【連載】坂内智之先生の 愛着に課題を抱えた子が伸びるアプローチ~学級担任にできること~♯3 あなたも愛着障害なのかもしれない
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近年、教員たちが対応に苦慮し、学校現場を根底から揺るがしている「愛着障害に苦しむ子どもたち」。そうした子どもたちによって荒れた学級を何度も立て直してきた坂内先生が、今、学級担任に何ができるのかを提案し、これからの学級のあり方について考えていく連載第3回。今回は愛着障害についての基礎知識を解説し、当事者の子どもたちが激増している社会的要因について、担任としての実感に基づいて分析していきます。
執筆/福島県公立小学校教諭・坂内智之
目次
はじめに
この連載では、近年、学校現場で問題行動や不登校が増加し、対応に苦慮されている先生方が多いことを解説してきました。その背景には、愛着の問題が深く関わっていると思われます。
第3回では、愛着障害の基礎知識として、気になる子どもの問題行動と愛着の課題との関連性について理解を深められるようにしていきたいと思います。
1.「愛着障害」との出会い
最初の事例は20年以上前にさかのぼります。私がまだ若い頃に、拒食症になってしまった高学年の男の子がいました。学校での成績は良く、とても真面目でよく努力する子でした。彼はどう促しても給食に手をつけず、その理由を尋ねても、はっきりとした答えが返ってきません。両親は優しく家庭環境も良好ですので家庭に問題があるようには思えませんでした。彼の体はどんどん痩せていき、ついには入院することになりました。しばらく入院した後、学校に戻ってきた彼は次第に回復していきます。お母さんにその経過を尋ねてみると、精神科の医師から次のようなアドバイスを受けたと教えていただきました。
「優しい彼は、弟のためにお母さんに甘えることをずっと我慢してきました。ですから、もう一度お母さんが彼を抱っこすることから関わりをつないでみてください」。
お母さんはアドバイスされた通りにしてきたと言います。
卒業後しばらくして、お母さんからお手紙をいただきました。手紙では、彼が中学校ですっかり元気になって、部活動に励んでいることを教えてもらいました。あれこれと食べるよう説得してきた私には、「抱っこすることで回復するなんて…」と、不思議な気持ちしかありませんでした。今では、何が起こっていたのかよく分かる事例ですが、当時はこの状況を全く理解できていませんでした。
それから時が流れ、今から7年前、私は若手が担任するクラスで子どもたちが起こす様々な問題行動のサポートに追われていました。担任の対応の仕方が悪いのではないか、家庭問題の影響が大きいのではないか等、その理由をいろいろと考えて対処してきましたが、なかなか解決には結びつきません。それどころか問題はどんどん大きくなってきます。
しかも、問題を起こしている子どもは特定のクラスだけにいるのではありません。学校全体に気になる子どもが増えていきます。はっきりとした因果を捉えることができないまま、対応に追われるばかりでした。
そんな中、ある教育雑誌で問題行動の事例紹介と対応についての連載を見つけました。読んでみるとまさに今、日々問題行動にあたっている子どもたちの姿とピッタリと重なります。その連載をされていたのが、和歌山大学の米澤好史教授でした。米澤先生は、愛着障害という切り口から、子どもの問題行動の分析、対応の仕方などについて、学校現場の先生方へのサポートを行なわれています。
「愛着障害」という言葉は、もちろん私もそれまでに聞いたことがあり「家庭での虐待などで子どもの心が正常に発達できていない」そんなイメージをもっていました。
ところが、米澤先生の理論によると、そうした虐待とは関係なく、どんな家庭にも起こりうることや、両親がそろっている家庭でも起こりうることを解説されています。今ある学校の子どもたによる問題行動は、間違いなくこの「愛着障害」が原因だろう、そう確信できた瞬間でした。
2. 自分も愛着障害だったのではないか
米澤先生の愛着障害のご著書を読んで、真っ先に思い浮かんだのは学校で問題行動を起こしている子どもたちでしたが、そうした子どもたちのことを考えるうちに、ふと「ひょっとして自分も愛着障害を起こしていたのではないか」と自分の過去の記憶が甦ってきました。
あの時、なぜたくさんのトラブルを抱えていたのか、なぜ「誰も自分のことを分かってくれない」と怒りを抱えていたのか、なぜ毎日のように保健室に行っていたのか……そんな子どもの頃の感情がよみがえります。
しかし、私は末っ子で、母親を始め、家族皆から十分に愛されて育ってきたという自覚があります。それなのに「もっと分かってもらいたい」「悪いのはあいつだ」「自分はもっとすごい」のだと、いつも心の中で叫んでいたことを思い出します。そうした心の叫びが原因で、友達との関係、先生との関わりにおいて、多くのトラブルを起こしてきました。
今では、自分が愛着障害を起こしていたのだとよく分かります。なぜ愛の中で育った自分が愛着障害を起こしていたのか。その原因は私が求めた愛と親の愛とのすれ違いがあったこと、米澤先生が提唱されているように「愛の器」に穴が空いていて、愛を溜めにくい性質だったことにあったと理解できます。
今回読者のみなさんにお伝えしたいのは、愛着の課題は、このように誰にでも起こること、そして近年の学校現場では、すごい勢いで愛着の課題を抱える子どもが増えてきているという事実です。そして、今の私がそうであるように、それは必ず回復できるのだという希望です。
3.「愛着障害」という言葉
「愛着」というのは「attachment」=「接触する、くっつく」という英語からの翻訳ですが、少し曖昧です。米澤先生は、この「愛着」に関して、「特定の人と結ぶ関係」「親とは限らない」「感情でつながる情緒的」ものだと意味付けています。「障害」は、disorder」=「障害、混乱」ですから、「愛着障害」とは、特定の人と感情的な結びつきがうまくできない状態を表します。
一方で「愛着障害」という言葉を使うと、多くの方々から「安易に決めつけるのはどうか」「それは極めて酷い環境で起こるもの」「障害(者)ではない」という指摘を受けることがあります。確かに過去の自分も「愛着障害」は、虐待など厳しい環境下で起こるものだと考えていました。
しかし、米澤先生は、「これまでの園や学校、特別支援学校、児童保護施設などの福祉施設での観察から、程度はさておき、30%以上のこどもに愛着の問題があると考えています」(『愛着障害は何歳からでも必ず修復できる』/合同出版より引用)と述べられています。そうした目でクラスの子どもたちの様子を詳細に観察すると、確かに愛着の課題を抱えているなと思われる行動や事例をもつ子どもは大勢います。
さらに、大きく荒れてしまったクラスでは、半数以上の子どもに、「愛着に課題を抱えているな」と思える姿や行動が見られます。
もし「障害」という言葉が重苦しいのであれば、「愛着の課題」と言い換えてもよいと思いますし、米澤先生が提唱する「愛着形成不全」という言葉に置き換えてもよいと思います。
大切なのはそうした言葉の良し悪しについての議論ではなく、前回のデータで示したように、現実に「つらい」「苦しい」「どうしてよいか分からない」と感じている現場の先生方に対し、「愛着の再形成」という解決の糸口を示していくことです。
また、前回書いたように、静かに進行していく不登校児童・生徒数の増加も、今の学校現場の大きな課題です。これらをどう減らし、防いでいけばよいか、その対策が急がれます。
私は、この愛着の課題という視点から子どもたちの心や行動を解き明かし、対応していかない限り、不登校を減らすことはできないのではないかと考えています。
4.「愛着障害」を抱えた子どもの特徴
みなさんの学校やクラスには、こんな子どもがいませんか?
①問題行動(気になる行動)の強い子 ≪情緒や行動の不安定さがある≫
- 物を散乱させ、片付けるよう指示しても片付けようとしない子
- 友達の物をしつこく取り上げて投げ捨てる子
- 友達の物を隠し、騒ぎになった後、見つけてくる子
- 高いところ(ロッカーの上など)に登りたがる子
- 一日中帽子をかぶっている子
- 服装がだらしない子(ジャンパーなどをはだけながら着ているなど)
- 暴力や暴言が止まらない子
- 噛みつく子
- 校内の掲示物などを破ってまわる子
- 苛立つと学校中の掲示物や設備を壊して回る子
- 裸足で歩いたり、床に寝そべっていたりする子
- 口にいろんな物を入れて、くちゃくちゃさせている子
- トイレや廊下などをおしっこやうんちで汚す子
- 明らかに暴力行為等をしているのに、注意や指導を受けても全く認めようとしない子
- 自分がうまくいかないことをいつも他者のせいにする子
このタイプの解説
こうした問題行動の強い子どもは、担任や周りの先生とのいざこざが多いため、担任の困り感がとても強く、校内の生徒指導会議などでも名前が挙がることが多くあります。特徴としては、一般的に厳しく指導すればするほど状態が悪化することが特徴です。激しく暴れ、より強く口応えするようになるなど、問題行動がさらに悪化してしまいます。
②心に淋しさを抱えた子
- バッグの中にたくさんのぬいぐるみやキーホルダーを持ってくる子
- 学校内の様々な先生に身体接触を求めたり、話しかけてきたりする子
- 抱きついてくる子
- 玄関や職員室の前で先生を毎日待っている子
- よく先生や友達と手をつないで歩いている子
- とても些細なことが原因で泣いたり怒ったりする子
- 誰かと話している相手に対し、間に割り込んで自分の話を聞いてもらおうとする子
- 休み時間に「先生、遊んで」「先生、お話しして」と訴える子
- 自主学習(宿題)を何時間もやって、褒めてもらおうとする子
- 「ねえ、先生見てて」と先生に見ていてもらうことで安心する子
- 誰かが褒められるのを見ると、落ち込んだりイラついたりする子
- 保健室やカウンセラーのもとに頻繁に通って話を聞いてもらおうとする子
このタイプの解説
学校の中では「大人しい子」「甘えんぼう」とみられがちな子です。もちろん、小学校に入りたての1年生などは、どんな子でも先生(大人)に甘えたがるものですが、5、6年生になっても、こうした言葉や行動が日常的に表れる子どもは、やはり愛着に課題があるのだと感じます。
③すぐに諦めてしまう子、反応の薄い(しない)子 ≪自己肯定感の低さがある≫
- 「どうせ無理」「どうせバカだから」と学習に向き合えない子
- 競争で負けることが分かると参加しない子
- 長い文章を書けない子、書こうとしない子
- 夏でも長袖を着たり、フードをかぶったりしている子
- 髪やマスクで顔を隠している子
- 表情の変化がとても乏しい子
- 褒められても反応しない子
- 失敗を極端に恐れる子
このタイプの解説
こうした子どもたちもどんどん増えています。最近私が注目するのは、「文章が書けない」という子どもです。これは問題行動を起こす子にも共通するのですが、愛着に課題を抱える子の多くは、日常の振り返りや長文を書こうとしません。特に「自分の考えを書く」「自分でまとめる」という作業から逃避することが多いのです。自信の無さや内面と向き合う力の弱さが関連しているのだと考えています。
こうした行動をとるすべての子どもが愛着障害を起こしているとは言いませんが、こうした行動が複数回、または日常的になっている子どもに関しては、愛着の問題を抱えている可能性が高く、こうした姿がより強く現れると、校内暴力や不登校などにつながっていくのだろうと考えています。
また、①のような問題行動や気になる行動は、担任にとっても目に入りやすく分かりやすいのですが、②や③のような子どもは、どちらかというと見逃されがちで、学校での対応が遅れがちになりやすいタイプです。こうした子を見逃してしまうことが、不登校児童・生徒数の増加に関連していると考えられます。
5. 3つの基地機能
私は教師人生の大部分において、授業を共同学習、つまり学級集団による学びで進めてきました。
しかし、そうした共同学習を成立させていくためには、毎回ある程度の時間がかかります。時には半年以上かけて、学ぶ集団をつくり上げていきます。学ぶ集団が形成されていくと、子どもたちは教師を飛び越えて勝手に学び始めます。子どもたちが自分自身の興味を基に、どんどん学びのスペースを広げていくのです。
しかし、近年ではこうした集団づくりがとても難しくなってきたと感じることが多くなりました。集団をつくり上げ、高めていくために今まで以上に時間がかかるようになってきました。
「ポジティブに動けない」「人の邪魔をする」「集団の中でもやろうとしない」といった姿が増えてきています。そこには、学級集団という場に「安全」や「安心」を感じにくい子どもたちが増えてきたことが大きな要因だと考えています。
愛着障害の研究の始まりは、ジョン・ボウルビィによって提唱された愛着理論です。その後メアリー・エインズワースによる愛着の形成過程についての実証研究が進み、「安全基地」等の概念が提唱されました。それから一世紀以上が過ぎて様々な分析や実験などが加わり、愛着形成の過程や構造が明らかになってきました。
そして今、全国各地の学校現場で子どもたちの起こす問題行動とそれへの対応法を解き明かしていくためには、米澤先生の提唱する3つの基地機能「安全基地」「安心基地」「探索基地」に分けて捉えていくと、最も理解しやすいと考えています。
米澤先生は、それら3つの基地について、以下のように説明しています。
◼︎「安全基地」
「恐怖、不安、怒り、悲しみなどのネガティブな感情、すなわちいやな気持ちになったとき、誰かが大丈夫だと守ってくれる」という働きをするのが安全基地の機能です。
◼︎「安心基地」
ポジティブな感情を生じさせてくれる感情の基地です。「特定の人」と一緒にいると、「落ち着くなあ」「ほっとするなあ」「なんだかじわっと楽しくなってきた」というように、いい気持ちを感じさせてくれるのが、安心基地の機能です。
◼︎「探索基地」
安全基地から離れ、いろいろな場所を探索したり、新しい経験をしたり、必要な知識や情報などを手に入れることが「探索行動」です。(略)私は、この探索機能を重要なものとして位置づけ、「探索基地」として独立した機能を持たせています。
(米澤好史・著『愛着障害は何歳からでも修復できる』(合同出版)より)
私が今、共同学習のクラスづくりを行うときに最も大事にしていることは、学級という集団にどうやって「安全」「安心」な場をつくるかということです。
この2つの機能が成立して初めて、子どもは探索を始める、つまり集団の中で自ら学び始めるからです。先に述べたように、近年、共同学習が成立しにくくなった理由は、「安全」や「安心」を学校では感じ取れなくない子どもが増えてきたからだと考えています。
さらに今の学校現場は、「安全」をちゃんと守ってもらえるという感覚や、温かく落ち着ける「安心」という感覚をむしろ弱め、なくしてしまう構造となっています。だから子どもたちに「探索」する(外に出る)力が育たず、自分の中で堂々巡りするような行動をしてしまうのです。
そうした中で、関係性をつくれない、情緒的な結びつきができていない子どもたちが問題行動を起こしてしまうのは当然のように思えます。
このような近年の学校が抱える構造的な問題については、次回に詳しく書いていきたいと思います。
6. 回復のカギを握る「キーパーソン」
こうした子どもの「安心基地」や「安全基地」そして「探索基地」をつくるために、当事者の子どもとつながり、他者(教職員や友達)との関係をつないでいくのが「キーパーソン」です。
子どもにとっても、大人にとっても、「自分のことを理解してくれている」存在は大切なものです。ましてや、愛着障害を抱える子どもにとっては、そうした存在がない限り、心の回復はできないことでしょう。そうした子どもの心を支え、安全感や安心感を与えてくれるのが、キーパーソンです。
学校現場では、子どもとの距離が近い学級担任がこのキーパーソンとなる場合が多いのですが、学校のどの先生(管理職や養護教諭や学校職員)でもその役割を担うことはできます。
ところが実際には、学校ではこのキーパーソンがうまく機能していない場合が多いのです。詳しい話は次回に回しますが、担任は教室全体の管理者でもあり、周囲の教職員の目もありますから、どうしても「指導する」という働きかけを優先してしまうからです。
そうなると愛着障害の子どもとの関係性が崩れ、より大きな問題行動や不適切な言動を促進してしまいます。キーパーソンであるためには子どもに対する以下のような構えが必要になります。
キーパーソンとしてのあり方 4つのポイント
- 子どもが頼れる存在となるように愛情をもってサポートできること
- 子どもの興味や関心、考え方に共感的になれること
- 子どものよい所を見つけて伝えられること
- 根気強く関われること
愛着障害を抱えた子どもが回復していくのには、とても時間がかかります。早くても数か月、時間のかかる難しい子なら年単位での関わり方が必要になります。常にこの4つの姿で子どもに対応することは、今の私にもできません。でもこの4つをいつも心の中に留めておくことで、刻々と変化する子どもの姿への対応をあれこれと軌道修正し、考えながら子どもに向き合っていくことができます。
また、学校現場でよくあるのが、誰かがキーパーソンとなる担任の立場を無視して「自分ならこの子を立ち直らせることができる」とばかりに、その子に厳しい指導を加えたり、または距離を詰めて関わりをもとうとしたりして、状況を余計に悪化させてしまうことです。
キーパーソンは子どもにとって最も自分を分かってくれているという、安全で安心な存在です。ですから、その立場を横取りするようなことをすれば、子どもは余計に混乱してしまうことになります。
7. 愛着障害はなぜ増えているのか
では近年、なぜ愛着障害が増えているのでしょうか。
小学校現場で確実に子どもの姿が変化してきたなと感じるのは、ここ10年ほどです。小学生が生まれてからの期間を考えると、要因はここ14~15年の社会的変化の中にあると考えられます。現場で目にする子どもたちの生活を重ね合わせながら、その原因について推測してみます。
まず考えられるのが、「スマートフォンの普及」です。スマートフォンの影響には2つの側面があります。1つは親がスマートフォンを持っていることによる影響です。
親が常にスマートフォンにばかり目を向けているために、子どもがアイコンタクトしようとした時に目線が合わず、幼児時代から不安を抱えてきたという可能性です。
何らかの不安な状況に置かれた時や、判断のできないことが起こった時に、幼児は親の顔を窺います。でも、そのタイミングでいつも親がスマートフォンに目を向けているため、に安心を十分に確認できないのではないかと考えられます。また、スマートフォンが家庭内を個別化し、コミュニケーション機会の喪失にもつながっていると感じます。
もう1つの側面は、子ども自身がスマートフォンを使うことによる影響です。育児の手間を軽減するため、幼児期から親のスマートフォンを預けられ、使ってきた可能性です。
特に動画視聴においては、興味に応じて次々と大量の情報がやってきますから、過多で、かなり偏った情報の中に子どもたちがとらわれてしまっている印象を受けます。
それらの動画は画面も音も刺激的ですから、幼児にとっては過刺激(それはまるでライブハウスにでもいるような)状況にさらされているのではないかと考えています。
また、東北大学加齢医学研究所では、脳のイメージング技術の発達により、スマートフォン使用と子どもの脳の発達との関連性について研究が進んでいます。ネットを頻繁に使用している子どもたちの脳は、記憶に関わる海馬や前頭葉、言語や感情に関する領域において発達が遅れたり、止まったりしてしまうことが解明されています。
愛着障害を起こしている子どもの中には、スマートフォンの使用過多により脳機能の発達が遅れ、言葉の捉えや感情のコントロールがうまくできなくなってしまっている子がいる可能性もあります。
次に考えられる要因は「ゲームのオンライン化」です。ファミリーコンピュータが生まれてから、いつの時代も教育現場では「ゲーム」の問題が取り沙汰されてきましたが、ここ10年ほどで大きく変化したのは、ゲームがオンライン化されたことです。
大人である私たちがプレイしてきたゲームは大抵がスタンドアローン型、つまり自分一人がコンピュータを相手に行っているゲームです。ですが、今の子どもたちはリアルな人間と戦いを繰り広げていきます。教育現場におられる先生ならよく分かると思うのですが、問題行動の強い子どもたちの多くが対戦型のオンラインゲームに熱中しています。画面の向こう側のリアルな人間と戦い、倒すことからは、極めて強い自己有能感が得られます。短時間で繰り返し強い自己有能感が得られますから、そこから抜け出すのは容易ではなく、何時間でもゲームをし続けてしまいます。小学生でも毎日4~5時間ゲームしてしまうケースは珍しくありません。こうしたゲームにおける自己有能感という即時報酬は、とても魅力的です。ですから学校での学習という、地味ですぐに結果が出ないものに対しては目的や関心を失ってしまうことになります。
また、ゲームへの熱中というと男の子をイメージしがちだと思いますが、私の実感として3~4割は女の子です。オンラインゲームにハマっている子どもたちの多くの行動は、その背景に愛着の課題があるなと感じます。
そして最後の要因は、「親の忙しさ」です。
この14~15年の社会構造の変化で、両親の共稼ぎ率が大きく上昇しています。愛着障害は米澤先生が指摘するように、両親がともに優しく接していても、愛のすれ違いによって誰にでも起こりうる、と私も考えています。
一方で、学校現場の問題行動を抱える子どもたちを統計的な目線で見ると、各家庭の経済状況、共稼ぎ率や一人親率と連動しているのも確かです。
近年では、学校のPTA活動が成り立たなくなってきています。その原因は保護者たちの仕事の忙しさです。親子間で安心できる時間の確保や対話できる時間が少なくなってきていることも、間違いなく大きな要因です。
また、上にあるように仕事などの多忙さからわが子にゲーム機を預けっぱなしにして、深夜までゲームをさせてしまう環境もまた、大きな原因だと考えています。
近年の社会や家庭には、他にも愛着障害を引き起こす多くの要因があることと思います。そして学校もまた、1つの大きな要因となっていると私は考えています。この要因については次回に詳しく掘り下げていきたいと思います。
今回は、愛着障害の基本的な知識やその原因について簡単にまとめてみました。次回は、こうした愛着障害による学校現場の課題について掘り下げていきたいと思います。
<参考・引用文献>
「愛着障害は何歳からでも必ず修復できる」(米澤好史・著/合同出版)
「やさしくわかる! 愛着障害―理解を深め、支援の基本を押さえる」(米澤好史・著/ほんの森出版)
「事例でわかる! 愛着障害―現場で活かせる理論と支援を」(米澤好史・著/ほんの森出版)
「発達障害?グレーゾーン?こどもへの接し方に悩んだら読む本」(米澤好史・著/フォレスト出版)
「スマホはどこまで脳を壊すか」(川島隆太・監修、榊浩平・著/朝日新書)
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坂内智之プロフィール
ばんない・ともゆき。1968年福島県生まれ。 東京学芸大学教育学部卒業。福島県公立小学校教諭。協働学習の授業実践家で「学びの共同体」から『学び合い』の授業を経て、20年以上にわたり、協働学習の授業実践を続ける。近年では「てつがく」を取り入れた授業実践を行う。 共著に『子どもの書く力が飛躍的に伸びる!学びのカリキュラム・マネジメント』(学事出版)、『放射線になんか、まけないぞ!』(太郞次郎社エディタス)がある。
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