さわやかな自己表現をめざして! 子どもと教員のための アサーション・トレーニング 前編

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子どもがストレスを感じる要因の一つに「うまく自己表現ができない」ということがあります。うまく自己表現ができないために攻撃的になったり、感情を抑圧してしまい心の不調を引き起こしたりします。しかし「自己表現をする力」は、正しい知識や技法を学ぶことで伸ばすことができます。その手法の1つが、「アサーション・トレーニング」です。今回は、小学校の教室でできる「アサーション・トレーニング」のアイディアを紹介します。(前編・後編に分かれます)

【連載】ストレスフリーの教室をめざして #10

執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀

1 アサーションって?

アサーションとは、「自分も相手も大切にした自己表現、コミュニケーション手法」のことをいいます。アサーション・トレーニングでは、自分の考えや欲求などを適切な方法で自己主張するためのスキルを身に付けます。
平木(2007)は、次のような「アサーション権」を主張しています。

Ⅰ 私たちには、誰からも尊重される権利がある。
Ⅱ 私たちは、他人の期待に応えるかどうか決める権利がある。
Ⅲ 私たちは誰でも過ちをし、それに責任をもつ権利がある。
Ⅳ 私たちは、支払いに見合ったものを得る権利がある。
Ⅴ 私たちには、自己主張をしない権利もある。

 アサーションについてふれる先生には、ぜひ知っておいてほしい権利ですね。

2 3つの自己表現

自己表現の仕方には、次の3つのタイプがあると言われています。

①攻撃型「いばりやさん」
自分のことを優先し、他者を無視・軽視する自己表現です。

②非主張的「おどおどさん」
自分よりも他者を優先し、自分のことを後回しにする自己表現です。

③アサーティブ「さわやかさん」
自分のことをまず考えるが、他者をも十分配慮する自己表現です。

子どもに説明する時には、「いばりやさん」「おどおどさん」「さわやかさん」の表現を使うと分かりやすいでしょう。もちろん目指すのは、③アサーティブな自己表現の仕方です。

3つの自己表現

3 DESC法(デスク法)

アサーティブな自己表現を考える方法の1つに「DESC法」があります。
DESCとは、

D (Describe):事実の描写 状況を客観的に、事実だけを描写する
E (Explain):気持ちの表現 自分の気持ちを表現・説明する
S (Specify):行動の提案 相手に解決策や妥協案を具体的に提案する
C (Choose):行動の選択 行動(自分の対応)を選択する

の頭文字をとったもので、「問題解決のためのアサーション」とも呼ばれています。このような手順で思考・表現をすると、アサーティブな自己表現にグッと近づきます。
しかしこのままだと小学生にはやや難しいので、次のように表現してみましょう。

「みかんていいな」

表「みかんていいな」

※「みかんていいな」の指導プログラムは、次号(後編)で詳しく紹介します。

4 指導プログラムの例

⑴ プログラム名 さわやかな自己表現を身に付けよう。

⑵ ねらい さわやかな自己表現について知り、ロールプレイを通じてそのスキルを身に付ける。

⑶ 指導の実際

指導ブログラム例

5 指導プログラムの解説と補助資料

導入では、「これまでに自分の言いたいことを言えなかった経験」をふり返り、個人の課題を学級全体の課題として共有します。先生の経験を語っても良いですね。そして「さわやかな自己表現を身に付ける」という本時の課題を知らせます。ポイントは、さわやかな自己表現を身に付けることでどんないいことがあるのかを伝えることです。「友達とのかかわりがあたたかいものになる」「大人になっても生かされるスキルである」などを伝えられるとよいでしょう。

次に展開では、3つの自己表現についてイラストなどを見せながら知らせます。「ぼくはおどおどさんかも!」「私はさわやかさんかな!」などの反応が返ってくることと思います。(不思議と、「いばりやさん」はあまりいません)今回目指すのは、「さわやかさん」であることを伝えます。つまり、自分も相手も良い気持ちになる自己表現のことです。

3つの自己表現を説明したら、ロールプレイを行います。ここでのポイントは、
①3人組が望ましい。
②説明 → モデリング → ロールプレイ → シェアリングの順で行うこと。

の2つです。

「説明」では、想定場面について全体で確認します。
「モデリング」では、先生と代表児童がペアになって実際にやってみせます。
「ロールプレイ」では、役割演技をする人が2人、観察者1人を分担します。ロールプレイが終わったら、観察者役の人がフィードバックを行います。全員がすべての役割を担当するまでローテーションします。
「シェアリング」では、体験してみての感想を共有します。

<ロールプレイ① 人と意見がちがったとき>
分担する役割:あなた・Aさん
【想定】
同じ学級の友だちが、家庭の都合で転校することになりました。今は、お別れ会に向けてどんなプレゼントを用意すればいいかを話し合っている場面です。Aさんは「寄せ書きがいい」と言っていますが、あなたは「アルバムがいい」と思っています。さて、さわやかな自己表現をするためには、あなたはどのように意見を言えばよいでしょうか。
【さわやかな自己表現の例】
「メッセージだけの寄せ書きもいいと思うんだけど、私は写真があったほうがこのクラスをよく思い出せると思うんだ。だからアルバムの形にして、余白にみんなのメッセージを書くのはどう?」

<ロールプレイ② 友だちに頼みごとをするとき>
分担する役割:あなた・Aさん
【想定】
あなたは「生き物係」です。メダカの水槽が汚れてきたので掃除をしようと思いましたが、重くて一人では運ぶことができません。そこであなたは、Aさんに手伝ってほしいと考えています。さて、さわやかな自己表現をするためには、Aさんにどのように頼むとよいでしょうか。
【さわやかな自己表現の例】
「ねえねえAさん、この水槽を運びたいんだけど、重くて一人じゃ運べないんだ。もしよかったら、手伝ってもらえるかな?」

終末では、本時を体験しての感想をシェアリングします。高学年になるとロールプレイはやや恥ずかしさを感じる子どももいますが、さわやかな自己表現はたとえ付け焼刃であったとしても気持ちのいいものです。「恥ずかしかった」「いい気持ちになった」「これからやってみたい」などの素直な感想を共有し、心のふれあいをもちましょう。

次回は、アサーション・トレーニングの第2時について後編として紹介します。

イラスト/坂齊諒一

<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー。
日本生徒指導学会 日本学校教育相談学会 会員。

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