学校でできるのはどんなこと?子どものネット依存防止~シリーズ「実践教育法規」~

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シリーズ「実践教育法規」
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国際医療福祉大学小田原保健医療学部 講師

鶴田 利郎

田中博之

教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、教育にまつわる法律や制度を分かりやすく解説していく本連載。第24回は「子どものネット依存防止」について。生徒指導提要においては、学校にも子どものネット依存解決のための取り組みが求められています。チェックリストを活用し、適切なネット利用ができるよう指導しましょう。

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執筆/鶴田 利郎(国際医療福祉大学小田原保健医療学部講師)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)

【連載】実践教育法規#24

「ネット依存」の問題

近年、インターネットを利用する多くの児童生徒の間でネット依存が深刻な問題となっています。「平成29年度循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業『飲酒や喫煙等の実態調査と生活習慣病予防のための減酒の効果的な介入方法の開発に関する研究』(研究代表者・尾崎米厚)報告書」では、ネット依存が疑われる中学生、高校生が5年前に比べて約40万人増加し、全国で約93万人に上ることが推計されています。

ただしネット依存の診断基準は確立しておらず、依存的な症状も、今のところ明確な疾患として認められていません。呼称もネット依存(症)、インターネット依存(症)などと統一されていない状況です。

新たな疾患「ゲーム障害」

一方、2019年5月のWHO年次総会の委員会において「ゲーム障害」が国際的に新たな疾患として認められることとなりました。国際疾病分類の改訂版「ICD-11」において治療が必要な精神疾患に分類されたのです。

「ICD-11」では、次のような状態が1年間(重症であればより短期間)続くことがゲーム障害の臨床的特徴として示されています。

①ゲームの時間や頻度などを自分でコントロールできない
②日常の関心ごとや日々の活動よりもゲームを優先する
③家庭、学校、職場などの日常生活に大きな問題が生じてもゲームにのめり込む

ゲーム障害と前述のネット依存は、今のところこのような違いはありますが、陥ることで生じる生活習慣の乱れ、心身の健康・発達、また日常生活への悪影響など、問題点を共有している部分が多くあります。

「生徒指導提要」におけるネット依存・ゲーム障害の位置づけ

2022年12月、12年ぶりに改訂された「生徒指導提要」が公表されました。この中でネット依存・ゲーム障害に関わる記述として、第11章の11・2・1指導・啓発における留意事項⑷「ネットの長時間利用」に次の記載があります。

SNSでのやり取りや動画視聴等が長時間に及び、生活に支障が出ることがあります。こうしたネットの長時間利用により日常生活に支障が出るような状態については、生徒指導上の課題として捉えることも状況によっては必要になります。

文部科学省「生徒指導提要

そこでは学校に求められる組織的取り組みの例として、多方面の専門家からなる対策委員会を設置し、的確な対応ができるように準備しておくこと、緊急時の相談先を普段から確認しておくことなどが挙げられています。児童生徒の行動からネット依存が疑われたときには、すぐに専門家、専門機関に相談するなどの迅速な対応をとれるようにしておく必要があります。また未然防止の取り組みとして、教育課程を横断した取り組みが必要とされています(後述)。

ネット依存・ゲーム障害は、学校だけでは解決が難しい、家庭における利用上の課題もあります。そのため、例えば授業参観において児童生徒と保護者が利用時間や利用場所などのルールについて共に考える機会を設ける、保護者会において専門家から学ぶ機会を設けるなど、学校・家庭・専門家等との連携をとりながら進めていくことが重要です。

予防教育の展開

最後に、筆者が以前に実践研究として取り組んだ予防教育の単元モデル例を示します(図表・上)。さまざまな教科の特性を活かし、多角的にネット・ゲームについて考える教育が行われることが望まれます。

またネット依存を測定するチェックリスト項目(図表・下)を活用し、定期的に自身の依存状態を児童生徒に自覚させ、必要に応じてネット利用行動の見直しを促すことも効果的です。

ネット依存・ゲーム障害予防のための教科横断的な学習を取り入れた単元モデル
鶴田利郎(2022)「中学校・高等学校における継続的なインターネット依存・ゲーム障害の予防教育の授業実践」『コンピュータ&エデュケーション』第53 巻、pp. 82-85 をもとに作成
ネット依存を測定するためのチェックリスト項目
鶴田利郎ほか(2019)「高校生向けインターネット依存傾向測定尺度におけるVisual Analog Scale の応用」『バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌』第21 巻1号、pp.31-39 をもとに作成

『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正

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