴じ、ポケットに入れて常に持ち歩かせます。朝の会・帰りの会・給食前などに「自分でパラパラ」「友達と出し合いっこ」「せんせいに聞かれる」などで1日3回思い出す機会を設けるだけで、九九や計算はぐんぐん定着します。土日に一日一回やる!ということを課題にしていた教室もありました。

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