<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ ♯7 徳島県石井町立石井小学校5年3組②<前編>

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菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載です。3学級の担任は、徳島の堀井悠平先生、高知の小笠原由衣先生、千葉の植本京介先生。 今回からは、徳島の堀井学級における、7月上旬の授業レポートです。菊池実践における話し合い指導のステップや、具体的な声かけのあり方が示される必読回です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

担任・堀井悠平先生より、学級の現状報告

4月の菊池先生の授業を通して、「みんなで学び合う」という雰囲気をどうつくっていくか、についてより深く考えるようになりました。
教師が引っぱらないと発言しない、発言しても理由はなかなか話せない子が多かったので、まずは簡単な理由でも発言できるようにしたいと感じました。
同時に、聞き合う雰囲気をつくっていかなければと思いました。子供たちが私の話を聞くとき、なかなか視線が集まらない、話半分で聞き流しているような雰囲気を感じていたからです。
一方、私の指導のあり方も見直しました。1年後のゴールイメージに引っぱられ過ぎて、今の教室の実態からかけ離れ、子供たちがついていけない状況もあったためです。子供をしっかり見ていない証拠だと実感しました。
菊池先生の授業後、毎朝の会で、3人の子供たちのよいところを紹介し、10日間で30人全員をほめるようにしました。
授業では「書いたら発表をセットにする」ことを大切にし、発問→自分の考えを書く→列指名や班指名等での発言を通して全体の前で話す、という機会を確保していきました。
道徳や国語、社会科、学級会で話し合いの授業を取り入れ、基本形を体感させながら、それぞれの話し合いにねらいをもって取り組んでいきました。子供たちは話し合いを楽しむようになり、次第に活発な意見のやりとりができるようになっていきました。
話し合いが軌道に乗ってきたのは、6月中旬頃。社会科の話し合いで第二反駁まで噛み合った話し合いを体験したこと、それらが成立したこと、新しい考えや価値を発見できたことが大きな自信になり、みんなで楽しもうとする雰囲気が教室に広がったように思います。
学級活動では、時期を見計らいながら、フリートークや質問タイム、ほめ言葉のシャワーを取り入れました。お互いを知り、子供同士の関係を築いていくためです。
少しずつ教室の空気が温まってきましたが、一方で、友達の陰口や無視に悩む子からの相談もありました。そこで、いじめの授業を行い、“自分事” として考えることを目指しました。
いじめの授業の後から、少しずつ教室の雰囲気が変わってきました。

少し負荷をかけるような指導が入るようになった
授業をしていて呼応している様子を感じるようになった
子供たちの表情が柔らかくなってきた

タックマンモデル(社会学者・タックマンによる集団の成長段階を示したモデル)に照らし合わせるなら、ようやく「準備期」から「形成期」に入って来たかなと感じています。

菊池先生による飛び込み授業レポート

「2時間目に堀井先生が黒板の左端に書いた2文字を覚えていて言える人?」
菊池先生が尋ねると、何人もが手を挙げ、指名された子が、
「『理由』です」
と答えると、みんなから大きな拍手が送られた。
「そうですね。理由というのは、無理してでもひねり出すもの。それが自己開示です。そして、出し合った意見をお互いに理解し合うから、白熱する教室に変わっていくんですね」
と菊池先生が説明すると、これから始まる授業にみんな期待いっぱいの表情になった。

桃太郎の仲間の活躍度をランキング

「今日は “日本一” について勉強しようと思います。これは何のお話か分かるかな?」
と1枚のイラストを見せると、みんなが「ああ~っ!」と笑顔で手を挙げた。
最前列の男子が、
「桃太郎です」
と答えると、みんなで拍手。
どんな話か、近くの人とほんの少しだけ話し合ってから、縦1列が発表。
菊池先生が最前列の男子に、
「話し合いの授業のとき、堀井先生は『何を言ってもいい」と話すでしょう?」
と尋ねると、男子が笑顔でうなずいた。
「つまり、それは前の人と『同じです』『一緒です』という発言はなし、ということだよね。ということは、最初に言った方がラクだよね? でも、君は最後でもいいんだよね?」
と菊池先生が男子にたたみ込むように話しかけると、男子が笑顔で、
「はい!」と答えた。
「よし! じゃあ……一番後ろの子から発表しましょう」

桃から生まれた人が鬼退治に行った
きびだんごで仲間を集めて、鬼を倒しに行く
桃から生まれて、おじいさんおばあさんに育てられ、きびだんごを持たされて、イヌ、キジ、サルみんなで鬼退治に行った
川から流れてきた桃の中にいた人が鬼を倒す

菊池先生がうなずきながら、鬼退治のイラストを見せた。
「仲間という意見が出たけれど、誰を集めたのか、言える人?」
菊池先生の問いかけに、全員が勢いよく手を挙げた。
「イヌ、サル、キジです」
菊池先生が、<イヌ、サル、キジ>と黒板に等間隔に書き、<一番活躍したのは誰か>と続けて書いた。
「みんなで理由をひねり出し合って白熱したいと思います。まず、自分で3人(匹)の活躍ぶりに順番をつけましょう」

Point1
「1番活躍したのは誰か」だけを問うのではなく、ランク付けにしたのは、1位の理由付けをより鮮明にするためです。イヌ派の立場で考えるとき、「イヌが1番」の理由だけでなく、キジやサルを2番、3番にした理由も同時に考えなければいけないわけです。

「うーん、悩むなあ」
と考え込む女子に、
「“あえて” でいいんだよ」
とアドバイスする友達も。
ある男子がイラストを見ながら、
「一番血がついてるから、サルやな。血の気が多いヤツやな」
とつぶやくと、周りの子たちが大笑い。
順位付けができた子から、イヌ、キジ、サルのスペースに自画像マグネットを貼りに行った。

イヌ 7人
キジ 9人
サル 14人

「『あえて』と言っている友達がいたけど、いいねえ。相互理解が進んでいるから、『あの子があっちに行くなら、自分は “あえて” こっちに行って、話し合いをより白熱させるぞ』と考えるのかもしれないですね。じゃあ、『“あえて” こっちに行きたい』という人はいますか?」
菊池先生が尋ねると、少し間を空けて、一人の男子がキジからサルに変更した。

Point2
立場を変えた男子は、「深く考えず、思いつきで動くことも多い」と堀井先生から聞いていました。もしかしたら、このときも、最初はあまり考えずに、キジを選んだのかもしれません。
私が「あえて」というつぶやきを取り上げたことで、もう一度よく考え、変更したのでしょう。少し間を置いたことからも伝わってきます。
教師はよく、「分からないときは『分かりません』と言いましょう」と子供たちに声かけをします。
しかし、自己開示と相互理解が不十分な教室では、簡単にそうした発言はできません。
『分かりません』『すみません。もう1回言ってください』『これでいいですか?』。学びに向かっている状態の中で、こうした言葉が素直に言える学級はいい学級です。
1回で聞きとることを原則として示しながらも、理解のばらつきや、考えているからこそ出てくる発言を認めることが大切です。

「成長ノートに、1位にした理由をたくさん箇条書きで書いていきましょう」
子供たちが、ささっと鉛筆を動かした。

その場で意見発表→すぐに反論・質問

「これまでも3組では、いろいろ話し合いをしてきたと聞きました。今日は三つ巴で行きましょう」
さっそくイヌ派、キジ派、サル派に分かれて、作戦会議が始まった。 イラストを見ながら意見を出し合うグループ、身振り手振りで理由を話すグループ。教室に賑やかな対話が響いた。

Point3
同じ意見同士で話し合う場合、私は子供たちによく「2~3人ぐらいのグループになって話しましょう」と声をかけます。が、3組にはあえて声をかけませんでした。言わなくても子供たちは少人数で話し合えると思ったからです。
子供たちの教科書・ノートの持ち方や身のこなしを観察しながら、お互いが安心できる人間関係になってきている姿、話し合いの経験を積んできている姿を感じたからです。

「今の作戦会議みたいに理由をひねり出し合って話し合いながら、理由を増やしていくんですね」
菊池先生の声かけに、作戦会議をしていた子供たちのスピードがアップした。

Point4
子供たちのかかわり方ができている場合、次のステップとして、意見の質を上げることに目を向けさせます。
「3分で15個見つけよう」
「『もし~~なら』で考えよう」
「自分たちがいいと思う理由は、相手がだめだという理由でもある」
このような言葉かけで、子供たちに自分ならではの意見を考えさせたり、反論の視点をもたせたりしていきます。

作戦会議のあと、まずはイヌ派から発表。

嗅覚が鋭いから、どこに行けばいいか分かる
爪がとがっている
噛む力やひっかいたりする力がある
足が速い

「じゃあ、今の意見に『異議あり』、いちゃもんがある人は?」
と菊池先生が尋ねると、大勢の手が挙がった。

足が速いというが、キジも飛ぶから速い
足が速くても、海を渡れるのか
イヌの嗅覚は何の役に立つのか

菊池先生が、
「反論が出たけれど、言い返せ」
とけしかけると、イヌ派が再反論した。

鳥こそ、風が来たら飛ばされるのではないか
船で行くから、海は関係ない

再度、イヌ派への反論。

鳥は風が来たら飛ばされるというが、力があれば飛ばされない
島だから崖がいっぱいあるが、イヌは崖を登れない

イヌ派からの再々反論。

登れなくても、崖の下にいる鬼を倒すことができる

イヌ派への3回目の反論。

足が速いのは、活躍に関係あるのか
風が強いとキジは速く飛べないというが、そもそも鬼ヶ島に強い風は吹くのか?

子供たちの発表を聞きながら、菊池先生が、
「一生懸命言い返そうとするから、いろいろ考える。それが理由をひねり出すことなんだね」
と言葉かけをした。
イヌ派からの3回目の反論。

イヌなら、桃太郎が襲われていたら、すぐに駆けつけて助けに行く

子供たちの話し合いがどんどんヒートアップしていった。


この授業の話し合いでは、意見を発表し、すぐその場で反論・質問、さらにその質問について回答・反論させるフォーマットで進めました。
今の段階では、ディベートのように肯定側の立論→反対側の質疑、否定側の立論→肯定側の質疑、ときっちり順序立てて議論したり、一つの立論に絞ったりすると、子供たちの意見が途切れ、自然さが失われてしまうからです。
イヌ派が嗅覚のメリットを主張したことに対して、キジ派の子から、「嗅覚が何の役に立つのか」と、“重要性” を問う反論が出ました。嗅覚というメリットの重要性を潰すという、議論のポイントを踏まえた話し合いが、荒削りながら押さえられていました。
今後、子供たちにディベートを経験させていくことで、議論がかみ合っていくようになっていくはずです。

※この授業レポートは次回に続きます。

菊池先生から堀井先生へのメッセージ

4月に3組の子供たちと出会ったとき、(心も体も)沈み込むような姿が気になりました。
4年生のときに温かい人間関係を築けずに進級してきたことを堀井先生から聞きました。不安でお互いに牽制し合う様子が、静かな淀みとなって表れていたのでしょう。
それから3か月経ち、7月に訪れると、子供たちがずいぶん変わっていました。閉じていた教室の空気が開いたのです。
担任がカラダを開いて接すれば、子供たちと向き合い、しっかりと見ることができます。見ることができれば、子供たちの小さな変化や成長が目に飛び込んでくるので、プラスの視点で子供とかかわることができます。
そんな担任に呼応しようとする子供たちのカラダも開き、教室の空気がよくなっていきます。堀井学級には、こうしたプラスの空気が流れる背景があったのでしょう。
「よくなりたい」「成長したい」という子供たちの根底の思いを信じて、堀井先生が自己開示し、子供たちも徐々に自己開示していく過渡期を見て、今後の成長の可能性を感じています。

楽しみながら意見交換をする子供たち。立ったまま意見を戦わせることで、話し合いに迫力が生まれる理由付け勝負の話し合い。意見発表にも反論にも熱がこもる。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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