言えない思いに気付けるとは? 【伸びる教師 伸びない教師 第47回】

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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「言えない思いに気付けるとは?」です。人には、困ったことを言えない思いや状況があります。その思いや状況をどのように気付こうとするのかという話です。

執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)

栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。

伸びる教師は見えないものを見ようとし、伸びない教師は見えているものをそのまま受け止める

誰か僕を止めて……

私たちは、見えている光景、聞こえてくる言葉をそのまま事実として受け止めます。
しかし、それがすべてではないと感じています。
以前、5年生の担任をしていたときのことです。その学級には、4年生の頃から友達付き合いが苦手で、思い通りにならないことがあると机を蹴飛ばしたり友達に暴力を振るったりする男の子がいました。授業中も落ち着いて椅子に座っていることができず、出歩いてしまいます。
旧担任との引き継ぎでは、とにかく我慢ができず、自分の気に入らないことがあると暴れるため、その子の対応に困っていたとのことでした。私が担任になって1週間、何事もなくほっとしていた矢先、その男の子が些細なことで友達と口論になり、大声を出しながら机や壁を蹴飛ばすという事件が起きました。
パニックが収まるのを待ち、本人と話をしました。落ち着くと、普通に話をすることができました。
どうしてけんかになったかなど、経緯を聞いた後、こんな質問をしました。
「机を蹴飛ばしているとき、どんなこと考えていたの?」
その子は、少し考えた後に小さな声でこう言いました。
「誰か僕を止めて……」
思いがけない言葉に一瞬言葉を失いました。
自分が暴れる状態になってしまうと、自分自身で止めたくても止められなくなってしまうとのことでした。
私たち周りの大人は、5年生までの彼の行動について、自分の怒りを物や人にぶつけているわがままな行為であり、それで本人が発散していると捉えていました。
しかし、本人は、コントロールの利かなくなった自分を責めていたという事実に大きなショックを受けました。

子供たちの「言えない思い」をイメージする教師

周りの大人が知る

当時は、発達障害に関する理解がまだまだ進んでおらず、私自身、ADHDという言葉についても聞いたことがある程度で詳しいことまでは分かっていませんでした。その日の夕方、すぐに書店へ行き発達障害に関する本を3冊ほど買い、どう対応したらよいか自分なりに考えました。
周りの教師には、今回のことを話し、決してわがままという単純な話ではなく、本人も苦しんでいるのだということを伝えました。保護者と面談しましたが、保護者も本人のわがままと捉えていたようで、今回のことを話すと驚いていました。その後、病院を受診することになりました。
それからは、その男の子の暴れる回数は減り、6年生になる頃にはすっかり穏やかな表情で友達と仲良く過ごすことができるようになりました。

見えないものを見ようとする姿勢をもつ

こんなこともありました。
管理職になりたての頃でした。ある教師から「隣の学級が騒がしいので心配だ」と報告がありました。私は何度かその教室に足を運んだことがありましたが、やんちゃな子が多い元気のある学級という印象で、学級が壊れそうだという危機感はもっていませんでした。
私は、担任の教師に「なかなか元気な子が多いけれど、なにか困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」と伝えました。
その教師の「はい、大丈夫です。なにかあったら言います」という言葉をそのまま受け取り、その後は、困ったという報告もなかったので安心していました。
それから1週間が過ぎた頃、その学級で子供たちが出歩いて授業にならないという事件が起きました。担任の教師と話をすると、「あのとき、言えなくてすみませんでした」と涙を浮かべながら謝っていました。
私が声をかけたときには、学級をうまく掌握できない自分を認めたくなかったので、つい「大丈夫」と言ってしまったのだそうです。また、ほかの教師に迷惑をかけてしまうのではないかという心配もあったとのことでした。私は「先生の苦しい気持ちに気付いてあげられず申し訳ありませんでした」と謝りました。あのときもっと詳しく状況を聞き、その教師の気持ちに寄り添っていればこんなことにはならなかったのだと反省しました。

私は、なんとなく様子がおかしいと分かっていても、あの子はこうだから……、本人が「大丈夫」と答えたから……、助けを求めてこないから……と、あと一歩踏み込むのを躊躇してしまうことがありました。
しかし、子供も大人もなかなか人に言えない「思い」があります。ときにはつらくても笑顔で答えるという真逆の行動をとることもあります。「困ったことがあったらすぐに言って」と言われても言えないこともあるでしょう。
そうした「思い」に気付ける教師でありたいと思いますが、実際には、本当の気持ちは本人にしか分かりません。 ただ、分からないからこそ、見えている光景、聞こえてくる言葉だけで決めつけてしまうのではなく、見えないものを見ようとする姿勢をもち続けていきたいと思っています。

構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ

※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。

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