今の日本の教育に、いちばん足りないものは何か?~EDIX東京2025 「花メン」セミナー密着レポート~
2025年4月下旬、日本最大の教育総合展「EDIX東京2025」が東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されました。初出展した小学館グループのブース内セミナーステージには、花まるエレメンタリースクール(通称・花メン)のハヤトカゲこと林隼人校長も登壇。子どもたちの生き生きと学ぶ姿を記録した動画とともに、日本の社会と教育に対する熱いメッセージを語りました。そのセミナーの内容を時間軸に沿ってレポートします。

花メンは、学校に行かない選択をした子のためのフリースクールです。過去記事はコチラ。
目次
僕らが大切にしていること
「花メン」これまでの歩み
ハヤトカゲ 日本のフリースクールには、すでに30年以上の歴史があります。昨年(2024年)は、不登校児童生徒数の急増が社会の注目を集めました。「花まるエレメンタリースクール」(以下、花メン)を開校した2022年には既に、「2024年の現実」に向かう(不登校がここから急激に増えていく)予兆がありました。その意味で僕らは、2022年を”新たなタイプのフリースクール元年”だと思っています。
当時、学校に行かない選択をした子の居場所としてのフリースクールはいくつかありましたが、日本人が運営するインターナショナルスクールのような形の小学校はまだ存在せず、「今までになかった学校をつくりたい」という強い思いもあり、あえて「学校法人」にはしませんでした。
最初は「子どもたちが集まるのかどうか」も見えませんでしたが、「とにかく、やってみよう!」という気持ちで募集をかけてみたら、20名の子どもたちが集まってくれました。
花メンの生徒数は毎年増え続けている
- 2022年4月(開校) 20名
- 2023年4月 61名
- 2024年4月 107名
ハヤトカゲ その後、子どもたちは毎年確実に増え続けていて、今では(2025年4月現在)130人います。
大切にしていること1 「話し合い、混ざり合い」
ハヤトカゲ 僕らがフリースクールを立ち上げてまでやりたかったことは、何か? 花メンで何よりも大切にしているのは、子ども同士の「話し合い、混ざり合い」です。
学びの場で「勉強を教える」のは、当たり前のことです。ただ、教員が勉強に捉われすぎると、子ども同士の横の関係を紡ぐこと、子ども同士の喧嘩・トラブルから生まれる話し合いや混ざり合いを学びに変えていくことが疎かになりがちです。僕らはそこに、従来の教育現場の課題を感じていました。だからこそ僕らは……。
子ども同士が「話し合い、混ざり合うこと」を最優先事項にしています。

ハヤトカゲ 子どもは、「やらかす、しでかす」生き物です。それが自然なんです。けれども、日本の学校には「教室できちんと並んで座って静かに授業を受けることが大切」という風潮があります。
でも、それが本当に最優先されるべき事柄なのでしょうか? 僕らは、「子どもなんだから、やらかして、しでかして、喧嘩して、そうしたら話し合えばいいじゃないか!」という気持ちでやっています。
大切にしていること2 「仲良くなること」よりも「仲直り」
ハヤトカゲ 僕らは、仲直りを大切にしています。子どもたちは、放っておいても「仲良くなること」はできます。むしろ、(女の子に多いパターンなのですが)無理して仲良くなろうとするあまり、気疲れをして、学校に行けなくなってしまう子がたくさんいます。だから私たちは、「仲良くなる」ことに対しては、こんなスタンスで伝えています。
仲良くなるとか、まぁ、無理しなくていいんじゃない?
ハヤトカゲ 僕らがこういうスタンスでいると、「いい感じの関係性」を子どもたちは自然につくっていきます。でも、いい関係性ができた後も、「喧嘩(気持ちの行き違い)」は必ず起きるものです。そんな時こそ、私たちの出番です。
花メンでは、スタッフが「喧嘩後の話し合い」に最大限のリソースを投じる体制を整えています。
ハヤトカゲ なぜか? 喧嘩のタイミングこそが、他者との対話の練習をする最大の機会だと考えているからです。学校には、「社会に出た後の練習の場」という大きな役割があります。だからこそ、学校で他者と思いっきりぶつかり合って、思いっきり悩んで、思いっきり苦しんで、そんな気持ちをどう伝えるかについて考える――。そうした「実体験」を積み重ねることで、「他者との関係づくり」について、子どもたち自身の力で学んでいってほしいと考えています。
多くの学びの場では、子ども同士のトラブルに対して大人が一方的に善悪のジャッジをしたり、「今はとりあえず離れよう」などと、当人同士が話し合えない状態にしてしまいがちだと思います。
僕らはそうではなくて、他者とぶつかった時こそ学びのチャンス! と捉え、子どもたちが自分で積極的に仲直りできる力を育てることを大切にしています。
花メン1年目のスタッフが「ケンカの仲裁」を学んでいる様子は、下の過去記事をお読みください。 ↓
教師の最重要スキル「ケンカの仲裁」。その具体的ノウハウを3ステップで解説
大切にしていること3 実体験から、大感動へ
ハヤトカゲ 「人間同士が混ざり合うと、こんなに面白いことが起きるんだ!」ということを実体験として味わってほしいと考えています。運動会や「花メン紅白」(歌の祭典)などの行事に、仲間と一丸となって取り組み、本当に心が震えるような「大感動」を体験してほしいんです。
一方で、「仲間に対して、思いっきりムカついて、どうにもできないぐらい癇癪を起こす。そこからどう関係を再構築するか?」を、子どもと一緒に考えることも大切にしています。「自分の人間くさい部分」を全部さらけ出した上で、「ここから、どんなふうに考えていけばいいのかな……?」という子どもの思考と気付きに伴走していきたいと考えています。

大切にしていること4 挑戦へと導き、伸ばすポイントを見つけて育てる
ハヤトカゲ 今年は、新入生が40人ぐらい入ってきました。不登校という経験がある子にありがちなのですが、最初のうちはとにかく何に対してもまず、「やりたくない!」と言うんです。
例えば、「ドッジボールをやりたくない」「サッカーをやりたくない」「この授業は出たくない…」などと、必ず言い出して、新たな挑戦を避けようとします。
僕らは、そういう子どもたちを以下のようなイメージで成長させていくことを大切にしています。
花メン流「入学した時とは別人のように成長させる」ための3ステップ
- 気持ちに寄り添い共感しながらも、その子が挑戦できるように導く。
- 子どもと共に過ごす時間の中で、その子のどこを伸ばすか? を観察する。
- 子どもを観察して「伸ばすポイント」を見つけたら、そこを育てていく。
ハヤトカゲ 子どもたち自身は、そもそも自分の持っている強みに気づいていない場合が多いものです。僕らはそこに気づかせ、伸ばせるようにアプローチしていきます。
「入学した時とはまるで別人のように成長させる!」という気概を持って、日々、子どもたちと関わっています。
子どもたちの卒業後の進路
ハヤトカゲ 入学前に行う保護者との面談でよく聞かれるのが、卒業後の進路です。花メンには、不登校が3年、4年と続いて、「長い期間、学校に行くことができなかった子」たちが多数在籍しています。保護者の方は、「ここ(花メン)を、卒業した後はどうすればいいですか? 中学校のフリースクールはどうですか?」といったことが気になるようです。
でも、花メンは、「入学した時とは、まるで別人のように成長させる!」という気持ちで関わり、実際に別人に育てていきます。その子が本来持っている力を引き出せば、不登校というのは、「ただ、深く悩んだ経験がある」ということにすぎません。むしろ、そこまで自分を深掘りして悩む力がある子というのは、それだけで才能のある子だと考えています。
不登校になるような子は、沼を抜けた後(悩みを解決した後)には、ものすごい力を発揮します。

ハヤトカゲ 花メン卒業後の子どもたちについては、僕らはまるで心配していません。
実際のところ、中学入学後に、「『生徒会長になりたい!』と、生徒会に入る子」や、「(全国大会出場をしているような)部活に入って、部活動をすごく頑張っている子」たちがたくさんいます。
学習面についても、勉強に向き合い始めて3か月ぐらいで、国語の点数で全国1位になった子がいます。こんなふうに花メンには、たくさんの尖った才能を持つ子がいるというのが現状です。
花メン卒業後は、それぞれの道へ

ハヤトカゲ 卒業生の影響を受けて、現在の5年生や4年生も、いろいろな中学校へ見学に行っています。その子たちは中学校に対して、「たくさん見学して、自分が楽しく選ぶ場所」といったイメージをもっているようです。
グラパ(花メン卒業式)のインスタ動画(既に大バズり!)も公開
ここで、花メンの卒業式を公開したインスタ動画(記事末尾に動画へのリンクがあります)が紹介されました。子どもたち全員によるグラパでの合唱を記録した動画です。それらは、子どもたちが本来持つ巨大なエネルギーの奔流のようでした。
ハヤトカゲ 卒業式では、「卒業式に何を歌うか?」について全校生徒で話し合って最終的に選んだ曲(反町隆史 『POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~』)を全員で歌いました。ここに映っている子の半分以上は、入学前「音が苦手、集団行動が苦手、友達とうまくやっていけない」と言っていました。けれども、そういう子たちが本来持っている力を発揮できれば、この動画のようにすごいエネルギーを発するんです(記事末尾のリンクからぜひご覧ください)。
例えば、「意地悪されている子を助けられなかったことに対する罪悪感」が理由で学校に行けなくなっててしまった、正義感が強くて優しい子がいました。入学当初は周囲に気を使って過ごしていましたが、その後、花メンで成功体験を積んだことで、人前で堂々と発表したりダンスを披露したりできるようになり、多くの下級生から「優しくて、かわいくて、かっこいい!」と憧れられる存在になりました。
また、入学当初、「コミュニケーション能力が全くなくて、人前に出るのが苦手」と言っていた別の子は、グラパのオープニングで選抜され、積極的に漫才をしていました。
そんな子どもたちの成長する姿を見ていると、僕らは素直にこう実感します。
子どもの「沼を抜けた後の姿」は、見てからじゃないとわからない!