「なんとなくの◯付け習慣」がもたらす学びの停滞~あえて◯をつけない、脳科学に基づいたフィードバック法~

学校現場では、日々多くのプリントや宿題に「〇」を付ける慣習があります。これを読んでくださっている皆さんも、子どもの頃に教員から◯つけをしてもらい、当たり前のこととして受け止められているのではないかと思います。しかし、この〇付けがなぜ必要なのか。児童のどんな学びにつながるのか、を考えてみたことはありますか? 採点の“当たり前”を教育効果の視点から見直してみましょう。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
その「○」、ほんとうに意味ありますか?
児童が問題を解いた後、採点をしてもらうために一列に並び、教員は一人ずつ採点して、間違えたところを丁寧に指導している⋯。それは、教室でよく見かける風景ですね。
でも、ちょっと待ってください。児童がただ並んで、おしゃべりしたり、ぼんやりしたりしながら、教員からのフィードバックを待つ時間って、とてももったいなくないですか?
こうしたやり方では、児童が自分の解答を振り返り、間違いを自己修正することは難しく、教員からの指導を受けるだけでは学びが深まらない場合が多いのです。
列の中で待っている時間は長く、教員が児童一人一人にかけられる時間は短いです。
すると、「○を付けること」はただの確認作業となってしまい、児童は「○だった」「✕だった」という結果だけを見て終わってしまいがちで、実際にどこが間違っていたのか、どのように修正すればよいのかを考える機会が失われてしまいます。「○」はただの確認印となっているに過ぎず、その結果、学びを深めるためのフィードバックとしての役割を果たしていないのです。教員が膨大な時間と労力をかけて「○付け」を行っているのに、教育的に効果的でない可能性があります。
脳科学によると、「学習」とは、繰り返しの経験とそのフィードバックを通じて、脳内の神経回路が強化されるプロセスである、と言われます。
特に、脳は間違いを直すという作業を行う際に、その情報を強く記憶し、同じ間違いを繰り返さないようにします。つまり、単に正解を得ることが学びではなく、間違いを見つけて修正する過程にこそ学びの真髄があるのです。
そこで重要なのは、「✕に意味と価値を」という視点です。つまり、正解は大して重要ではなく、間違えた部分に対してしっかりとしたフィードバックを行い、児童がその間違いを自ら理解し修正するプロセスを重視することが効果的な指導である、ということです。
脳科学と学習の関係 ~脳は「修正」から学ぶ~
近年の脳科学の発展で、わたしたち教育者が特に注目すべきなのは、「脳は間違いを修正する過程で学ぶ」という点だと思います。
脳細胞は、お互いに脳神経でつながって大きな回路を構築します。この回路が、人間の思考能力を支えています。
そして、この脳の神経回路は、人間が経験したり、間違いからフィードバックを受けたりすることによって、再構築され、強化されていきます。
ということは、たんに正解するより、間違いを修正することで正解を学び取るほうが脳を活性化させ、より強い学習効果を生む、ということですね。
大事なのは、間違いを放っておかず、ちゃんと正解にたどりつくことです。
脳は、自分が予期していた結果と実際の結果にズレが生じている場合、深く注意を払い、原因を探ろうとします。この「予期と現実の違い」こそ、思考の深まりを促進し、神経回路を強化するのです。試行錯誤が続ければ長いほど、最終的に記憶は定着しやすくなります。
だから教員も、間違いを「修正のチャンス!」として捉え、児童に対してポジティブに接していきましょう。
脳は正解よりも“修正された間違い”を通して学んでいく、という姿勢です。間違えることは、学びにとって価値あることなんだよ、できないことが悪いことではないんだよ、と示してあげましょう。この視点が教育現場に取り入れられることで、児童にとっての学びは一層深まります。
「どこが違っていたのかな?」
「なぜそのように考えたのか、再度確認してみよう!」
と、児童に対して振り返りを促すような問いかけを行うことが、脳を活性化させる鍵となります。