小6算数「拡大図・縮図」指導アイデア《1つの頂点を中心とした拡大図・縮図のかき方》
執筆/富山大学教育学部附属小学校教諭・羽柴直子
監修/文部科学省教科調査官・笠井健一、前・富山県南砺市立福光東部小学校校長・中川愼一
目次
単元の展開
第1時 対応する辺の長さを簡単な比で表すことで、拡大図と縮図の意味と性質を理解する。
▼ 《拡大図と縮図の意味と性質》
第2時 拡大図と縮図について、対応する辺の比から、何倍の図であるかを考える。
▼
第3時 方眼紙を利用した、拡大図と縮図のかき方を考え、実際にかく。
▼
第4時 対応する辺の長さや角の大きさを使った拡大図のかき方を考える。
▼ 《対応する辺の長さや角の大きさを基にした拡大図のかき方》
第5時 辺の長さや角の大きさを使った縮図のかき方を考える。
▼
第6時(本時)1つの頂点を中心とした拡大図・縮図のかき方を考える。
▼
第7時 任意の点を中心にした拡大図・縮図のかき方を考える。
▼
第8時 縮尺の意味と表し方を理解する。
▼
第9時 身の回りの長さの測定に縮図の考えを活用して、実際の長さを求める。
▼
第10時 学習内容の習熟・定着を図る。
本時のねらい
1つの点を中心とした拡大図・縮図のかき方を考え、その方法を表現する。
評価規準
図形を構成する要素及び図形間の関係に着目し、見いだした拡大図や縮図の性質を基にして、1つの点を中心にした拡大図・縮図のかき方を考え、説明している。(思考・判断・表現)
本時の展開
光一さんは、三角形ABCを2倍に拡大してかこうとして、下の図のようにかいたのですが、どうやら自信がなさそうです。三角形DBEが、三角形ABCの2倍の拡大図になっているか調べましょう。
光一さんのかいた三角形DBEは、三角形ABCの2倍の拡大図になっていそうですか。
これは、どういう図なの? 昨日は、基の三角形と拡大した三角形が2つ並んでいたけど、光一さんの図は、三角形が1つしかないよ。
三角形DBEのなかに、三角形ABCが入っているよ。
三角形DBEと三角形ABCが重なっているんだね。
そういうことか。2つの三角形「三角形ABCと三角形DBE」の頂点Bが共通しているんだね。
対応している頂点Bが共通していて、辺も重なっているということは、2つの三角形の角Bの大きさは同じということです。だから、角Bをつくっている辺BDと辺BEの長さが、辺BAと辺BCの長さの2倍になっているかどうかを調べたら、2倍の拡大図になっているかどうかが分かると思います。
では、対応する辺の長さがそれぞれ2倍になっているのか調べていきましょう。
私は、定規で長さを測って調べました。辺BA=4㎝、辺BD=8㎝なので、2倍になっていました。辺BC=5㎝、辺BE=10㎝なので、2倍になっていました。だから、三角形DBEが、三角形ABCの2倍の拡大図だと言えます。
僕は、コンパスを使って調べました。辺BDと辺BEの長さが、それぞれ辺BAと辺BCの長さの2倍になっていました。だから、三角形DBEが、三角形ABCの2倍の拡大図だと言えます。
1つの点を中心にしても拡大図をかくことができるんだね。
点Bを中心にすると、辺BAと辺BCを延長して、定規やコンパスで2倍になる点を見付けるだけで拡大図がかけるから簡単だね。
前の時間に見付けた方法(2つの辺の長さとその間の角の大きさ)を使ったんだね。
三角形の拡大図は、1つの点を中心にして簡単にかくことができることは分かったよ。でも、四角形は1つの点を中心にして拡大図をかくことができるのかな。
やってみよう。
みんなで、四角形の場合について考えていくということでよいですか。
はい、調べてみたいです。(多数)
1つの点を中心にして拡大図をかく方法を使って、四角形ABCDの2倍の拡大図四角形EBFGをかきましょう。
(1人学習中のつぶやき)頂点Aと頂点Cに対応する頂点Eと頂点Fは見付けることができたけど……。
この後どうしたらいいのかな。頂点Eと頂点Fを直線で結んだら、三角形になってしまう。
どうしましたか。何か困ったことがありましたか。
はい、困ったことがあります。光一さんのように、1つの点を中心にして作図しようとしたのですが、途中までは同じようにできたけど、続きが分からなくなってしまいました。
私も困っています。1つの点を中心にして作図したら、四角形ではなく三角形ができました。
どういうことなの。
(黒板に作図しながら説明)まず、頂点Aに対応する頂点Eを、光一さんと同じ方法で見付けました。
そうそう。同じようにしました。
次に、頂点Cに対応する頂点Fを、光一さんと同じ方法で見付けました。
ここまでは同じです。この後、どうしたらいいか分からなくなりました。
私は、三角形の拡大図のとき、対応する2つの頂点を見付けた後、直線で結んだから、今回も同じようにしました。(黒板に作図しながら説明)こんなふうに頂点Eと頂点Fを結ぶと、三角形EBFになってしまいました。
1つの点を中心にして拡大図を作図する方法は、三角形にしか使えないということですか。
いいえ。私は、1つの点を中心にして拡大図を作図する方法は、三角形だけでなく、四角形やその他の多角形にも使えると思います。
でも、四角形の拡大図をかこうとしたら、三角形になってしまったよ。
それは、対応する頂点を3つしか選んでないからだよ。
どういうこと。
四角形ABCDの頂点A・B・Cに対応する頂点は見付けているけど、頂点のDに対応する頂点は見付けていないでしょ。
あっ! 確かに。
でも、どうやって見付けるのかな。だって、頂点Eは、辺BAの延長線上にあって、頂点Fは、辺BCの延長線上にあったけど、頂点Gは、頂点Bからの辺の延長線上にはないよ。
確かに。頂点Dに対応する頂点Gは、どのように見付けたらいいのか考えたらいいね。
頂点Dに対応する頂点Gの見付け方を考えよう。
見通し
辺ADと辺CDの長さをそれぞれ2倍した長さをコンパスで印をつけてみよう。(方法の見通し)
辺だけではなく、対角線も2倍になるのではないかな。(方法の見通し)
四角形を2つの三角形とみなして考えよう。(結果の見通しなど)
自力解決の様子
A つまずいている子
・だいたいの2倍の大きさの形をイメージとしてもっている(それぞれの頂点の位置は明確ではない)。
⑴ 辺の長さがだいたい2倍となるところに頂点Eと頂点Fをとる。
⑵ 四角形ABCDの形が崩れないところに頂点Gをとり、四角形EBFGを作図してみている。
B 素朴に解いている子
・コンパスを使って、頂点Gを見付け出そうとしている。
⑴ 辺AD=2.5㎝、辺CD=2㎝なので、2倍の拡大図は、辺EG=5㎝、辺FG=4㎝になります。
⑵ コンパスで、頂点Eから5㎝のところに印をつけます。
⑶ コンパスで、頂点Fから4㎝のところに印をつけます。
⑷ コンパスの印が交わったところが、頂点Gです。
C ねらい通り解いている子
・対角線の長さを2倍にして、頂点Gを見付け出そうとしている。
2倍の拡大図は、対応する辺の長さが2倍になるだけではなく、対角線も2倍になると考えました。
⑴ 対角線BDを延長します。
⑵ コンパスで、頂点Dから対角線BDと同じ長さのところに印をつけます。
⑶ 対角線BDの延長線とコンパスの印が交わったところが、頂点Gです。
・さらに、作図した四角形EBFGが、2倍の拡大図になっているか確かめている。
対応する辺の長さと対応する角の大きさを調べて確かめている。
学び合いの計画
本時は、1つの点を中心にした拡大図の作図の仕方を考える問題場面です。問題場面1では、1つの点を中心にした三角形の拡大図のかき方を学習します。その際、「本当に2倍の拡大図か考える」「2倍の拡大図のかき方として正しいかどうか考える」ことで、図形を構成する要素及び図形間の関係に着目しながら、1つの点を中心にした三角形の拡大図のかき方の理解を確かなものにしていくことができます。さらに、子供からの「1つの点を中心にした三角形の拡大図のかき方は分かったけれど、四角形もこの方法で拡大図がかけるのかな」という問いから、問題場面2の場面を設定します。
問題場面2では、頂点Gの見付け方が話合いの中心になるでしょう。第4時の学習を生かした考え方(考えB)も大事にしながら、対角線の考え方(考えC)につなげていきます。その際、対角線の考え方は、2つの三角形に分けて考えれば、問題場面1の方法に当てはまることを確認します。そうすることで、対角線を延長しても拡大図がかけることを説明したり、四角形よりも大きい多角形の拡大図もかけそうだと気付いたりすることができます。
ノート例
A つまずいている子
B 素朴に解いている子
全体発表とそれぞれの考えの関連付け
頂点Gを見付けることはできましたか。
(作図したノートをICT機器で大きく提示しながら)四角形ABCDの形が崩れないところに頂点Gをとりました。だいたいここが頂点Gだと思います。
だいたいそこが頂点Gだと思うんだけど、だいたいでいいのかな。
だいたいではない頂点Gの場所を見付けることができたのですか。
見付けることができました。(黒板に作図しながら説明)辺AD=2.5㎝、辺CD=2㎝なので、2倍の拡大図は、辺EG=5㎝、辺FG=4㎝になります。コンパスで、頂点Eから5㎝のところに印をつけます。コンパスで、頂点Fから4㎝のところに印をつけます。コンパスの印が交わったところが、頂点Gです。
私も同じように作図しました。頂点Eと頂点Fは、頂点Bを中心にした問題1と同じ方法で見付けました。でも、頂点Gは、その方法は使えないから、前の時間に学習した方法を使いました。
どういうこと?
まず、頂点Eと頂点Fを見付けたから、三角形BACの2倍の拡大図の三角形BEFの作図ができたことになります。次に、残りの三角形DACの拡大図の三角形GEFを作図します。
なるほど。三角形DACと三角形GEFは重なっていないから、1つの点を中心にした方法ではなくて、対応する辺の長さを2倍する方法で頂点Gを見付けたんだね。
この方法を使えば、頂点Gの場所をだいたいではなく、正確に見付けられるね。
みなさん、納得できましたか。
はい、分かりました。これで、私も正確な頂点Gを見付けることができそうです。
えっ、本当? どうやったの。
(作図したノートをICT機器で大きく提示する)私が作図した拡大図はこれです。
対角線BDを延長しているよ。どういうこと。
2倍の拡大図は、対応する辺の長さが2倍になるだけではなく、対角線も2倍になると考えました。まず、対角線BDを延長します。次に、コンパスで頂点Dから対角線BDと同じ長さのところに印をつけます。対角線BDの延長線とコンパスの印が交わったところが頂点Gです。
作図した方法は分かったけど、対角線を2倍にして作図した四角形EBFGは、本当に2倍の拡大図になっているのかな。
どうしたら確かめることができますか。
対応する辺の長さや角の大きさを調べてみたらいいと思います。
それでは、確かめてみましょう。
対応する辺は、すべて2倍になっていました。
対応する角の大きさは、それぞれ同じでした。
だから、四角形EBFGは2倍の拡大図と言えます。
対角線を2倍にする方法でも拡大図をかくことができることが分かりました。
作図した拡大図を見て思ったのだけど、四角形ABCDは、三角形ABDと三角形BCDの2つの三角形に分けることができます。この2つの三角形の2倍の拡大図が、三角形EBGと三角形BFGになります。
そうか! 対角線を2倍にした方法は、問題1の方法と同じ考え方だね。
四角形は三角形に分けて、それぞれの拡大図をつくることによって、拡大図をかくことができんだね。
この考え方なら、三角形と四角形だけではなく、どんな多角形でも拡大図をかくことができるね。
図形の1つの点を中心にして、中心からの距離を伸ばすことによって拡大図をかくことができるということは、その逆の縮図もかくことができそうだね。
学習のまとめ
頂点Dに対応する頂点Gの見付け方
●コンパスを使って、頂点Gを見付けることができた(2倍の拡大図をかくことができた)。
・コンパスを使ったということは、三角形EFGをつくったということ。(三角形ACDの拡大図)
四角形は2つの三角形に分けて、それぞれの拡大図をつくることによって、拡大図をかくことができる。
●対角線を使って、頂点Gを見付けることができた(2倍の拡大図をかくことができた)。
・対角線を使ったということは、四角形ABCDを三角形ABDと三角形BCDに分けたということ
・頂点Bを中心にして、2つの拡大図をかいたということ
四角形の1つの頂点を中心にして、中心からの距離をそれぞれ伸ばすことによって、拡大図をかくことができる。
○中心にする点は、頂点に限らないかもしれない。
○縮図も同じようにかくことができそう。
○四角形について考えたけれど、五角形や六角形などの多角形でもこの考えを使うことができそう。
評価問題
四角形EBFGは、四角形ABCDの2倍の拡大図です。元の四角形ABCDをかきましょう。
子供に期待する解答の具体例
本時の評価規準を達成した子供の具体の姿
図形を構成する要素及び図形間の関係に着目し、見いだした拡大図の性質を基にして、1つの点を中心にした方法で縮図を作図している。
感想例
- 図形の1つの点を中心にして、中心からの距離を伸ばすことによって、拡大図をかくことができることが分かりました。
- 拡大図から元の図を考えるということは、縮図をかくということだと考えました。
- 1つの点を中心にして拡大図を作図する方法は、角が共通しているから、簡単に作図することができると思いました。
- 同じように中心にする点をとって、縮図もかいてみたいです。
- 対角線のアイデアはすごいと思っていましたが、よく考えてみると、対角線を使うことは2つの三角形に分けていることになるので、コンパスの考えにもつながっているんだなと思いました。
- 拡大図と縮図は別のものだと思っていたけど、違うのは倍率だけなんだなと思いました。合同な図形も、「1倍の拡大図」と言えるかもしれないと思います。
ワークシートと板書例
イラスト/横井智美