「国語の言語活動は実験だよ」 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #19】
2024年度、全日本中学校国語教育研究協議会の全国大会が神奈川県で開催されました。そこで今回からは、この神奈川大会で研究授業の公開を行っただけでなく、シンポジウムにも登壇し、議論を行った横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校の田口尚希主幹教諭に、国語の単元づくりの考え方と、それを象徴する実際の単元について紹介をしてもらいます。初回となる今回は、田口教諭の単元・授業づくりの考え方を象徴する単元について、話を聞いていきます。
目次
単元単独でなくカリマネや学習の系統性を考えることが大切
まず田口教諭は、国語の資質・能力の育成を図るためには、単元単独でなくカリキュラム・マネジメント(カリマネ)や学習の系統性を考えることが大切だと話した上で、その考えを象徴する単元として、2学年の国語科「クマゼミ増加の原因を探る」を含む、複数の単元を系統的に学習する授業について紹介をしてくれました。この単元を系統的に学習する授業では、同校の教育目標とリンクさせ(次回詳報)、2学年の「思考力、判断力、表現力等」の全領域に共通している「論理の展開・文章の構成」についての学習を行っていったと話します。
「この学習は、論理の展開・文章の構成があまり分かっていない状態からスタートしていますから、まず小学校で学習をしている頭括型、尾括型、双括型とは何なのかを再確認します。次に『聞くこと』中心の単元からスタートして、文章の各型にはどのようなメリット・デメリットがあり、どんな場面で使うとどんな効果があるのか、生徒同士で対話もしながら考えていきます。その当初の考えをベースに置きながら、『読むこと』『話すこと』『書くこと』の単元へと移行していく中で、本当にそれ(最初に考えたメリットや活用場面)はいつでも有効なのだろうか考え、修正をし、深めていくというものです。
【資料1】「論理の展開・文章の構成」に関わる系統的な単元の構成資料
まず『聞くこと』の単元からスタートしますが、ここでは最初にサイコロトーキングを行います(資料1参照)。事前にサイコロの目ごとにテーマを決めておき、各自がサイコロを振って、出た目のテーマに沿って1人2分程度話をするのです。そのテーマに沿って頭括型、尾括型、双括型を選んで話したことを素材にしながら、『この内容は、事例を大事にするために尾括型にしたほうがよいのでは?』などと対話しながら修正し、どのような目的や場面、テーマによって、どのような文章構成で話をするのがよいのかを整理していきます」
ここで気になるのは、いきなりサイコロの目で決まったテーマについて話をすることで、国語が苦手な子供には少しむずかしいようにも思えます。しかし、そこは同校の特性や学習に向けた考え方が生きており、どの子も得手不得手に関わらず、自分なりに考えを整理し話していくことができる、と田口教諭は話します。
「本校はサイエンスの考え方を大切にしているので、実験をよく行います。それを国語に当てはめて、『国語の言語活動は実験だよ』とよく話をしています。このサイコロトーキングの場合だと、まず、どのような構成(実験方法)がよいか仮説を立ててみて、実際にやって(実験をして)みます。その実験がうまくいってもいかなくても、それは結果であり、次にどうすればよいか(どう改善を図ればよいか)を考察し、次に生かせばよいのです。ですから、生徒たちにとっては失敗して当たり前ですから、話すことに対してあまり身構える生徒はいません。
そこで実際に生徒たちが話した内容に対して、他の生徒から『今の話は先にオチを言ったらおもしろくないから、尾括型のほうがいいんじゃない?』との意見が出てきます。自分自身の考えはもちろん、そうした意見も加え、ジャムボードに貼り込んで整理していくことで、頭括型、尾括型、双括型のメリット・デメリットや各話型が生かされる場面を考えていきました(資料2参照)。
【資料2】各話型の特徴を整理したジャムボードの実例
1人の学びと対話が交互に入れ替わっていく展開を意識
そこから『読むこと』中心の学習に入り、教材文『クマゼミ増加の原因を探る』を読んでいきます。この教材を通して、筆者はどのような意図をもってこの構成や論理の展開の仕方を選択したかを考えるのです。この前に『話すこと』で、サイコロトーキングを通して、各自が話者として、テーマとそれを効果的に伝える方法を考える体験をしていますから、生徒たちはそのような経験も生かし、『このテーマでは具体が重要だから、結論が最後にある尾括型にしたのは、具体を引き立てるためではないか』などと考えていきました。それが、生徒たち自身が学習を進める際に考えた学びのプランや学習中の思考、判断、表現(例えば、ジャムボードに整理した各話型の特徴の修正・改善過程など)から見とることができました。
次に『話すこと』中心の学習では、論理の展開について考えていきます。ここでは、事前に集めてあった約3か月分の3社の新聞記事を生徒たちに渡し、それぞれがその中から気になる記事や投書を選び出し、それについての持論を整理し、話していきました。具体的には、『オーバーツーリズム』だったり、『アニメの肖像権』についてだったり、『SNS上での誹謗中傷』だったり、多種多様で、それぞれ持論が展開できるものを選んで考えていきました。生徒たちはここまでに整理してきた各自のジャムボードを参考にしながら、テーマとそれに対する意見を構成し、論理の展開を工夫して、グループ内でスピーチしていったのです。
【資料3】スピーチ構成メモの実例
各自が話をする際には、その生徒が文章の構成や論理の展開をジャムボードに整理した、スピーチ構成メモを聞く側にも公開します(資料3参照)。その構成メモを見ながら実際にそのスピーチを聞いて、『この内容なら双括型よりも頭括型のほうが効果的じゃないかな』と構成について考えたり、『具体例や体験がないよね』『体験は先に出して、後で抽象的になったほうがいいね』と展開について考えたりして、意見を出していきました。これは『話すこと』中心の学習ではあるのですが、聞く側は、話す側の文章の構成を見ながら、評価して学習を進めていくことになります。
こうした単元を展開していく中では、とにかく自分で考える時間を大事にしており、ただ話合いをしていればよいというような授業はしていません。1人の学びと対話が交互に入れ替わっていくような展開を意識しています。やはりインプットがなければ、アウトプットができませんし、アウトプットすることで改善の必要な部分が明確になり、新たにインプットすべきことが見えてきます。こうした学習過程を通して、他者の思考を取り入れながらも、ただトレースするのではなく、自分なりに思考し、消化していくことが大事だと思います」
こうした「聞くこと」「読むこと」「話すこと」の単元を通して、文章の構成・論理の展開についての理解をより質の高いものへとブラッシュアップし、最終的には「書くこと」の単元でそれを生かして、メディアの使い分けに関する文章を書いて学習を終えた、と田口教諭は話しました。
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今回は、田口教諭が複数の単元を構造化して、文章の構成・論理の展開についての理解をより深いものにしていった実践を紹介しました。次回は、こうした単元・授業づくりの背景にある田口教諭の考え方について紹介をしていきます。
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は2025年1月17日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之