探究のすすめ方~探究学習の担当になったあなたへ~ 小中高対応

新しい学びとして注目を集めている探究。新年度をむかえ、皆さんの学校でも新たな学校教育目標のもと、探究のテーマや担当ぎめが行われているのではないかと思います。ただ、探究は、まだまだ実践例も少なく、どのような考え方でアプローチしていけばいいのか、お悩みの先生も多いはず。そこで、長年探究学習の研究に取り組んでいる四天王寺大学教育学部准教授の仲野先生に、楽しく分かりやすく、探究のすすめ方をガイドしていただきましょう。
執筆/仲野純章
目次
探究が求められる社会背景
「探究」という言葉自体は比較的古くからありますが、最近は、この言葉を教育現場の至るところで聞くようになってきました。この背景にはいったい何があるのでしょうか。
例えば、小・中・高等学校の学習指導要領解説・総則編には、共通的に次のような文章があります⑴⑵⑶。
今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく、また急速に変化しており、予測が困難な時代となっている。また、急激な少子高齢化が進む中で成熟社会を迎えた我が国にあっては、一人一人が持続可能な社会の担い手として、その多様性を原動力とし、質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくことが期待される。
学習指導要領解説・総則編より
ここで述べられているような社会では、技術や社会サービスの進化や社会構造の変化などが加速度的に起こる中、それを受けた新たな課題も矢継ぎ早に生まれ続けます。今の子供たちが社会を創り、生き抜いていくには、「既に分かっていること」を習得するだけでは、対応していくのは難しいことは明らかです。問題の本質に潜む課題を捉え、あるべき状態へ向けて変革や価値創造を図るためには、学校段階でそうした力をしっかり養っていく必要があり、そのためのアプローチとして探究が益々重視されるようになってきました。
学校での探究
小・中・高等学校を問わず、学習指導要領には探究という言葉が多用され、学校段階を問わず、探究を重視する姿勢が窺えます。探究の要素を含んだ学び(以下、探究的な学び)は、総合的な学習の時間や総合的な探究の時間は勿論のこと、理科や社会といった各教科の授業でも求められています。そして、これらがばらばらに機能するよりは、有機的に繋がり、機能し合うすることが期待されます。探究的な学びは、既に様々な形で実践がなされていますが、そうした中、例えば高等学校で実施されている様々な探究を厳密に類型化・定義しようとする試みも見られます⑷。しかし、探究という概念をできるだけ広く、そして気楽に捉え、課外活動などを含め、探究的な学びには多様な形があってよいと考えます。

探究の進め方と留意点
探究の定義は各所で様々に表現されていますが、概ね「見いだした疑問や課題を調査や観察、実験を通して解明・解決すること」といえるでしょう。では、そうした探究にはどういったスタイルのものがあるのでしょうか。スタートとなる部分に着目すると、探究は、以下のように大きく分類できるでしょう。
●ニーズ型
●シーズ型
一つ目の「ニーズ型」は、具体的な社会的課題や社会的要請が存在し、それに向かって解決を図ったりすることを動機とするイメージです。一方、二つ目の「シーズ型」は、手元に興味深い研究の種(seeds:シーズ)があり、将来どのような応用や役立ちに繋がるか分からないが、ともかくそれについて追究してみようという動機で始めるイメージです。
また、ゴールとなる部分に着目すると、探究は以下のようにも大きく分類できるでしょう。
●追究型
●創出型
一つ目の「追究型」は、ある現象に関わる主要因を突き止めたり、未解明な部分が残る現象の本質を解明したりするようなイメージです。一方、二つ目の「創出型」は、新しい機能を持つ材料や装置を生み出したり、それらの機能向上を図るようなイメージです。
以上のことから、探究のスタイルとしては、オーソドックスには下図のようなバリエーションがあるといえるでしょう⑸。こうしたことを踏まえ、探究の進め方と留意点について見ていきたいと思います。

探究は、一般的に下図のような手順で進められ、こうした流れは「探究の過程」などと呼ばれます。ただし、あくまで一般的な流れと捉え、頑なに形式にとらわれすぎることなく、必要に応じて臨機応変に進めることが大切です。例えば、仮説の設定をするにもまず第一段目の調査・観察・結果をしっかりした上でないと実現に至らない場合もあるでしょう(図1における「シーズ型×創出型」などではこうした事態が往々にして想定されます)。また、探究の過程は必ずしも一方通行ではなく、途中結果を踏まえて課題を設定し直すなど、進めていく中で一部、あるいは全体の過程が繰り返されるということがよくありますし、むしろそれが自然でしょう。なお、小・中学校の学習指導要領解説・総合的な学習の時間編や高等学校の学習指導要領解説・総合的な探究の時間編では、一連の探究の過程を経てまた新たな課題を見いだし、さらなる追究を始めるといったことを発展的に繰り返すものとされています⑹⑺⑻。時間的制約もある中でどこまでこうした「発展的繰り返し」が叶うかは種々ご意見があろうかと思いますが、望ましくはそうであるということで理解しておきたく思います。 以下、①から⑦の各項目に関する主だった留意点に触れておきたく思います。

① 課題の設定
探究の成否は課題の設定、言い換えればテーマの設定にあるといってもいいかもしれません。まずは、できるだけ具体的なテーマとすることが大切です。「〇〇について」などというあいまいなテーマではなく、「○○が■■する理由の追究」などと、何をすべきか(他者から見ると、何をしようとしているのか)が分かるような具体的テーマが望まれます。そして、既に「答え」が分かっているものや少し調べれば「答え」が分かるようなものをテーマとしてしまわないよう、文献などを通じて事前にテーマに関わる周辺状況の情報を収集・把握しておくことも大切です。このときの情報源としては信頼性の高いものを見極めなければならず、そうした指導も探究の初期段階には必要でしょう。なお、一連の探究の過程全体においていえることですが、情報源は記録として控えておき、後々のまとめや発表などでその情報源の情報を活用する際には情報源となった文献を記載する必要があり(注)、このことも合わせて指導することが望まれます。
② 仮説の設定
探究の過程を形式的に意識しすぎるあまり、半ば感覚に頼って「とりあえず」仮説を設定した事例が非常に多く見受けられます。仮説を設定するには、それなりの根拠があって然るべきです。後々の考察だけでなく、こうした仮説の設定段階からロジカルな思考が必要であることを指導していきたいものです。
③ 調査・観察・実験の計画
調査・観察・実験といった行動を起こす際には、計画性を持っておくことが重要です。調査・観察・実験に先立つ予備調査・予備観察・予備実験が必要になることもあるでしょう。あるいは、まず必要な手続きをせねばならないなど、事前段取りの必要性があるかもしれませんし、時間的に無理なことをしようとしていて、簡略化や優先順位づけをせねばならないかもしれません。児童・生徒の調査・観察・実験が実り多いものとなるよう、計画は大事であることを理解させたいものです。調査・観察・実験の内容や規模にもよりますが、教員としては、特に安全性の確認・確保の観点から、何らかの形で計画を確認する機会を持つことが望ましいでしょう。
④ 調査・観察・実験の実施
計画に基づき、調査・観察・実験の実施をするということになりますが、このとき、どのようにしてどういう結果が得られたかをしっかり記録するようせねばなりません。ノートに記録させるか専用のワークシートを用意して記録させるかは様々でしょうが、しっかりとした考察のために、しっかり記録するよう指導していく必要があります。あいまいな記録ゆえに改めて同じことを不必要に繰り返す、あるいはあいまいな記録ゆえに誤った解釈を導いてしまうという事態は避けたいものです。
⑤ 結果の処理
「こうあって欲しい…」という思いに誘発された結果の改ざんなどがないようにせねばならず、得られた結果をあくまで客観的に整理・分析するよう指導する必要があります。必要に応じて図表やグラフを効果的に用いていくことも合わせて指導していく必要があるでしょう。
⑥ 考察
考察においても、客観的に整理・分析する必要があります。「こうあって欲しい…」という思いにゆがめられた主観的な色の濃い考察にならないよう、また、単なる憶測や意見、感想とならないよう、指導上、気をつける必要があります。
⑦ まとめ・発表
一連の探究の過程で積み上げてきた内容が、「一本の筋」のごとくロジカルに繋がっているようにまとめ、発表されることが理想です。その際、文章表記、発言、身振りなど、他者に分かりやすく伝わるように「表現」を工夫することも重要となるでしょう。
なお、今回の記事の冒頭で、「探究という概念をできるだけ広く捉えたい」といいましたが、探究を広く捉えすぎ、いわゆる調べ学習で終わらないようにしたいものです(実態として、そうした実践も少なくありません)。教員としては、上記の探究の過程を意識した活動を心掛け、少なくとも「探究と調べ学習は違う」との認識は持っておきたいものです。
次回からは実践校の事例をチェック!
次回からは、教科の授業内や総合的な学習(探究)の時間で探究的な学びをすすめている学校を事例的に取り上げ、指導実践の様子を年間通じて長期的に追跡していきます。その中には、様々な実践上のヒントや気づきがあろうかと思いますので、読者の皆さんと一緒に学び合っていければと願っています。初年度となる2025年度は、主として下記小学校での取り組みを追いながら、小・中教員にも参考になるであろう高校教員の実践事例として、下記高等学校の取り組みも付加的に追っていく予定です。両校とも、奈良公園(図3)からもほど近い、奈良市中心部に位置しています。
●小学校「奈良育英グローバル小学校(奈良市法蓮町1000番地)」
同校では、独自の探究的な授業として「ベーシックアドバンス(1年生)」「アドバンス(2~4年生)」が開講されています。それぞれ独立した科目として開講されており、長年継続推進されてきた実績があります。連載では、このうち学年の異なる2科目、具体的には「ベーシックアドバンス(1年生)」「アドバンス(3年生)」での取り組みに焦点を当てた2本立てで、都度公開していく予定です。
●高等学校「奈良女子高校学校(奈良市三条宮前町3番6号)」
同校は、近年、精力的に探究を導入・拡大されてようとしており、社会科や総合的な探究の時間などを中心に、既に具体的な活動が展開されています。連載では、社会科(及びそれと連動した総合的な探究の時間)での取り組みに焦点を当て、都度公開していく予定です。
★こちらの記事もあわせてご覧ください「探究学習のプロセス」とは?【知っておきたい教育用語】

(注)参考にした文献を「参考文献」、(参考にするだけでなく)文献に書かれていた内容を引用した場合は「引用文献」と区別することもあります。
【参考文献】
⑴ 文部科学省(2018)『小学校学習指導要領解説・総則編』東洋館出版社
⑵ 文部科学省(2018)『中学校学習指導要領解説・総則編』東山書房
⑶ 文部科学省(2019)『高等学校学習指導要領解説・総則編』東洋館出版社
⑷ 浦崎太郎(2024)「高校で実施されている“探究”の類型化:『総合的な探究の時間』の目標をブルームのタキソノミーから捉え直す」『地域構想』第6号,27-34
⑸ 研究ステップ編集委員会(執筆者:仲野純章ほか2名)(2022)『先輩、研究ってどうやるんですか:ストーリーで学ぶ研究のステップ』京都大学学術出版会
⑹ 文部科学省(2018)『小学校学習指導要領解説・総合的な学習の時間編』東洋館出版社
⑺ 文部科学省(2018)『中学校学習指導要領解説・総合的な学習の時間編』東山書房
⑻ 文部科学省(2019)『高等学校学習指導要領 解説・総合的な探究の時間編』学校図書
イラスト/イラストAC

<プロフィール>
仲野 純章(なかの すみあき)
四天王寺大学教育学部准教授・理科選修主任
京都大学総合人間学部卒業。博士(工学)〔京都大学〕。パナソニックに入社し、東北大学金属材料研究所民間等共同研究員として基礎研究に従事した後、商品開発、グローバル製造戦略企画に従事。その後、奈良県立奈良高等学校教諭・研究推進部長を経て、現職。東レ理科教育賞奨励作、東レ理科教育賞企画賞、日本理科教育学会優秀実践賞など受賞。著書に『先輩、研究ってどうやるんですか(京都大学学術出版会)』『教職のための物理学(電気書院)』『教職のための化学(電気書院)』など。