不登校の子どもを「復活」させたい。その言葉に込められた学校経営の理念とは

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

あなたの学校の子どもたちや教職員たちは笑顔で過ごせていますか? 笑い声や笑顔が多かったら、きっとうまく回っています。常日頃から学校経営を見直し、長所はさらに強みとして伸ばし、課題は速やかに修正していくように心がけたいものですね。
修正することをためらってはいけません。勇気をもって一歩進めてください。
いま、次の5点が教育界の動向から欠くことができない柱だと考えられます。
1、いじめ・不登校・自殺対策(予防教育)
2、GIGAスクール構想・授業改善の具現化
3、インクルーシブ教育の推進
4、働き方改革の具現化
5、地域との連携強化と開拓
これら5つの観点から学校の現状を分析し、リフレクションすることが大事です。

今回は、「いじめ・不登校・自殺予防対策」、中でも不登校対策の「理念」に焦点化して考えていきましょう。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #25

不登校の子の訴え

「この子を復活させたい」という校長の言葉の重さ

猛暑の8月20日(火)、K市のS小学校から人権教育研修の講師としてお声掛けいただきました。研修テーマは、「いじめ・不登校対応をどうする?」です。
実は、S校の校長と教頭は、かつて校長時代の私と、それぞれ1年間ずつタッグを組んだ教頭たちでした。教頭であった2人には様々に支えられました。深く感謝したい、そんな恩返しを兼ねての訪問でもありました。
校長は研修の始めに、「今、学校に来られていない子どもたちや、教室に行けない子どもたちを『復活』させたい」と語りました。
「復活」という言葉。
今や不登校も個性と言われる時代です。選択が尊重される社会情勢の中、久しぶりに耳にした言葉でした。
それは、懐かしくもあり、驚きでもありました。校長としての学校経営上の苦悩や、子どもたちをどうにかしてあげたい、という思いが伝わってきました。
この言葉に心が震え、与えられた80分の間、いじめ対応の仕方や、いじめは子どもたちだけでなく教職員の言動を含めて行われること、多くの場合「関係性から」不登校が生まれる要因になること、そのための対策や予防策等を教職員の皆さんと対話形式で語り合いながら解決への糸口を探るべきことなどを、夢中で話しました。あっという間の80分でした。

不登校の子どもたちにどう対応する?

皆さんは、不登校や不登校傾向、登校渋り、教室渋り等を示している子どもたち(これ以降、「不登校」と統一表記します)にどう対応していますか?
本人や保護者とこまめに連絡をとっていますか?
最近、不登校になっている保護者の方から相談を受けることが多くなりました。
その主訴は、不登校になっている我が子に対する学校の関わり方への「不満」と「怒り」です。
保護者から連絡しない限り、学校からはほとんど連絡がないということが多いというのです。
最もひどい場合は1年間、管理職から一度も連絡がないという状態で、見捨てられている気持ちになるというのです。
不登校の要因は、学校にもあると言うのに、改善する努力をしないどころか、関わり合いすら持とうとせず、ただ一人で追い込まれている、と苦しい心の内を語る保護者が増えています。

2016年に成立し、翌年施行された「義務教育の段階における普通教育に相当する機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」では、不登校について新しい視点が盛り込まれました。
「どの児童生徒にも起こり得るものとして捉え、不登校というだけで問題行動であると受けとらないよう配慮する」
「登校という結果のみを目標とすることなく(省略)社会的に自立することを目指す必要がある」
と明記されたのです。これによって、学校における不登校対応が大きく変容したと考えています。
特に「登校という結果のみを目標とすることなく……」という文言は、家庭訪問や学校への登校促しに対して、教職員に心理的にブレーキをかけるようになったのではないかと捉えています。
この法律の本質は「社会的に自立することを目指す必要がある」ということなのですが…。
不登校を個性として捉え、個性を尊重する風潮から「学校に不登校がいるのは当たり前」と考える人が増えていると考えられます。そのような人からは、次のような言葉が発せられます。
「子どもが来たくなるまで、待ちましょう。見守りましょう」
「学校に来ることが目的ではないですから、適性に応じて他の関係機関に通うことも可能です」
「お子さんを連れてこられたら、来てください。待っています」
「子どもを迎えにいくことはできません。他の子どもたちは皆、自分で歩いて来ています。お子さんだけ特別扱いはできませんので、連れてきてください」
などなど。
学校として、動かなくてよい理由を探していませんか? その根拠をこの法律に求めていませんか?
この法律はあくまで、無理やり子どもを連れ出すような強引な指導を否定し、子どもの主体性や自己決定を促す姿勢を大事にして対応することを示しているのです。動かなくてよい根拠や理由は一つもないのです。
子どもが「社会的に自立することを目指す」ために、その背景を理解しながら何が必要かを基軸に考え働きかけることが大事なのです。

S小学校の校長の「復活」させたいという強い思いは、学校経営をする校長ならだれもがもって欲しい思いです。そうあって欲しいと願います。

私自身は、不登校の子どもたちが発する「学校に行きたくない」「教室に行きたくない」は、学校経営に少なからず課題があるからだと受け止めてきました。
楽しい、面白い、価値の見出だせる学校なら、子どもたちは黙って笑顔で通います。
不登校の子どもたちは、「今の学校は、楽しくない。面白くないよ。校長先生、何とかして……」と悲鳴を上げて、行動で教えてくれているのです。
私はこのように捉えて改善を図るアイデアを絞り出し、教職員たちと相談して、次の一手を探し求めてきました。
不登校という現象をこのように捉えることができれば、「楽しい、面白い、価値のある学びができる学校」を創造すればいいのです。子どもたちの不登校は、学校を変える大きなチャンスなのです。子どもたちは、あなたにヒントをくれているのです。あとは、このヒントを基に教職員と知恵を出し合い、子どもたちが笑顔になるアクションを起こせるかどうかです。
S小学校は、変わっていくと感じました。管理職二人の思いが、教職員に伝わっていくことでしょう。

理念が学校を変えていく

2024年(令和6年)9月2日の日本教育新聞「人づくり 国づくり」の記事を読んで、こんな教育長がいたんだと心の底から共感し、嬉しくなりました。学校経営の大きなヒントとして示唆に富んでいますので、その記事を紹介します。(*傍線は田畑が記しました)

「教員になってから今年で47年目を迎えます。校長、教育長とやってきて、次の目標は何かと考えたとき、不登校問題に向き合うことを決めました。いま最も大きな社会問題の一つだからです。
不登校の子どもたちが集まり、学習も遊びもできる居場所をつくりたい。寄付金を集めに奔走し、ようやくNPO法人『輝き(かがやき)』を立て上げました。
不登校支援で一番大切なことは『人との出会い』だと、改めて実感しています。『人』とは主に、子どもの気持ちを真から受け止め、どうにかしてあげたいと本気で考える大人のこと。スタッフの信頼関係さえできれば、おのずと自立の道を歩み始める子どもの姿をたくさん目にしてきました。
不登校が増えた原因の一つは、コロナ対策や教育機会確保法により、『学校で学習しなくてもよい』という認識の保護者や教員が増えたことにあると考えています。一時的な措置としてはよいが、本質的な解決ではない。その結果、子どもが家に引きこもったら絶対に駄目です。
学校でなくてもいい。本気で向き合う大人と出合い、交流し、心が動くきっかけを創出できるかどうか。それが全てです。
問題の根本にアプローチする仕組みづくりをいつも考えています。再び教育長の命を受け、その仕組みを即、実行に移しました。『オンラインde居場所』です。
オンライン上でスタッフや他の不登校児童・生徒と交流する場所で、チャット・声出し・顔出しと。自分のタイミングで、スモールステップで参加することができます。
本年から『こども★はあとサポーター』も始めました。地域住民のボランティアを各校に配置し、行きしぶりの子どもをフォローしたり、家庭訪問で保護者の声を聞き取ったりする取り組みです。対象児童・生徒や支援の内容は事前に学校と打ち合わせ、個別最適化しています。『地域の子どもは地域で育てる』がモットーです。
そして、学校における最も大切な根本解決へのアプローチは『教員の意識改革』でしょう。目の前の子どもを本気で何とかしてあげたい。そういう熱い気持ちのある先生が欲しい。
まずは校長会で校長の意識を変え、研修で教員の理解を深め、八尾市全体の雰囲気を変えていきました。

不登校対策で重要なことは、新たな不登校児童・生徒を出さないことですが、その点、八尾市では大きな成果が出ています。要因は教員の意識の変化にあると確信しています。目の前の子どもをどうにかしてあげようと思ったら、どうにかなるのです。
一人一人の子どもを大事にしたい。やはり、その一言に尽きます」

という内容です。大阪府八尾市教育委員会教育長の浦上弘明氏のインタビュー記事です。

子どもたち一人一人を大事にしたい、という教育長の強い理念のもと、市全体で不登校対策に取り組むことで成果を上げた事例の一つです。
この教育長のインタビュー記事は「理念によって、学校は変わり、子どもたちは動き始める」ことを教えてくれています。

学校に通わなくてもいいという意見について

今、子どもたちの不登校数が30万人を超える勢いで増えています。
これを容認する風潮として、多様な学びがあるから学校に無理していく必要はないという意見もあります。もちろん選択の時代ですから、自らの個性や特性から自由に学びたいと考え、学校から離れることも良いと思います。
ただ、いじめによって苦しめられた被害者が、学校にいたいのに通えなくなり、離れてしまう際の心情を想像すると胸が苦しくなります。いじめ被害までいかなくても、子ども同士の関係性のトラブルから離れる子どもたちもいると思います。
そして、保護者と本人は、学校以外の機関で学ぶことを選択する場合、いくつかの課題をクリアしなくてはなりません。

代替機関(特例校、フリースクール、オルタナティブスクール等)の受け入れ先が通学可能な圏内にあるかどうか。
代替機関が有償であった場合、入学金や授業料の工面ができるかどうか。
今まで負担の少なかった昼食代や教材費を工面できるかどうか。
代替機関が肌に合わない場合どうするか。
保護者が送迎ができない場合はどうするか。
代替校の面接等で外れた場合はどうすればいいか。

こうした問題をクリアすることは、容易ではありません。学校以外の選択肢を語る人たちの中には、あくまで他人事として発言している人が多いように思います。
不登校は、当事者、そして、家族が不利益を被るのが実情です。
まず学校は、子どもたちが通いたくなる場となることを忘れてはならないのです。
担任の先生や、クラスの子どもたちとの関係性が、うまくいっていれば。様々な意見が認められ、みんなで交流しながら否定されない場所ならば、子どもたちは安心して学びに来ます。
それが、学校改革で最優先に取り組まなければならない予防対策だと思います。

おわりに

子どもたちの自主性を重んじ、「自律」を育む大胆な改革で注目された学校がありました。しかし、時は流れ、次第に学校の様々な課題が浮き彫りになってきました。その一つが、不登校生徒の多さです。魅力のある「自律」を目指す学校なら子どもたちが果たして離れるでしょうか。どんなに素晴らしい学校経営論であっても、子どもたちが離れていく学校経営に私は疑問を抱きます。子どもたちが通いたくなる学校づくりが優先されなくてはならないと思います。
学校の中心人物は誰でしょうか。
中心人物に影響を与える対役は誰でしょうか。
ここの捉え方を誤ると、結果として、子どもたちは学校を離れていくことになります。
本当の意味での子ども主体の学校づくりをしたいものです。まずは、一人一人が安心して通いたくなる学校づくりに尽力していきましょう。その基軸は、校長・教頭の理念づくりから始まるのです。

イラスト/坂齊諒一


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田畑栄一

<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
最新の教育活動についてはこちら(他サイトが開きます)。


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