読み書き障害の子への支援に必要なこと

特集
支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ
関連タグ

NPO法人えじそんくらぶ代表

高山恵子

読み書き障害は、知的な遅れや視覚障害はないものの、読んだり書いたりすることが苦手な障害です。文部科学省によれば(平成24年の全国調査「知的発達に遅れはないものの読む、または書くに著しい困難を示す、通常の学級に在籍する児童・生徒の割合」の調査結果)、通常学級に2.4%いるとされています。ここでは、学習障害の一つである読み書き障害の支援方法をご紹介します。

監修/ NPO法人えじそんくらぶ代表 ・高山恵子

読書
撮影/金川秀人

見逃されやすい読み書き障害

読み書き障害の子供は、おしゃべりが上手で人間関係は良好なことも多いので、「見逃されやすい障害」と言われています。

読み書き障害の子供の困難さは様々で一概には言えません。ただ、「学習不振」で片付けられていた状態は、脳や視機能の不具合の可能性があることを、まず知って頂きたいと思います。

私がアメリカの大学院に留学していたとき、クラスメートの一人に「私は読み障害を持っているの。私の弟もそうよ」と言われ、驚いたことがあります。彼女は修士号を2つ持っている教師で、弟は弁護士です。特別支援の専門家の支援を受けて社会に貢献している彼らと出会い、アメリカと日本でのサポート体制の差に愕然としました。

下記は読み書き障害がある場合の特徴です。「あれ?」と感じたら、少し気をつけて配慮をしてあげてください。あとで紹介する「T式ひらがな音読支援」など、支援の「方法論」は増えています。

小学校時代に子供の抱えている困難さに気づき、早期に適切な支援を行うことで、将来の自立と社会参加の状況は大きく変わっていくことでしょう。

読み書き障害がある場合の特徴
(国立研究開発法人 国立成育医療研究センターHPより抜粋)
クリックすると別ウィンドウで開きます

音読が苦手な子には?

音読が苦手な子には
音読が苦手な子には-1

Aさん、他のことはできるのに…

Aさんは、他のことはできるのに、やけに音読が苦手。でも、他のことはできるから、まぁ、大丈夫かな。

↓ ↓ ↓

解決策が見つからず一人で悩んでいるかも

読み書き障害の子は読み書きが苦手でも、知的障害がないので、気づかれず苦しんでいることがあります。

音読が苦手な子には-2

そのうちに、できるようになるでしょう

運動も得意だし、今は勉強に興味がないだけかな? 興味が出てきたら、自分で勉強するようになるでしょう。

↓ ↓

努力不足ではないので、適切な支援が必要

脳機能の不具合であるのなら、適切な支援が必要です。支援があれば困難感は軽減されます。

《特性》読字に必要な脳の神経回路の不具合かも?

脳の神経回路に機能不全があると、読字が困難になることがあるとされています。

《支援策》T式ひらがな音読支援や東京都教育委員会の指導資料なども

国立研究開発法人 国立成育医療研究センターのHPでは、小児科医を中心とした研究チームが長年かかって完成させた「T式ひらがな音読支援」を紹介しています。指導法、指導に使えるアプリの入手方法、活用法などの情報があります。

東京都教育委員会では、読み書きに困難がある子供を支えるための指導資料を作成しています。資料は、HPからダウンロードすることもできます。

視力は悪くないはずなのに…

視力は悪くないはずなのに

目が悪いのかな? でも、視力検査は、何ともない

視力は悪くないはずなのに-1

教科書を独特な感じで見るから、目が悪いのかな? でも、視力検査では、両目とも1.0だったけど……。

↓ ↓

視機能の問題で、学習が困難なことも

「視力」と「視機能」は、違います。日本では視機能の問題についての認知度が低く、見落とされがちです。

視力は悪くないはずなのに-2

今だに鏡文字がある……。どうしてかなあ?

小学校の低学年ならともかく、高学年になってまで鏡文字を書いている。どうして?

↓ ↓ ↓

視機能の専門家オプトメトリスト

「視機能」に関する専門家として、オプトメトリストがいます。日本での認知度はまだ低いですが、海外では国家資格としている国もあります。

《特性》視力は大丈夫でも、視機能に課題があることも

視機能は大きく分けると3つの機能があり、不具合があると、読み書きに課題が出ます。

【入力機能】目から入る情報を脳に取り入れる機能です。課題があると、読みが苦手になる傾向があります。

【視覚情報処理機能】情報を脳の中で認識・分析し、見えているものを理解する機能です。課題があると、イメージが難しいのでデザインや理工系科目などが苦手になる傾向があります。

【出力機能】情報を元にイメージをつくり、身体を動かしたり書いたりする機能です。身体との協調が必要です。

《支援策》保護者への情報提供をお願いします

この概念が周知されることで、課題を持つ子の発見の手助けとなるでしょう。概念やトレーニング法などを記載した小冊子(『ちゃんと見えているかな? 視覚の専門家オプトメトリストからのメッセージ』北出勝也著/えじそんブックレット/定価400円+税)もあります。

*えじそんブックレットは、えじそんくらぶHPから注文できます。

読むことは、本当に苦手だけれど…

読むことは本当に苦手だけれど
読むことは本当に苦手だけれど-1

読むのは苦手だけれど、話すと理解ができる

この子、教科書を使った文字情報だと伝わらないけれど、教科書の内容を読んだら伝わる……。

↓ ↓ ↓

利き腕のように、人には優位に働く感覚があります

個性を重視するアメリカでは、「学習スタイル」を大切にするという考え方があります。

読むことは本当に苦手だけれど-2

ケアをしてあげたいけれど、手が回らない!

この子、ケアをしてあげたいけれど、手が回らない! すごく気になる。どうしてあげたらいいの?

↓ ↓ ↓

教科書を音声教材化した図書館があります

下記に紹介した通り、障害により印刷物を読むことが難しい方のためのオンライン図書館があります。

《特性》「学習スタイル」を大切にするという考え方

人には優位に働く感覚があります。大きく分けると、「視覚型」「聴覚型」「体得型」の3つです。たとえば視覚型の子は、英語のappleのスペルを書いて覚えますが、聴覚型の子は「エー・ピー・ピー・エル・イー」と音で覚える方が楽なのです。

このように、先生が一番効率的だと思っている今までの指導方法が、すべての子にとって効率的であるとは限りません。「学習スタイルを大切にする」という視点をもてると、その子に合った個別の指導を深める一助になります。

《支援策》読むことに困難のある子のためのオンライン図書館

東大先端研が運営するアクセス・リーディング(AccessReading)というオンライン図書館では、読むことに困難のある子供たちに向けて、教科書などの電子書籍を無償提供しています。

高山恵子(たかやまけいこ)●特別支援の先駆者。NPO法人えじそんくらぶ代表。新著『「みんなの学校」から社会を変える』(木村泰子×高山恵子著/小学館)では、「教えること」という土台には、人間同士の信頼関係が大切なことを提言しています。

取材・文/楢戸ひかる 構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ

『教育技術小五小六』2020年2月号より

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ
関連タグ

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました