「法教育」とは?【知っておきたい教育用語】
近年、選挙権の年齢や裁判員になることができる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたこと、インターネット利用環境の拡大によって子どもたちがトラブルに巻き込まれるリスクが高まっていることなどの背景から、小中学校での法教育の必要性が高まっています。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム
目次
情報化社会で必須な「リーガルリテラシー(法的教養)」のために
【法教育】
一般人を対象として、法や司法制度の基本にある考え方を深く理解し、リーガルリテラシー(法的教養)や法的思考力を養成する教育のこと。成人年齢の引き下げに伴い、高校生だけでなく、小中学生への法的なものの考え方を身につける学びも重要視されており、学習指導要領の改訂では法教育の観点が取り入れられている。
情報化社会が加速する現代では、個人情報の漏洩や著作権侵害、SNSを通じた誹謗中傷など、様々なトラブルに巻き込まれる可能性がだれにでもあります。特に、2022年4月から成人年齢が20歳から18歳へと引き下げられたことで、一部のクレジットカード会社では高校生でもクレジットカードを作成することが可能となり、消費者トラブルに遭う若者も増えています。
そうした状況のなかで、個人の「リーガルリテラシー(法的教養)」の養成は急務であり、法教育の必要性が求められています。なお、リーガルリテラシー(法的教養)とは、法の存在や概念、司法制度などに関する基本的な知識や技能などの資質を身につけ、それらを主体的に活用できる能力のことです。
リーガルリテラシーを育むために、初等中等教育の段階から法教育を実践し、子どものころから法やルールについて学ぶことを通して「法的なものの考え方」を涵養することが大切です。
学校における法教育について
法務省では、学習指導要領を踏まえた法教育の実践方法など、教育現場における法教育の普及・推進に向けた取組を実施しています。また、法務省によれば、法教育は「法の背景にある価値、法やルールの役割・意義を考える思考型教育」のことを指し、以下のような姿をめざしています。
法教育が目指すもの
法教育では
①社会の中でお互いを尊重しながら生きていく上で、法やルールが不可欠なものであることへの理解を深める
②他人の主張を公平に理解し、多様な意見を調整して合意を形成したり、法やルールにのっとった適正な解決を図ったりする力を養うことを通じて、自由で公平な社会を支える人材の育成を目指しています。
法教育の主な内容
●法やルールの意義・役割、より良いルールの作り方
法務省(PDF)「生きるチカラ! 法教育」令和元年12月
●契約自由の原則など私法の基本的な考え方
●個人の尊重、自由、平等などといった法の基礎となっている基本的な価値
●司法の役割や裁判の特質
以上のように、小中学生向けの法教育においては、法律の内容を覚えるといった知識的な領域ではなく、あくまでも、法の在り方や法の役割といった「法的なものの考え方」にフォーカスしています。
法教育教材と実践について
法務省のホームページでは、小学生・中学生・高校生のそれぞれを対象とした教員向けの教材が公開されています。
ここでは、小学生向けの冊子教材についてその題材を紹介します。
小学3・4生向け
●紛争解決を行う際の心構え
「友だち同士のけんかとその解決」
●約束をすること、守ることの意義
「約束をすること、守ること」
小学5・6年生向け
●社会生活におけるルールの意義
「もめごとの解決ー国民の司法参加・ルールづくりー」
●情報化社会における表現の自由とプライバシー
「情報化社会における表現の自由と知る権利-情報の受け手・送り手として」
いずれの教材も、子どもたちが主体的に学べるような内容になっています。
しかし、法教育教材の利用状況について、令和元年度の調査では「法教育教材があることを知っている」学校は67.4%であるものの、実際に「法教材を利用したことがある」学校の割合は7.9%という結果であり、なかなか学校現場に浸透していないのが現状です。
法的なものの考え方は、VUCAの時代を生き抜くうえで必要不可欠であることはまちがいありません。さらに、思考力はもとより、客観的かつ多面的に物事を捉える力、他者と対話し協働する力などの習得にもつながります。今後、学校現場でも積極的に法教育が実践されていくような機会や環境の整備が求められています。
▼参考資料
法務省(ウェブサイト)「法教育」
法務省(PDF)「生きるチカラ! 法教育」令和元年12月
法務省(PDF)「小学校における法教育の実践状況に関する調査 調査研究報告書」株式会社浜銀総合研究所、令和2年3月
日本弁護士連合会(PDF)「特集2 次代を担う法教育」2010年
法教育フォーラム「法教育とは何か」