いいクラスの第一歩は机の中から!~整理整頓でこんなに変わる学級経営~

学級経営が思うようにいかない原因として、「整理整頓のシステムがあいまいだった」というケースは意外と多いものです。机やロッカーをきちんと整えるだけで、児童の学習意欲が高まり、学級全体の落ち着きも増していきます。少しの工夫と継続で、学級は大きく変わる、そんな整理整頓の秘訣を、ぜひいっしょに探ってみましょう。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

目次
整理整頓が学級づくりを左右する理由
研修を終えたある初任者教員が、「1年を振り返ってさまざまな悩みがあったが、特に整理整頓の指導がうまくいかなかった」と語っていました。
これは実に良い気づきだと思います。整理整頓とは、正しい生活習慣を身に付けることであり、集団生活にとっては欠かせない基本的な要素だからです。
4月は学級づくりのシステムを整えるうえで重要な時期ですので、ぜひ整理整頓のルールをしっかりと導入していきませんか?
散らかった環境は思考も散らかす
「整理整頓など些細なこと」と軽視しがちですが、実は教室環境が乱雑だと、必要なものを探す時間が増え、授業のテンポや集中力を乱します。反対に、必要なものをスムーズに取り出せる環境を整えれば、学習効率が上がり、授業のリズムも向上します。
生活習慣を整える “最初の一歩”
整理整頓を徹底することは、児童の生活習慣づくりの基礎にもつながります。朝登校してまず机の中を整えることで、一日のスタートスイッチが入り、行動をコントロールしやすくなります。加えて、身の回りを清潔に保つ習慣が育つと、「自分の行動に責任を持つ」という意識の芽生えにも結びつきます。
学級経営全体への波及効果
整理整頓が行き届いた教室では、指導者としての声かけが的確になり、児童もスムーズに動けます。「片づけなさい!」と叱る時間を減らせるため、より教育的なコミュニケーションや学習活動にエネルギーを注げるようになるのです。その結果、学級全体の雰囲気が好転し、指導がしやすくなるという好循環が生まれます。
視覚に訴える! “お手本” の示し方を工夫する
画像やイラストのインパクト
特別支援学級などでは、写真やイラストを活用した“視覚的支援”がよく行われています。
① 実際の机の中を撮影し、理想的な配置例を写真で掲示する
② イラストで「教科書はここ」「ノートはここ」といった“位置マップ”を作る
文字の説明だけでは理解しにくい児童も、ひと目で「このように片づければいいのか」とイメージできる点が大きな利点です。片づけが苦手な児童でも、この方法なら一定の成果が期待できます。
ラベル・色分け・区画分け
ファイルや収納ケースにラベルを貼ったり、教科ごとに色を決めて仕分けをしたりと、色や文字を使った“区分”を設けるのも効果的です。机の中を区画として認識しやすくなることで、「ここに入れる」「ここには入れない」というルールを自然に守りやすくなります。
「児童自身が作る」掲示物
担任が一方的に作るのではなく、児童自身が模範的な整理整頓をした机を撮影し合い、掲示物として完成させる方法もおすすめです。自分たちで作ったものには愛着が湧きやすく、当事者意識も高まります。その結果、掲示物への注目度が上がり、実際の行動にもつながりやすくなります。また、タブレットが一人一台になった現在、こうした写真の撮り合いを通じて学び合う機会も充実させることができます。
「ほめる」ことが習慣化を加速させる
整理整頓のほめ方の基本は「具体的」「すぐ」「小まめ」
児童にとって「ほめられること」は何よりのやる気を引き出す源泉です。特に整理整頓の場合、「さっき机の中を見たら、教科書とノートがしっかり並んでいたね」と具体的にほめると、自分の行動が認められていると実感しやすくなります。ほめるタイミングは「気づいたときにすぐ」が理想で、小さな進歩もこまめに声をかけると継続につながります。
「ゲーム感覚」でモチベーションアップ
① 清掃や片づけタイムにタイマーを使い、「○分以内にここまで片づけよう!」とチャレンジさせる
② グループごとにポイント制を導入し、整理整頓が優秀だったチームにちょっとした特典を与える
こうした遊び心を取り入れることで、児童の意欲は驚くほど高まります。「ほめる×ゲーム要素」は整理整頓を楽しく身につけるうえで非常に有効な手だてです。ただし、○○さんのせいでポイントがとれない、という発想にならないよう、あくまでも「みんなで楽しむ」ことを重視する配慮が必要です。
成功事例を全体でシェアする
学級の中にはすでに整理整頓が得意な児童がいるかもしれません。その児童の机を見学し、「こういうやり方があるんだね」とみんなで共有することも重要です。児童同士で教え合うことで学級全体の意識が高まり、担任の指導だけに頼らない “学び合い” が促進されます。「しっかり」「きちんと」といった副詞だけでは分かりづらい場面も、具体的な成功事例を見ることで理解が深まります。
定期的な「リセット」で乱れを防ぐ
“全出し” で一斉整理のインパクト
机やロッカーが少しずつ散らかってきたと感じたら、思い切って「全出し」を実施するのがおすすめです。これは一般に「断捨離」の考え方としても知られています。
① まずはすべての物を出し、「必要」「不要」に分類する。
② 必要なものを所定の位置に戻し、正しい配置を再確認する。
③ 不要なものは捨てるか家に持ち帰るなどして厳選する。
「すべて出す」という行為は児童にとってインパクトが大きく、自分の持ち物を見直すよい機会になります。保護者の了承を得られるなら、グループ内の持ち物を一度ダンボールにまとめ、「お楽しみbox」を作ってから再整理すると、イベント的な楽しさも生まれます。
“リセットデー” の設定
週末や月末など、定期的に「机の中リセットデー」を設けるのも効果的です。担任が「今日の昼休みに全出しタイムをしよう」と声かけするだけでも、“習慣的に片づける” 文化がクラスに定着していきます。帰りの際に机の引き出しを机上に置いて帰る学級も少なくありませんが、そうした小さな仕組みから始めるのもいいです。
リセット後のチェックとフォロー
一斉整理の後は、担任や係の児童が「きちんと整理できているか」をチェックする仕組みを作ることが大切です。ここでも「ほめる」絶好のチャンスが生まれます。「次はもう少しここをきれいにしよう」といった具体的な声かけで、さらなる改善を促すことが可能です。

児童といっしょに “システム” を進化させる
児童のアイデアを積極的に取り入れる
整理整頓のシステムを担任が一方的に決めて押しつけるのではなく、児童の声を反映させるとモチベーションは格段に上がります。
「どこに掲示すれば見やすい?」
「どういう色分けが理解しやすい?」
「いつリセットするのがいい?」
こうした問いかけを通じて、いっしょにシステムを作り上げるプロセスそのものが、学級の学びや成長の機会となります。
係・当番制で主体性を育む
「整理整頓係」や「デスクチェック係」を設けると、児童の当事者意識が高まります。係の子が中心となって、「今週はここの乱れに気をつけよう」と声をかけ合えば、クラス全体が “自分たちでルールを守る” 方向へ動きやすくなるでしょう。もちろん、担任も自分の机をこまめに整理し、模範を示すことが大切です。
“試行錯誤” のサイクルを味わう
導入したシステムがうまくいかなかった場合、「改善しよう」「別の方法を試してみよう」と考える試行錯誤のプロセスこそが貴重です。失敗から学ぶ経験は、児童の問題解決能力や柔軟な思考力を育てます。担任が先頭に立って指示するだけではなく、「どうすればいいと思う?」と共に考え、対話を重ねることで学級全体が成長していきます。
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整理整頓は、ただ物をきれいに片づけるためだけの行為ではありません。児童が「今、自分に必要なものは何か」「どうしたらスムーズに学習できるか」を考え、自ら工夫し、行動を改善していくための出発点でもあります。視覚に訴える掲示やこまめなほめ言葉、定期的な“全出し”とリセット、児童自身のアイデアを生かしたシステムづくり……。こうした積み重ねこそが、学級全体の落ち着きと主体性を育てる鍵です。まずは小さな一歩から、整理整頓を“学級革命”のきっかけにしてみましょう。
【参考図書】
・近藤麻理恵『人生がときめく片付けの魔法』(サンマーク出版)
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。