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自分で見るから理解が深まる! メダカの卵の観察 ~子どもが主体的に学ぶための工夫~ 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】自分で見るから理解が深まる!メダカの卵の観察 ~子どもが主体的に学ぶための工夫~
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子どもが主体的に学ぶためには、子ども自身が目標をもっていること、やるべきことがわかっていることが必要です。また、人がやっている実験をみるだけよりも、自分が参画する実験の方がやる気は増すように、自分自身が問題解決に関わっているということも大切です。今回はメダカの卵の観察で子どもたち一人一人をどのように参加させるか、主体的に学ばせるための工夫についてのお話です。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/三重県鈴鹿市教育委員会教育指導課副主幹兼指導主事・鈴村一将
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

理科の授業で、子どもたちが主体性を発揮するために…

理科の授業では、導入時に身近な自然現象と子どもたちを出合わせることや、単元末にこれまでの学びを活かして解決できるような課題に取り組むことなど、様々な場面で子どもたちの「主体性」を引き出す工夫が考えられます。
今回は5年生を対象に、学習指導要領におけるB生命・地球⑵動物の誕生で、「メダカの発生や成長」を扱う場合の「主体性」を引き出す観察の工夫を紹介します。

1人が1つの卵を観察

「主体性」を引き出す観察の工夫の1つ目は、メダカの卵を1人が1つ観察することです。ひとりひとりが観察できる環境を整えることは、それぞれの子どもたちに、十分な観察時間を確保することにつながります。そうすることで、ひとりひとりの興味や問題意識に応じて、自律的に観察に取り組むことができます。「心臓が動いている」、「血液が流れている」だけでなく「拍動の数は、私たちと同じかな?」、「血液はどこからどこへ流れているのだろう?」と主体的に探究する姿につながることでしょう。
こうした学びを実現しようとする時、特に課題となるのは、〈卵の準備〉と〈観察道具の準備〉です。

〈卵の準備〉
◼︎理科教材会社等を通じて購入する
自分たちで一度にたくさんの卵を用意するのは困難です。近年は、多くの教材会社が扱っているほか、インターネット通販を利用すれば比較的安価に入手することが可能です。業者等で購入する際は、取引可能な業者か、校内の会計担当や事務職員に確認しましょう。
業者から購入する場合でも、メダカの産卵の様子を観察できる機会は必ず設けるようにしましょう。メダカの卵を採取する方法については、「メダカの準備と授業の導入場面 〜第5学年「魚のたんじょう」【理科の壺】」を参照してください。
生態系への影響を防ぐため、業者から購入した卵から孵化したメダカは、絶対に放流してはいけません。

〈観察道具の準備〉
◼︎1人1台端末を用いて観察する
個人での観察をしようとしても、多くの学校では顕微鏡の台数が不足するのではないでしょうか。そこで、今回は、1人1台端末を活用する方法を紹介します。
1人1台端末と、端末のカメラに装着することができる「タブレット顕微鏡」を使用します。端末のインカメラに装着すると、画面に拡大された試料が映し出され、顕微鏡の代用となります。さらに、画像や動画を撮影することで、容易に記録をとることができます。
※今回使用したのは三重大学で開発されたタブレット顕微鏡「ミエル1㎜」です。

◼︎卵を保護できるプレパラートを使用する 
厚みのある卵を保護するため、ウレタン製のテープで厚みを出したプレパラートを作成しました。
(教材会社からも、メダカの卵のための保護機構がついたスライドガラスが発売されています)
これによって、厚みがあるメダカの卵の観察が可能になります。メダカの卵を回転させたり、様々な角度から観察したりできます。拍動や血流を見つけることも容易にできます。
このプレパラートの作成方法は以下の通りです。
⑴ 通常のスライドグラスと、2ミリの厚さがあるウレタンテープを用意します。※メダカの卵は直径1.5ミリです。
⑵ 約1㎝の間隔を空けて、ウレタンテープを貼り付けます。
⑶ テープとテープの間に、メダカの卵と少量の水を入れます。時間が経つと水が蒸発していくので、卵が乾燥しないように補充が必要です。
⑷ メダカの卵の上から、約2㎝四方のプラスチック製のシート(クリアファイル等で可。できるだけ透明度の高いものが良い)をかぶせます。これは、カバーガラスの代わりで、児童が観察中に割ってしまうことを避けるために使用します。

※写真のプレパラートは「メダカ学全書 新版/岩松鷹司/大学教育出版」を参考に筆者が作成 

大型モニターで卵を常に観察

卵の育ちの観察は教科書でも扱われており、解剖顕微鏡や双眼実体顕微鏡を用いた方法が示されています。ただ、この方法では、観察機会が限られ、卵の育ちの経過を見逃してしまうこともあります。
そこで、今回は大型モニターを活用して、卵の育ちを多数の児童が同時に、継続的に観察できる方法を紹介します。

◼︎顕微鏡の視野を大型モニターに投影
近年、顕微鏡の視野画像を外部出力できる機器がたくさん販売されています。カメラだけを購入し、既存の顕微鏡に取り付けるものや、カメラと顕微鏡が一体となったものなど様々なものがあります。どのような機器を使用しても構いませんが、今回は、カメラと顕微鏡が一体となったものを使用しました。
プレパラートは、上述のような卵用のプレパラートを使用します。(卵の乾燥に注意)
この状態で、廊下等の誰もが常時見られる場所に設置しておきましょう。
子どもたちは、自然と卵の日々の変化に興味を持ち、主体的に観察し始めます。
また、孵化の瞬間をみんなで共有できることも、この実践の大きな魅力です。生命を尊重する態度の育成にも資すると考えられます。

今回は、「自分で見るから理解が深まる!メダカの卵の観察 ~子どもが主体的に学ぶための工夫~」 と題して、実践を紹介しました。この記事を参考にされた先生方の授業で、子どもたちが「主体性」を発揮する場面が少しでも増えれば幸いです。

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

理科の壺は毎週水曜日更新です!


鈴村一将先生

<執筆者プロフィール>
鈴村一将●すずむら・かずまさ 鈴鹿市教育委員会事務局 教育指導課 指導G 副主幹兼指導主事/三重CST(コアサイエンスティーチャー)/三重県小学校理科教育研究会(書記)/三重大学教職大学院修了(教職修士)
小中学校の教員として、理科教育やICT端末活用を中心に実践を重ね、教職大学院では、子どもたちの主体的な学びを支える「動機づけ」に関する研究を行う。過去には、県・市教育委員会主催の教職員研修講座で講師を担当。現在は指導主事として、鈴鹿市内小中学校の校内研修等で現場の先生方と共に学んでいる。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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