「体験格差」とは?【知っておきたい教育用語】
近年、親子の新たな社会問題として注目されている「体験格差」。体験格差が広がる背景を解説するとともに、子どもの頃の体験活動が重視される理由や解消のための取組などを紹介します。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム

目次
体験格差とは
【体験格差】
「体験の貧困」とも呼ばれ、家庭や地域によって子どもが得られる学校外での体験活動の機会に格差が生じること。学校外における体験には、放課後に子どもが行う遊びや習い事のほか、旅行といった宿泊体験もある。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが2022年に実施した調査によると、年収300万円未満の低所得世帯の小学生の3人に1人が1年間のなかで習い事や旅行といった「体験活動」を何も行っていないことがわかりました。
スポーツや文化芸術活動をはじめとした学校外の体験活動がない子どもの多くが「家庭の経済的事情」を要因としており、やりたくてもできない、させてあげられないという状況を背景にしています。また、家庭の経済的事情以外にも以下のようなことが体験格差の要因として挙げられています。
①保護者の時間的余裕(送迎など)
②地理的条件(選択肢の格差)
③保護者の体力的・精神的余裕
④情報の格差
⑤家庭や地域の文化資本
体験活動の機会の提供は保護者にかかる負担が大きく、また地域によっても格差が生じることがわかります。では、体験活動は子どもの成長にどのような影響をあたえるのでしょうか。
「体験」の重要性
文部科学省「令和2年度『体験活動等を通じた青少年自立支援プロジェクト』」によれば、小学生の頃の体験活動によって、以下のような影響があることがわかっています。
21世紀出生児縦断調査で回答されたデータを再分析したところ、小学生の頃に体験活動(自然体験、社会体験、文化的体験)や読書、お手伝いを多くしていた子どもは、その後、高校生の時に自尊感情(自分に対して肯定的、自分に満足している、など)や外向性(自分のことを活発だと思う)、精神的な回復力(新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来に対して前向き、など)といった項目の点数が高くなる傾向が見られました。また、小学生の頃に異年齢(年上・年下)の人とよく遊んだり、自然の場所や空き地・路地などでよく遊んだりした傾向のある高校生も同様の傾向が見られました。
文部科学省(PDF)「令和2年度『体験活動等を通じた青少年自立支援プロジェクト』」
上記のことから、子どもの頃の体験活動は中高生以降の精神的な成長に好影響をあたえることがわかります。そして、自己肯定感やコミュニケーション能力、自分の感情をコントロールする力といった、子どもの精神的な成長は「非認知能力」の発達にも関わり、子どもの将来の進路や職業の選択、ウェルビーイングの向上にもつながっていきます。
体験格差の解消に向けた取組
体験格差の解消にあたって、多くの自治体や団体がさまざまな取組を実施しています。文部科学省「子供たちの未来を育む豊かな体験活動の充実」では、「青少年の体験活動を推進するための取組」として、「学校教育における体験活動」「地域と学校の連携・協働による放課後や土曜日等の学習・体験活動」「家庭における体験活動」について推進体制の構築を図っています。
体験活動の内容については、生活・文化体験活動として「読書活動」や「スポーツ機会の充実」、「文化芸術体験」「自然体験活動」、社会体験活動として「職場体験・インターンシップ、ボランティア活動」など多岐にわたります。
また、こども家庭庁「『多様な体験活動の機会づくりと参加促進』について」では、体験活動の推進として以下のような方策を掲げています。
●こどもの成長に応じた多様な体験活動の推進
こども家庭庁(PDF)「多様な体験活動の機会づくりと参加促進」青木康太朗、2023年7月25日
●困難を抱えるこども・若者の体験活動の充実
●こどもの育ちにおける体験活動の意義に関する社会的理解の促進
●体験活動のイベント情報等に手軽にアクセスできるプラットフォームの構築
●家庭の経済状況に応じた参加費の補助や参加に掛かった費用の税額控除等の経済的支援
●教職課程における「生涯学習(又は社会教育、地域連携等)」に関する科目の必修化
→青少年教育施策関係予算の増額
→青少年の体験活動を推進するための法律の制定
子どもの成長や人格形成などにも重要な影響をあたえる体験活動。子どもたちが家庭の経済状況や地域などの環境によって不平等が生じないよう、社会全体の課題として「体験格差」を考えていく必要があるでしょう。
▼参考資料
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(PDF)「子どもの『体験格差』実態調査最終報告書~全国の小学生保護者2,097人へのアンケート調査~」2023年7月4日
文部科学省(PDF)「令和2年度『体験活動等を通じた青少年自立支援プロジェクト』」
文部科学省(PDF)「特集 子供たちの未来を育む豊かな体験活動の充実」
こども家庭庁(PDF)「多様な体験活動の機会づくりと参加促進」青木康太朗、2023年7月25日