「学校に行かない」選択をした子どもたちの春。4月に、どう接するべきなのか?
「学校に行かない」選択をした子どもたちが楽しく通い続ける、人気急上昇中のフリースクール「花まるエレメンタリースクール」(通称・花メン)。全校生徒123名(2025年4月現在)のうち2025年度の新入生は40名で、その全員に不登校経験があります。そんな「花メン」では、4月、入学初日の子どもたちに対してどのようなアプローチをしているのでしょうか? 密着取材をしてレポートします。

花メンは、学校に行かない選択をした子のためのフリースクールです。過去記事はコチラ。
目次
入学初日前には、入念に支援の設計図を作る
※ 花メンは年度途中でも新入生を迎えます。ゆえに、「入学式」ではなく「入学初日」という言葉を使います。
入学初日を数日後に控えた4月某日、「花メン」では新年度を迎えるための会議が進められていました。教室のホワイトボードには、在校生、新入生全員の写真と名前が貼られています。

1・まずは、子どもたち1人ひとりの情報を共有
会議は、新入生の子どもたちが「不登校」であることを前提にして話が進みます。「数週間、何となく学校に行けていない」といったレベルではなく、年単位で登校できていない子、精神科を受診している子など、状況が厳しい子もたくさんいます。
ゆえに、会議では最初から「どんな支援が必要なのか?」を考えながら、子ども1人ひとりの情報を共有していきます。情報共有にあたっては、子どもたちを以下のようにザックリと分類していました。
支援の方向性を考えるための、子どもたちのタイプ分け(子どもたちと出会う前に行う)
- 強い行き渋りがあるので「入口」対応を丁寧に行う必要があるタイプ
- わがまま・癇癪を起こしやすいことを把握しておくべきタイプ
- 場合によって手が出る(暴力を振るう)可能性があることを把握すべきタイプ
- 初手で主導権を握る必要がある、やんちゃなタイプ(花メンでは「肝つかみ系」と呼ばれる)
- 発言してもいいんだ、と実感させる必要があるタイプ(場面緘黙など、萎縮している子を含む)
etc.
2・「在校生のどの子と、どう繋げるか?」を何パターンもシミュレーションする
子どもの情報共有が終わった後は、「在校生のどの子と繋げるのか?」という話に移行していきました。この時点では、面談を担当したスタッフ以外は、まだ子どもたちに会ってはいません。
もし、こういうタイプの子だったら、Aと相性がいいんじゃないの?
このパターンもあり得るから、Bとも仲良くなれそうですよ!
このようなやり取りを通して、「繋げる在校生」に関するシミュレーションが、1人につき軽く5パターンくらい出てきます。また、繋げる上での在校生側への声かけについても、作戦を練ります。
Dは、こっそり廊下に1人で呼んで、”頼むぞ”と言うのが効果的なタイプだ。
EとFとGの女子グループは、絶対に新入生への声かけが上手だと思うよ。
スタッフは、子ども同士を繋いだ際に起きる「化学反応」を想像しながら、ワイワイと楽しそうに盛り上がっています。
ここでの「繋ぐ」は、あくまで「きっかけづくり」です。つまり「その在校生とずっと繋がり続けてほしい」という意味ではなく、「新入生にとって、入学初日にどの在校生と出会えたら、花メンが楽しい場所だと感じてもらえるのか?」という視点です。
3・「早く子どもたちに会いたい!」とつぶやく
会議で筆者の隣に座っていたミヤノこと加藤美耶乃さんが、「あ~、早く子どもたちに会いたい!」と独り言を呟いていました。共有される情報を聞きながら心配になる一方だった筆者は、「え!? 楽しみ??」と思わず聞き返したところ、「1人で対応するのだったら不安だけれど、花メンはチームだから、大丈夫!」とミヤノさんは言います。

花メン1年目、ケンカの仲裁ができずに悩んでいたミヤノさんのエピソードについては、下の過去記事をお読みください。 ↓
教師の最重要スキル「ケンカの仲裁」。その具体的ノウハウを3ステップで解説
4・入学初日の人員配置を確認する
在校生とのマッチングをシミュレーションした後は、入学初日のスタッフの動きを確認していきます。
「新入生が学校に辿り着けない可能性」を考慮して、「最寄り駅に迎えにいく組」「(学校がある)ビルの下で待つ組」「学校で欠席連絡を待つ組」など、スタッフの役割分担と配置を決めていました。
入学初日には、子どもが「緊張してしまう場面」をつくらない
入学初日の朝、スタッフが最終の打ち合わせをしていました。
初日に子どもたちをどう迎え入れるのか? 何しろ、新入生は全員が不登校経験者です。流れがスムーズに行かない場面があれば、「花メンに行かない!」「帰る!」が始まってしまう可能性も考えられるので、シミュレーションは綿密に行われていました。

筆者は、「最寄り駅に迎えに行く組」と一緒に行動することにしました。出発する前に円陣を組んで気合いを入れます。

最寄り駅へ迎えに行く

「駅組」は人数が多いようで、目印となる看板を持っての出発です。
子どもたちとの初対面
看板には、初めて会う子との会話の糸口を掴むため、「花メンタリークイズ」が付いていました(下写真)。
カタカナ2文字が大ゲンカしました。何と何でしょう?


スタッフは、それぞれに子どもとの初対面を果たしています。この場で早くも「帰る!」「行かない!」と言っている子もいましたが、もちろん想定内です。スタッフは余裕のある対応と技術で、全員を連れて花メンに向かいました。
戻ってきた「駅組」を含め、新入生はスタッフや在校生と一緒にゲームや折り紙をして、「花メンという場所」に気持ちと身体を慣らしていきます。

新入生・在校生に分かれての「朝の会」
気持ちが落ち着いてきた頃、「新入生」と「在校生」に分かれ、それぞれの「朝の会」が始まりました。
1・新入生の「朝の会」
「新しい学校での初日」は、誰にとっても緊張する日です。不登校を経験してきた子どもたちにとっては、なおさらのことです。だから緊張する場面となりがちな自己紹介は、なし。場が温まったタイミングで、「これ、何だと思う?」とソウタこと松本壮太さんが取り出したのは……。

なんとハンバーガー!「これ、腐食がどんなふうに進むか気にならない? ちょっと実験してみない?」と、思いがけない提案をします。
ソウタさん曰く、「いろんなお店で買ってきたハンバーガーを瓶に入れて、腐食の進み具合を観察する」のだとか。瓶にハンバーガーを入れる係を募集すると、「やる、やる!」と、新入生たちは手を挙げて「場」に参加し始めます。

このハンバーガー、俺、食べたことある!
そうなの? どこのハンバーガー?

学年を超えてこうした自然な会話が生まれると、一気に打ち解けていきます。
2・在校生の「朝の会」
別室では、在校生向けの「朝の会」を進行していました。ハヤトカゲこと林隼人校長が、子どもたちに「今日は、『新入生を迎えるPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)』だ」と伝えています。「そんなこと当たり前じゃん!」といった雰囲気で、在校生たちはもう、新入生を迎え入れる準備ができている様子です。

3・新入生・在校生合流
それぞれの「朝の会」が終わると、新入生が在校生の部屋に移動する形で合流します。

ハヤトカゲこと林 隼人校長は、こんな挨拶をしました。
俺が、君たちの学校の校長だ! 全力でこれから愛していくから安心してくれ!
「対応」ではなく「愛」
花メンの会議では、「“対応”されてきちゃったんだろうな。そこ、(愛で)埋めてかないと」みたいな会話がよくされています。一斉授業に不向きなタイプの場合、「課題がある子」としての「対応」をされてしまう……。「あなたの存在が大切だ」「あなたのことを信じている」ということをきちんと伝えていけば、子どもは変化していきます。それゆえ、花メンでは「愛」という言葉が頻繁に聞こえてきます。
いわゆる「校長先生の長いお話」はナシ! ゲームをするためのビブスを着用し、すぐに公園へ出発しました。

“先生の話を受け身でただ聞く”時間を短くすることで、いい意味で子どもたちに「考える隙」を与えないまま、流れに乗せていっているように感じます。
それにしても。「道路への飛び出し」がありそうな「イキのいい新入生」もたくさんいる中、初日に全員を町中(学校の外)に連れ出すなんて、「勇気があるなぁ」と、筆者は思いました。それがなぜ可能なのか? その理由については次項をお読みください。
花メン生(在校生)の主体性がスゴかった!
この日、筆者が最も衝撃を受けたのは、花メン生(在校生)たちの主体的な動きでした。
「不登校の子ども」という言葉とセットで語られがちなのは、「教師が寄り添う」「教師が伴走する」といったことで、「学校に行けない子は、大人のサポートが必要な存在」といった印象が拭えない気がします。けれども、「花メン」入学初日のスタッフの接し方を一言で表すなら、「在校生を信じて、任せている」でした。
当日は、「子どもの3分の1が不登校経験ありの新入生」という状況です。1人ひとりへの丁寧な関わりが必要ですが、スタッフの数には限りがあります。そんな時こそ在校生たちの出番です。
「固まって動けない子」「泣き出す子」「道に飛び出す子」「ケンカを始める子」など、各所で「事件」が勃発していましたが「ここは頼む!」「任せたぞ!」といったスタッフの言葉で、在校生は「何をすればいいですか?」などとはけっして聞かず、「わかった!」とそれぞれに動き出すのです。それ以前の話として、スタッフからの言葉がけなどなくても自ら状況を読み、動いていました。
しかもその動きが、驚くほど的確です。固まっている新入生をリードしたり、困っている子に声をかけたり……、正直、「大人でもここまでできる人はそう多くないのでは?」と思うレベルでした。
ハヤトカゲは、こんなふうに言っていました。
花メン生全員が、かつては「不安な新入生」でした。その時に対応してくれた花メン生が、今、子どもたちの心の中にメンターとして存在しているのでしょう。子どもの動きを見ていると、「これはMがやっていたことだな」「確かにSは、こういう動きをしていた」と、それぞれの子にとってのメンターの姿が透けて思い出されます。
入学初日の子どもたちの様子
入学初日の子どもたちの様子をスナップで振り返ります。



放課後は、スタッフ全員による振り返りで「不登校の芽」をあぶりだす
「不登校の芽」を高い精度であぶり出す
初日は午後2時半に終業し、「駅組」の子どもたちを駅まで送り届けた後、3時半から5時半までの2時間、スタッフ全員がじっくりと当日の振り返りを行いました。
当日は、活動に参加できなかった子、途中でケンカをしてしまった子、泣いてしまった子などがいて、様々な課題が抽出(可視化)されました。まずは、そうした1人ひとりのケースについて、スタッフ全員で「自分の持っている情報」を出し合います。
あのケンカ、どうして起こったのかな?
じつはBが□□と考えてやっていたところに、Cがこんな風に入っていったんだよ
それだったらBが怒るのはもっともだし、Cがその理由を理解できないのもわかるよね。じゃあ、BとCに◯◯な話を、△△のタイミングでしよう
ケースごとに情報を出し合い、状況を正確に掴んだ後、今後のPDCAを全員で共有していきます。対応についてのパターン分類と整理も行われていたので、筆者がキャッチできた範囲で以下に記しておきます。
支援の方向性を考えるための、子どもたちのタイプ分け(出会った後の振り返り)
- これまで大人に注意されることが多すぎたタイプ
- 繊細で、「話を聞いてほしい」と感じているタイプ
- 「自分の正義」で突っ走ってしまうタイプ
- 王子様キャラの子
- より手厚く支援する必要がある子どもたち etc.
1・これまで大人に注意されることが多すぎたタイプ
一言で言えば、多動。席に座っていられないなど、一斉授業を受けるには不向きなタイプなので、どうしても先生から注意を受ける機会が多くなってしまう。
2・繊細で、「話を聞いてほしい」と感じているタイプ
繊細で話を聞いてほしいタイプ。そんな気持ちをこじらせてしまい、自分の内面に深く潜って、閉じこもってしまう子もいる。「その子の心にどのようにアプローチしていくのか?」というテーマで、子どもごとに協議が行われていた。
3・「自分の正義」で突っ走ってしまうタイプ
「自分の正義」で物事を判断してしまい、周囲との衝突が絶えないタイプ。自分が思う「正しさ」以外の考え方があるということを、どのように伝えていくのか? について話合いが行われた。
4・王子様キャラの子
高いスペックを持ち、周囲の評価や理想像にがんじがらめになっている「王子様キャラ」。「王子様」という立ち位置から、どうやって降ろしてあげるのか、についての情報共有が行われた。
5・より手厚く支援する必要がある子たち
「『帰りたい』と一日中泣き続けていた高学年の子」「精神的に乳幼児期を脱していない子」など、個別のケアが必要な子については、より長時間の話合いが行われていた。
こうしたスタッフ会議での協議を聞きながら、筆者は、「ケア不足により不登校に繋がる『パターン』がいくつも存在するんだな」と感じました。花メンでは既に経験が蓄積されているので、そんな「不登校の芽」を高い精度で見つけ出すことができます。また、その芽をもった子どもにどう関わるか、というマインドセットとノウハウも、日々蓄積されています。
「不登校の芽」と「才能」は表裏一体
一方で、「不登校の芽は、”その子らしさの萌芽”でもあるのでは?」とも感じ、以前、ハヤトカゲを取材した際の過去記事を思い出しました。
知能や能力が高く、尖った才能のある子は、基本的に大きなエネルギーをもつ子です。そんな子の中には、つい手が出てしまう子もいます。もちろん手が出てしまうこと自体は、ほめられることではありませんが、一方的にジャッジされる関係性の中でエネルギーを抑えきれなかった、という見方をする方が実態に近いと思います。こうした子どもたちは、発達障害等があると見なされ、WISC検査を勧められて……と、どんどん悪循環に陥っていきます。仲間とのつながりさえあれば学校にいられたはずの子たちが、こうして不登校になるケースもあるのです。
不登校の子が、仲間との絆で一人残らず変わる ~花まるエレメンタリースクールの挑戦~
元気いっぱい、繊細、正義感がある、完璧主義、特定分野の能力が高い……。そうした「ふつう」からはみ出る個性、1人ひとりの「尖った部分」への関わり方が全国の現場に共有されていけば、不登校に追い込まれずに済む子が増えるのではないか? その子「らしく」主体的に動いている花メン生を見て、「『不登校の芽』と『才能』は表裏一体」、そんな言葉が思い浮かびました。
花メンが新入生を迎えるのは、年度途中入学を含めて今回で7回目です。初日の会議では、スタッフたちから、「去年の自分だったら、◯◯していた…」とか、「今までだったら私がやっていたことを、子どもに任せることができた…」という言葉が頻繁に聞かれました。
スタッフの経験値もアップし、花メン生も集団として育っているのでしょう。今年度の1年間で、「チーム・花メン」がどのような成長を遂げるのか? そんなことが楽しみになる4月の初日でした。
取材・文/楢戸ひかる
花まるエレメンタリースクール 「メシが食える大人に育てる」花まる学習会が運営するフリースクール。これからの時代に必要な力を”体験”を通して”五感”を使って身に付ける。不登校の子、不登校でなくても才能を伸ばす新たな学びの場を探している子が通っている。HPは、コチラ。インスタグラムは、コチラ。
取材・文 / 楢戸ひかる(ならと・ひかる)
ライター。「ギフテッド」や「学校に行かない選択をした子どもたちのためのフリースクール」取材を通じて、「選択肢としての新しい学び」や「教育活動の連携」を探究している。自身のサイト「主婦er」内に「ギフテッド関連記事のリンク集」がある。
↓ 学校に行けない子には、ギフテッドの特性があるのかも!? 基礎知識が分かる1冊、発売中です。

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