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「合理的配慮」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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日本は今、障害のある人もない人もともに生きる「共生社会」の実現をめざしています。そのための取組の一環として、教育委員会や学校も含む事業者に対し、「合理的配慮」の提供を義務づけることなどを内容とする「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」(「改正障害者差別解消法」)が、令和6年4月1日に施行されました。この法律の施行で公立、私立を問わず、学校における「合理的配慮」の義務化が徹底されました。その実効性が問われるステージに入った現状を解説していきましょう。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

「合理的配慮」とは

【合理的配慮】
障害者が他の者と平等に全ての人権および基本的自由を享受し、または行使することを確保するための必要かつ適当な変更および調整。特定の場合に必要とされるものであり、かつ、均衡を失したまたは過度の負担を課さないもの。

上記は「障害者権利条約」で規定された社会全般にわたる「合理的配慮」の定義です。これに基づいて、学校における合理的配慮については次のように述べられています。

障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの

文部科学省(ウェブサイト)「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)

さらに、合理的配慮の実施について「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とあり、その実施にあたっては、一人一人の障害の状態や教育的ニーズなどに応じて設置者・学校と本人・保護者が可能な限り合意形成を図ったうえで決定し、提供されることが望ましいとされています。

「合理的配慮の提供」が義務化された経緯

合理的配慮の概念や具体化までの主な関係法などの整備の流れを整理すると次のようになります。

障害者権利条約
2006年に国連で採択された。日本は2007年に署名、2014年に批准。この動きに合わせて国内法の整備が進められる。

学校教育法(改正)
2006年、特別支援教育の推進に伴い、障害のある児童生徒に対する適切な指導や支援を行うことが明記された。

障害者基本法施行(改正)
2011年、「障害者」の定義の見直しとともに、共生社会の実現をめざし、障害を理由とした差別の禁止と合理的配慮の提供を求める規定が新設された。

共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)
2011年、学校における「合理的配慮」の観点や具体例が示される。

障害者差別解消法(2016年施行・2021年改正)
2021年の改正により、事業者(私立学校などの民間教育機関も含む)による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化された。

このように、共生社会の実現をめざす世界の流れに乗じて国内法の整備が進められ、障害者の「不当な差別的取り扱い」を禁止し、「合理的配慮」および「環境の整備」の具体化が強化されることになりました。「義務化」ですので、果たさなければ障害者を「差別した」とみなされます。このことを広く国民に周知するために内閣府は次のようなリーフレットを作成、配付しており、国の強い姿勢があらわれていることがわかります。

学校教育での合理的配慮

学校における合理的配慮は共生社会実現の観点から、重要な役割を果たします。なぜなら、学校は未来の社会の形成者である子どもの育成にあたっているからです。では、学校での合理的配慮の実際はどのようになっているのでしょう。「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)別表」には、学校現場での一人一人の障害の状態や教育的ニーズなどに応じた取組の対象や具体例が示されています。

【合理的配慮の対象となる障害の種別
視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱、言語障害、自閉症・情緒障害、学習障害、注意欠陥多動性障害

これらの障害のある子どもたちの状態に応じて、次の11の観点から、障害による「困難さ」についての配慮の視点と具体的な支援が示されています。

①学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮 
②学習内容の変更・調整
③情報・コミュニケーション及び教材への配慮 
④学習機会や体験の確保 
⑤心理面・健康面の配慮
⑥専門性のある指導体制の整備 
⑦幼児児童生徒、教職員、保護者、地域の理解啓発を図るための配慮 
⑧災害時等の支援体制の整備 
⑨校内環境のバリアフリー化 
⑩発達、障害の状態及び特性等に応じた指導ができる施設・設備の配慮 
⑪災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮

例えば、学習障害のある、読むことや書くこと、計算することを苦手とする子どもには、その苦手なことをできるようにする別の方法や他の力で補完できる配慮を検討することになります。「文字の形を認識できるよう教材や教具を工夫する」「ICTの機能を活用する」「個別に口頭で説明する」などのサポートが考えられます。

サポート例のように、学習障害といっても読むことや書くことなどの困難さはまさに個々に異なります。発達段階によっても、全てを配慮してしまうことが本人の成長を促す点でよいかどうかという吟味も必要になります。合理的配慮が義務化されましたが、子ども一人一人の教育ニーズとその最適な配慮を検討することの難しさは容易に解消できないことも現状の課題です。

今後の課題

そもそも学校教育における合理的配慮の義務化は障害のある子どもへの配慮ですが、全ての子供に得意、不得意があります。そして、それに基づく、その子にとっての教育的なサポートのニーズがあります。合理的配慮の基本的な考え方は適切な教育を受けるために学校教育基盤となる重要なステップといえるでしょう。

しかし、その実効性には次のような課題について認識しておく必要があります。

1.教員不足と専門知識の不足
●現在、多くの学校では教員不足が深刻であり、一人一人に対する十分な対応が難しくなっている。合理的配慮が必要な教職員もいる場合もある。
●特別支援教育の専門知識を持つ教員が不足しており、一般教員が合理的配慮を求められるケースが増えているが、研修の機会も限られている。

2.支援体制の未整備
●学校ごとに支援員等の配置状況にばらつきがあり、とくに私立学校では支援リソースが不足しがちと言われている。
●相談窓口やコーディネーターの役割を果たす人材が十分に確保されていない。

3.学習環境の整備不足
●物理的なバリアフリー(エレベーター、スロープ、トイレの整備など)が進んでいない学校も多い。
●ICT端末の活用が求められるが、予算や学校のICTリテラシーに課題がある。

4.保護者との連携の難しさ
●どの程度の配慮が必要なのか、学校と保護者の間で意見が食い違うことがあり、教員もその対応力向上の学びの機会を保障されているとは言い難い。
●保護者の協力が必要だが、学校側の説明不足や、逆に過剰な期待が生じることもある。

5.他の子どもとの関係調整
●障害のある子どもだけでなく、クラス全体のバランスを考えながら配慮する必要がある。
●教員が合理的配慮に力を入れることで、他の子どもとの公平性の観点で難しさが生じることもある。

6.教育現場の負担増加
●行財政的なバックアップ不足により、合理的配慮のための工夫や調整で教員の業務負担が増大し、結果的に学校全体の教育の質に影響する可能性がある。
●個別対応を求められる一方で、通常の学級運営や他の子どもへの支援も並行して行わなければならない。

共生社会の実現という崇高な理念と学校現場の実態との乖離を今後どう解消していくかが大きな課題といえます。

専門家の活用(特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーの充実)や、ICTの活用(デジタル教材、AI支援ツールなどの導入)、教員研修の充実(合理的配慮の具体例を学ぶ機会を増やす)、学校と地域・保護者の連携強化(支援体制を整え、相互理解を深める)などの解決に向けた視点は確認されていますが、現場目線で見たときに、これらは実現可能かつ持続可能であるといえるでしょうか。

自治体の姿勢、行政の工夫・努力、学校の不断の努力が必要です。合理的配慮の実効性を高めるためには単に義務化するだけでなく、それを支えるリソースと仕組みを国や自治体が予算を確保して適切に整備することが不可欠でしょう。

▼参考資料
外務省(PDF)「障害者の権利に関する条約」令和6年6月19日
文部科学省(ウェブサイト)「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」初等中等教育分科会、平成24年7月23日
文部科学省(ウェブサイト)「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 別表」初等中等教育分科会
内閣府(PDF)「障害者差別解消法が変わりました! 令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました

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