生徒が「考えたいな」と思えるような教材を授業構想の中で考える 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #15】
前回は、秋田県の能代山本教育研究会国語部会の研修部長を務めている、三種町立山本中学校の工藤央弥教諭の授業づくりの考え方について聞いていきました。今回は、そのような考え方で作られた説明的文章の単元・授業づくりについて聞いていきます。
目次
生徒が「どうしてだろう?」と考えられるようにしたい
今回、工藤教諭が紹介してくれたのは、数年前、同県の学力向上フォーラムで授業公開を行った、3年生の説明的文章の単元「新聞の社説を比較して読もう」です。通常、この単元では教材として比較すべき2つの文章が示されていますが、工藤教諭は独自に多数の社説を読み、その中から2つの文章を選んで教材として活用したと話します。
「この単元を通して育む資質・能力の『思考力、判断力、表現力等』は、『C読むこと』のウ『文章を読み比べるなどして、構成や展開、表現の仕方について評価すること。』で、そのために、生徒たちに2つの説明的文章の比較読みをさせていく単元です。『教科書に掲載されている社説よりももっとタイムリーでもっと効果的な社説はないかな?』と思いました。そこで、この授業の授業構想時から1年以内の社説を読んでいって、その中から選ぶことにしたのです。
これは余談ですが、今は読みのポイントなどもていねいに手引きされているので、生徒たちの中にもすぐに教科書巻末の資料や読みの手引きを見たり読んでいたりする子供がいます。しかし、できるだけ生徒たちが頭をフル回転させて、『どうしてだろう?』と考えられるようにしたいので、教科書以外の教材も使うようにしているのです。
この単元の教材としては、テーマは同じだけれども構成が違う、事例が違う、引用が違うものを探していきました。生徒たちが読んだときに、『これはまったく違うよ』と思うような社説ではなく、『書きぶり自体は大きくは変わらないけれども、微妙に違うな。何が違うんだろう?』と思い、ていねいに読み返す過程で、構成などの違いに気付いていくような社説はないかと探していったのです。そしてこのときには、『山の日創設』に関する2社の社説を選び出し、比較して読むことにしました。
実際にこの単元では、まず1/3時の冒頭で、生徒たちに『皆さんは新聞社の役員です』と暗示をかけます。その上で、山の日に関するA社、B社、2社の社説を見せて、『役員のあなたは自分の新聞社の社説でどちらを採用しますか?』と問いを投げかけるのです。そこから2つの社説を読んでいった生徒たちは、それぞれ『自分はAだ』『自分はBだ』と良いと思う社説を選び、なぜその社説を選んだのか理由を交流していきました(資料1参照)。
そのときには、構成という言葉は出せなくても、『書き出しが〜で…』とか『始め方が〜というように…』とか『終わり方が〜だから…』と言えていれば、よしとしました。それに対して、私が『構成』のような国語の言葉を与えて整理をしてあげればよいので、1時間目はそれでよしとしたのです。
【資料1】単元計画
学習過程では「構成」のような国語の言葉を私から出す
そこから本時の2/3時では、A社の社説を選んだ生徒と、B社の社説を選んだ生徒が混在するようにグルーピングを行い、『同じテーマの2つの社説が読み手に異なる印象を与えるのはどうしてだろう』という問いについて、考えていきました(資料2参照)。そのときに各グループの生徒たちは、それぞれがA社、B社の社説を良いと思う理由を付箋に書き出しながら整理をし、その比較の観点を見出していくような学習をしていったのです。
【資料2】指導案
ここではA社が良いか、B社が良いかという議論ではなく、学習課題となる『読み手に異なる印象を与える理由』について、考えていきました。そのときに生徒たちは学習シートのマトリックス表を活用し、付箋をその表に貼って整理しながら、『構成の観点がこうだと、こういう印象を与えるね』『その観点だとこっちの社のほうがいいね』などと、1段階質の深まった話合いをしていったのです。そうした学習過程を通して構成に関わるような比較の観点を学習していきました。
こうした学習過程を通して、互いが良いとする理由を聞いて分析し合いながら、『書き出し』『引用』『筆者の論点を配置する位置』など、構成に関わる観点を整理していったのです。その過程では、先に触れた『構成』のような国語の言葉を私から出してもいきました。例えば『表現』とか『引用』のような言葉で、そうした言葉も使いながら、生徒たちは整理、分析し評価していったのです」
最終的にこの単元では、3/3時にグループに分かれ、それぞれが良いと思う社説について、構成や表現の仕方に触れながら、プレゼンテーションを行っていったと工藤教諭は話しました。
少しだけ生徒の学ぶ姿をイメージしながらアンテナを立てる
このような単元づくり、授業づくりをするためには、生徒の学ぶ姿をイメージしながらアンテナを立てておけばよいと、工藤教諭は話します。
「国語の授業に限らず、道徳や学活でも、使えるものはないかなとアンテナを立てていると、『これは使えそうだな』というものが必ず年にいくつか見付かります。『教科書を教える』のではなく、『教科書で教える』ために、そのような教材も可能な限り活用するようにしているのです。
それは生徒たちがワクワクして、『学びたいな』『考えたいな』と思えるような教材や発問を授業構想の中で考えていかなければならないと思っているからです。そのような生徒が主体的に学びたくなるような授業づくりが大事だと思っています。
その裏側には、前回もお話をしたように、生徒を言葉で豊かにしていきたいという思いがあるからです。学習過程で、話したり、聞いたり、書いたり、読んだり、する中で、日本語を通して、言葉を通して豊かに考え、豊かに人と関われるようにしていきたいと私は思っています」
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は12月13日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之