子どもの「やりたい!」を大切に。理科の楽しさを伝える授業づくりとは 【理科の壺】
理科の授業の楽しさを伝えるには、先生自身がその楽しさを知っていると、その気持ちが子どもたちに伝わります。先生が理科を好きでない理由として、難しい、時間がかけられないなどあるかと思います。表面的に授業を流すだけでは「知識を伝達し、一通り経験をさせている」だけで、理科のおもしろさを感じて意欲的に取り組むことには繋がりません。まずは、何でもいいので1つ深くやってみるということから取り組んでみてはどうでしょうか。今回は、子どもの意欲という視点で引き出し方について考えています。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・尾﨑 翔
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.まずは教師が理科を好きになってほしい
「理科の授業」と聞くと実験準備や教材作成など、授業をするための壁が多くあるように思います。理科が好きならまだしも、嫌いな場合は「負担が大きい大変な教科」という印象を持たれている方も多いと思います。筆者の周りでも、理科の研究に熱心な方は、ほぼ全員が理科の楽しさを知っている先生です。だからこそ、子どもに理科を教えるにあたっては、まずは教師が理科を好きになってほしいと思います。
理科を好きになるきっかけは、日常生活の中にあります。自分の経験では、小学校3年のとある冬の夜中、たまたま目が覚めて窓の外を見てみると満天の星が広がっていました。そこから星に興味を持ち、不思議を探っていくうちに理科の事が大好きになりました。
小学校の理科はたくさんの観察や実験を通して、身の回りの不思議を探っていく教科だと思います。2年生までの生活科とつなげて、授業の計画を立てていくことも大切です。今回は経験がない中ではありますが、子どもたちが自主的に学習活動に取り組むことができるような手立てをご紹介できればと思います。
2.子どもの「やりたい!」を引き出すには?
子どもたちの理科に対する気持ちを高めるために、子どもたちの持つ 「不思議」 を引き出してあげることがとても大切だと考えています。興味のあることと無いことでは調べる意欲に差が出てきてしまうのは当然のことです。
子どもたち自らが「解決したい!」「実験して確かめてみたい!」と思わなければ、ただの知識の教え込みや活動で終わってしまうため、単元の計画を作成する際には、なにを導入で扱い、どのように発問を行うかを一番に考えます。導入で子どもたちが「えっ?!」「なんでだろう?」と思う体験をさせてあげることができれば、調べる意義を子どもたちが感じるのではないでしょうか。
3.問題づくりでやる気アップ!
理科の学習指導要領解説の各学年の目標(思考力・判断力・表現力等及び、学びに向かう力)は、次の通りとなっています。
第3学年
(比較しながら調べる活動を通して) 自然の事物・現象について追究する中で,差異点や共通点を基に,問題を見い出し,表現すること。第4学年
(関係付けて調べる活動を通して) 自然の事物・現象について追究する中で,既習の内容や生活経験を基に,根拠のある予想や仮説を発想し,表現すること。第5学年
(条件を制御しながら調べる活動を通して) 自然の事物・現象について追究する中で,予想や仮説を基に,解決の方法を発想し,表現すること。第6学年
(多面的に調べる活動を通して) 自然の事物・現象について追究する中で,より妥当な考えをつくりだし,表現すること。
各学年で付けたい問題解決の力は、第3学年が問題を見いだす力、第4学年が根拠のある予想や仮説をする力、第5学年が解決方法を考え、表現する力、第6学年がより妥当な考えを作り出し、表現する力となっています。
また、当該学年の内容だけでなく、他学年の内容についても、触れていくことが大切です。
今回は主に第3学年の内容である、問題の見い出しでの実践を紹介します。
4.子どもたち一人ひとりが問題を見つける
子どもたちの「調べたい」を引き出すために行う実践が、子どもたち一人ひとりが問題を作成する、「問題づくり」の活動です。今回は2つ実践を紹介します。
⑴ 映像を使った導入
理科の問題を作成する際は、日常的な場面から不思議なこと、調べてみたいことを探していくことが大切です。子どもたちにとって身近なもので無ければ、新しいことを知る学習にはなりますが、「調べてみたい!」には繋がりにくいです。そこで、子どもたちにとって身近に感じる映像を使うことで、日常生活の中の不思議に気づくことができます。もちろん実物や写真を見せることも有効ですが、実物を見せることがむずかしい場合などは想起しやすくするために使ってみても良いのではないかと思います。
映像を使った際は、映像を途中で止めながら、場面に応じて気づいたことを書かせています。子どもたちの気付きからキーワードなどを出して問題づくりの活動を行うことで、支援が必要な児童も活動に参加できるようになります。また、問題づくりの活動をする際には、ポイントとして以下の3点を提示しています。
①「なぜ」、「どうして」を使わない
② 実現(実験)可能であること
③ 文末を「~だろうか」にする
以上の3点を押さえることで、ある程度まとまった問題になります。あとは個々の問題を組み合わせて、クラスで解決する問題を作成し、実験を行っていきます。
⑵ 第4学年「電気のはたらき」の導入
第4学年「電気のはたらき」の単元の実践です。まず導入で、第3学年「風とゴムのはたらき」「明かりをつけよう」の2単元で学習したことから、物を動かす働きと回路について確認した上で、実際にプロペラを入れた回路を作成し、回ることを確認しました。
その後、個人の実験キットを使い、気になったことを個人で実験します。その中で、不思議に思ったことや調べてみたいこと、気づいたことを振り返りで書き、それをもとにしてクラスで実験する内容を決めていきます。 この実践では、個人の実験で気付いたことや調べてみたいことを出しつつ、クラスの問題として実験を行うことで、気付きを得られなかった児童は学ぶべき内容をおさえることができ、気付いた児童は+αでもっと調べたいことを調べることができます。また、この導入をおこなった後のクラスで解決する問題を設定する際にも、上記の3点のポイントを提示しています。
5.解決することの楽しさをどんどん知ってもらう事が大切
理科の授業は、子どもの理科が好きな度合いが授業の盛り上がりや意欲的な活動に繋がっていると思います。そのために実験を行うことで、確かめること、解決することの楽しさをどんどん知ってもらう事が大切ではないかと思います。子どもの「やりたい」を大切にして、授業づくりを行うことができれば理科好きな子どもを育てることにつながるのではないでしょうか。
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
尾﨑 翔●おざき・しょう 相模原市公立小学校教諭。相模原市小学校研究会理科部会部員。令和6年度神奈川県小学校理科研究大会実行委員会役員。理科を中心に日々実践研究を行い、主体的に学ぶ子どもの育成を目指している。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。