ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #36 「SDGsを学ぶ授業」における教材開発をどう進めるか|中條佳記 先生

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ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #36
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前回までで、SDGsの全てのゴールについて、それぞれ2つずつの授業実践例を紹介してきました。今回から最終回に向けての4回は、SDGsを学ぶ授業における「教材開発」「評価」「インクルーシブ化」等のテーマごとに、よりメタレベルに立った視点での提案をお届けします。ご執筆は立命館小学校の中條佳記先生です。

執筆/立命館小学校教員・中條佳記
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

皆さん、こんにちは。現在は立命館小学校に勤務している中條佳記(なかじょう・よしのり)です。
奈良県小学校教員、瀬戸SOLAN小学校の立ち上げに協力し、京都市小学校教員として勤め、現在に至ります。小学校教員歴は24年目を迎えています。
教え子と先日、京都駅前で食事をした際、「先生の授業を受けて、教師になってみようかなと思いました」という有り難い言葉をいただき、この仕事を続けてきて本当に良かったと思える瞬間に出会えました。

さてこれまで、学習主体は常に子どもたちであるという強い思いのもと、どのような教材と出合わせるのか、どのように教材と出合うことができるのか、どんなふうに学習活動に主体的に参加できるようになるのかなどを模索してきました。
さらに、子どもたちが個々の思考を深め、自分の学びや周りの人たちの学びをどのように広げていくのか、そして、学習目標をいかに達成していくのかなどを考えながら、授業を構成してきました。
今回の提案が、子どもたちの学習への関心や意欲を持続可能にするための一つの方策となれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。

2 「SDGsを学ぶ授業」における教材開発をどう進めるか

今回は、「SDGsを学ぶ授業」における教材開発をどう進めるかという大きなテーマをいただき、執筆しました。このSDGs、子どもたちにとっては、あらゆる意味で遠い存在になっていないでしょうか。
校内の高いところに掲示されていたり、教室や廊下の壁に貼られていたりしますが、もはや今となっては素通りしていく貼り物になっていませんか。それほど興味や関心が低下し、もはや風前の灯となっているのかもしれません。

しかし、子どもたちが今後その中で生きていく地球やそれを取り巻く環境、そこに暮らす人々の営みについて、自分事として捉え、考えていかなければいけない中で、あれらのGoalは限りなく常識的であり、いたって当たり前のことばかりであるとも言えます。子どもたちとの時間的距離、空間的距離、心理的距離など、あらゆる距離を縮めた授業を考えていく必要があります。

SDGsの指標はテーマごとに分けられていますが、究極のところ、どれもが繋がっているようにも見えます。さらに言えば、繋げて考えられるものは繋げて、ともに考えていきましょうというスタンスの方が教材開発としては面白いものになるでしょう。
また、子どもたちにとっては2つのテーマを仮に1時間の授業で扱ったことになれば、一石二鳥です。
あえてテーマを分断することなく、教材を開発し、授業の準備をしていくこともアリなのではないでしょうか。それが子どもたちのためであり、周りの人々のためであり、この地球のためであると言えるのではないでしょうか。
そんな漠然とした考えをより焦点化するために、この後、私自身の実践例を挙げ、教材開発と授業の実際について述べていきます。
「何としても、学習にとって第一に必要なのは、体当たりの学習である」という長岡文雄先生のお言葉に勇気をいただきつつ、この提案が教材開発の一助となれば幸いです。

例えば私は、小学校5年の理科の発展学習として、エネルギーを扱った授業をしました。『持続可能で再生可能なエネルギーには、どんなものがあるか』という発問をスタートとして、子どもたちが調べてわかったものや知っているものをどんどん挙げていきます。たくさんあるエネルギーの中で、やはり【電気】はこの地球上の人類の生活にとって重要かつ必要なエネルギーということがわかってきます。
そこで水素自動車の写真を見せ、「この車のエネルギーは何だろう」と問います。ガソリン、軽油、電気、水素……と出てきたところで、水素エネルギーで動く自動車であることを種明かしし、その仕組みを確認していきます。
ただし、そのメリットだけではなく、デメリットも示し、今後どれくらい普及していくのかについて考えることが大切な視点です。

さて、既におわかりの通り、この学習内容は、5年生の社会科、工業を学ぶ単元で扱っても良い内容です。どの教科で授業したとしても、目標、評価基準が定まっていれば、特段問題はないと言えるでしょう。
もっと言えば、取り扱うSDGsのGoalも、Goal 7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」であっても、Goal9「産業と技術革新の基盤をつくろう」であっても良いように思います。

そのようにGoal横断的な学習を成立させるためには、それぞれのGoalごとの教材を準備し、授業計画を立て、知識伝達偏重になることを避けつつ、子どもたちが真剣に話し合える資料や時間を確保しなくてはいけません。
その準備に当たっては、「多岐にわたるテーマをいかに子どもたちの身近なひと、もの、ことと結び付けて教材化していくのか」が面白いところでしょう。

以下により詳細にご紹介する道徳科の実践例では、【2.貧困・飢餓】をテーマに授業を構成しました。Goal 2を扱った理由についても併せて記していきます。

3 SDGsの教材開発の具体 ~Goal 2「飢餓をゼロに」を扱った授業の実際~

なぜ、この授業を考えたのか
まず、世界中にはその日に食べるものが全く無い子どもや、満足な食事を摂ることができずに日々を過ごしている人たちが大勢います。
特にアフリカ地域の飢餓は深刻で、何十年も前から言われ続け、いまだに改善されきってはいません。UNICEFも継続して、飢餓を救うべくして、募金を呼びかけ続けています。
幸い日本では、飽食の時代を迎え、食べるものに困らない世の中になりました。
しかし昨今、この日本でもじわじわと相対的貧困ゆえの飢餓、つまりその日に食べるものがなかったり、栄養の偏りが見られる食事を摂らざるを得なかったりする子どもたちが増えてきていることも事実です。

そこで今回私が授業で取り扱ったのは、【自分の「食」を考えてみよう】というプロジェクトです。目の前にいる子どもたちに少しでも現状を知ってもらい、少しでも自分事として「食」に向かい合ってほしいという思いから、授業計画を考えていきました。
毎日子どもたちが口にしている給食をはじめ、今、私たちが何を求め、どういったものを口にするのかが、今後の食文化にも大きな影響を及ぼします。
子どもたちの思考が、最終的にSDGsのGoal 2「飢餓をゼロに」へと行き着く授業となるよう工夫しました。

●学年:小学5年生

◯教科および領域:道徳 C 主として集団や社会との関わりに関すること
 4-⑺ 我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと。

◯ねらい
我々の「食」について考え、先人たちの工夫について学び、将来の自分たちの食べ物について考えられるようになる。

◯教材:(オリジナル教材が望ましい。著作権に留意して開発する)
 スーパーフード、昆虫食、世界の食事

◯授業展開(含む授業の様子を示した画像/肖像権・著作権に注意)

「あなたの好きな食べ物は何ですか?」
子どもたち一人一人にたずねる。

「これまであなたが食べてみた珍しいものって、どんなものがありますか?」
少し個人で考えてから、近くの人と情報交換する。

「この地球上で人が食べられるものって、どんなものがありますか?」
少し考える時間をとってから、再び近くの人と情報交換する。

その後、下のスライド1の画面を提示し、今の世界や日本の人口が将来どうなっていくのかに目を向けるきっかけをつくる。

さらに、日本人の食事に注目して、大昔からどんなものを食べてきたのかを子どもたちに紹介していく。
縄文時代や弥生時代の1年間の食糧の移り変わり、平安時代の庶民の食事、江戸時代の庶民の食事などを写真で紹介し、最後に現代の一般的な和食を紹介して、
「皆さんのおうちはいかがですか?」
と投げかける。

次に、
「将来、あなたの食事はどう変わっていくのでしょうか」
と問いつつ、近年の食事の変化を写真で提示する。(焼き魚定食、味噌ラーメン、イチゴ、ピザ、コンビニ弁当、パワーチャージのゼリー、サプリメント錠剤など)

続いて、世界各国の食事の写真を見せながら、
「食べてみたい食事はありますか?将来、食べているかもしれません。近くの人と意見を交流してみましょう」
と呼びかける。

さらに、国連WFPからの文を引用して、以下のスライド2の画面を提示する。

スライド1。現在の世界と日本の人口を示し、5年後、10年後……50年後…「あなたの食べるものはどうなっているのでしょうか。」と問いかけるスライド。
スライド2。WFPが直面する課題について解説するスライド。

その後、将来、自分たちが実際食べているかもしれない可能性のある食事を写真で提示していく(スライド3・下)。
ちなみに上段左から、宇宙食の真空ラーメン、コオロギせんべい、流動食、下段左から、培養肉、スーパーフード、スーパーフード)

スライド3。様々な食物の写真が並ぶ。上段左から、宇宙食の真空ラーメン、コオロギせんべい、流動食、下段左から、培養肉、スーパーフード、スーパーフード)。

最後に、
あなたは、将来どんな食事をしていたいですか?
と問い、子どもたち同士で意見交換させます。

その際、スズメバチのフライが入っている袋とフライドされたスズメバチの写真(スライド4)を提示しながら、その写真の補足説明をして授業を終えます。

スライド4。国産フライドスズメバチの写真。

⑴ 評価について

①「食」についての振り返りシート
 〔質問項目〕
 自分の食の好みについて(好きな食べ物や嫌いな食べ物、またその理由
 現在の「食」についての興味・関心度(5段階評価)
 今日の授業を受けた感想

②1週間の「食」の追跡調査
 家庭での食事(プライバシー、マナーには必ず配慮)
 給食の残食量
 どんなものを口にしてきたかをFormsでアンケート調査

⑵ 授業の成果と課題

普段何気なく口にしているものについて、改めて意識して「食」について考えるようになった。
日頃、自分たちが食べている物への興味や関心が高まった。
給食の残食量が減少した。
家族や家庭の事情も考慮して、授業を進めるべきである。
日々の食事からどんな栄養を摂っているのか…特定製品の悪評に繋がらないような工夫、配慮が必要である。

⑶ 他教科・他領域とのつながり

家庭科 日常の食事と調理の基礎
理科 生命 

4 これまでの連載を振り返って

最後に、これまで藤原友和さんのもとで続いてきた本連載についての総括的な感想を述べさせていただきたいと思います。
本連載ではこれまで、全国の先生方がそれぞれにSDGsを取り上げた実践を示してこられました。僭越ながらその中からいくつかの実践例を取り上げて、その良さを分析し、感想を述べていきたいと思います。

まず、第5回連載の木原さんの実践です。
「飢餓をゼロに」という現在の課題をクローズアップして授業を構成し、食品ロス問題、インスタ(SNS)の問題など、今の子どもたちにとって遠いようでじつは身近な課題を取り上げ、主体的に子どもたちが学べる空間を構成されたところが素晴らしい実践だと思いました。普段何気なく生活している子どもたちにとっては大変新鮮であり、興味関心が高まり、面白く価値の高い授業になったのだろうと思います。

次に、連載第13回の阿次富さんの実践です。
「安全な水とトイレを世界中に」をテーマに実践をまとめておられました。実践の中で、市長さんの思いに触れ、子どもたちが自分事として課題に向かおうとしている姿が想像できました。安全な水が担保されている国がじつは数少ない中で、日本に住んでいる我々が、日常当たり前のように蛇口をひねれば新鮮で美しい水が提供されることに対して感謝できる取組に仕上がっていました。
私が住む京都市伏見区は昔から日本酒製造のメッカの1つです。おいしい水については、非常に興味をもって、読ませていただきました。

続いて、連載第18回の次呂久さんの実践です。
「産業と技術革新の基盤を作ろう」というテーマで、地元・石垣島の地域産業を取り上げ、子どもたちにとってより身近に感じられる学習課題を設定して実践されていることがわかりました。個人的に離島に興味があり、石垣島をはじめ、竹富島、小浜島、宮古島などを巡り、島の文化や風土にふれ、地域の方々と話すことでそれぞれのアイデンティティを感じることができたことを思い出しました。そこに住む子どもたちにとっても先生にとっても、魅力的な授業をされていることが伝わりました。

最後に、連載第26回の永井さんの実践です。
「気候変動に具体的な対策を」というテーマで、テーマ自体が大変難しいにもかかわらず、低学年で取り組まれたことが素晴らしい実践の一つとなりました。
学習内容を子どもたちの視線でまとめておられて、永井さんらしい実践だと感じました。
小学1年生にとって、ようやく学校生活に慣れてきた時期に、自分からはとても遠い話や事象について思考することは難しいはずです。にもかかわらず、子どもたちにとってより身近で、具体的な事象を捉えさせたうえで、自分事として考えていけるような課題を提示しています。その課題について子どもたちが理解し、それぞれに考え、成長していく姿が見えたような気がしました。

【参考文献】
「食」の未来で何が起きているのか 青春出版社 石川伸一監修
売り渡される食の安全 角川新書 山田 正彦 著
昆虫食先進国ニッポン 亜紀書房 野中 健一 著
実践 仕掛学  東洋経済新聞社  松村 真宏 著
持続可能な地域社会の実現に向けてSDGsの実践 自治体・地域活性化編 事業構想大学院大学出版部 村上周三、遠藤健太郎、藤野純一、佐藤真久、馬奈木俊介 著
SDGs見るだけノート  宝島社  笹谷秀光 監修
若い社会科の先生に 黎明書房 長岡文雄著

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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