保護者との関係づくりとは【教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう】⑨
シリーズ【教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう】の最終回は、「専科教員と保護者との関係づくり」について解説します。
専科教員にとって、保護者との関係づくりは難しいのではないでしょうか。受け身の姿勢だと保護者はその教科を担当している先生のことが分からないまま1年間を終える可能性もあります。実際、頃橋先生がどのように保護者との関係づくりに努めたのか、その実践を紹介します。
執筆/奈良県公立小学校教諭・頃橋真也
目次
保護者が求める専科教員って?
専科教員の難しさの1つに、“保護者との関係づくり”があると思います。学級担任は、家庭訪問・個人懇談・学級懇談会など、直接保護者と話しをする機会が年に数回あります。他にも、日常的に連絡帳や電話連絡などで、子供の学校での様子を伝えることができます。
しかし、専科教員が上記のようなことをするのは、ごくまれだと思います。つまり、専科教員は保護者と関わる機会は極めて少ないことが分かります。それにも関わらず、保護者は、専科教員に対して大きな期待をもっているようです。
保護者が専科教員に求めることは、以下のような点と思われます。
[保護者が求める専科教員]
①子供がその教科を好きになるような授業をしてほしい。
②子供が深く学び、学力を付けさせてほしい。
保護者は、専科教員についてわが子と話をし、算数のノート、算数テストの結果などを通して、「こんな先生なのかな?」と予想を立てることしかできません。
では、どうするのか?
私は、専科教員側から授業を見てもらう場を作ったり、授業の様子を発信したりすることがなにより大切だと思います。つまり、専科教員側から行動を起こすことが大切です。
保護者との関係づくり
私の場合、現任校で6年間学級担任をしてきました。そのため、2023年度に3年・4年・5年・6年の算数を教えることになっても、すでに担任をした学級もあれば、その子供の兄や姉を担任していたこともありました。そのため、保護者からも名前と顔は多少認知されている状態から始まりました。
しかし、教科担任制という聞きなじみのない制度が始まったこともあり、保護者が期待と不安の入り交じった気持ちであったことは容易に想像ができました。
1 算数だよりの活用
4月当初は、小学校が最も忙しい時期の1つです。それとともに、最も教師と子供と保護者がわくわくドキドキして過ごす時期でもあります。はじめに、私が取りかかったのが、「算数だより」を発行して、自己紹介や授業の様子を発信することです。
私は、“算数”という教科は、保護者がかなり気にしている教科の1つだと思います。家庭訪問や個人懇談では、「うちの子は算数が苦手で……」という声を学級担任のときによく聞きました。
それが、本年度から教科担任制という初めて聞くような言葉で、学級担任以外が教えるということですから、保護者の関心はおそらく我々教員が思っている以上に高かったことでしょう。
第1号では、自己紹介をしようかと考えたのですが、先に、本年度本校でどのような教科担任制を行っていくのかについて説明しました。
そして、前年度の違いとして、①宿題をどのように扱うか ②テストをどのように扱うかという2点について、お知らせしました。特に、宿題に関しては、私1人で、中休み(行間休み)の20分間と昼休み20分間で4学年分を見ることが難しいのは、これまでの学級担任の経験から感じていました。そこで、5・6年生に関しては、自分で宿題の丸付けをするまでを宿題とするようにしました。
3・4年生は1学期の様子を見て、自分で丸付けができるような実態であれば、移行していこうと考えていました。
自分で丸付けをする利点としては、
①宿題をしている時点で、答えの正誤が分かる。
②間違えた問題について分析する・考えることができる。
(分からなければ、翌日、聞くことができる)
『「けテぶれ」宿題革命!』著者の葛原祥太先生の実践でも、この間違えた問題を自分で分析することは、自分の学びを振り返る上でも重要であることが示されています。
第2号では、私の算数の授業開きについて紹介しました。保護者にもよく分かるように、実際に授業で使ったスライドをそのままおたよりに載せました。
そして、なぜ算数を学ぶのか?ということを子供たちといっしょに考えたことについて紹介しました。①知る、②分かる、③できる、④説明できる、の学びの理解度・学習度についても説明しました。
また、二次元コードを読み込めば、授業での板書や写真などを見ることができるようにして、どのように算数を学ぶ雰囲気を作っていきたいのかについて具体的にお知らせしました。少しでも、保護者に授業の雰囲気を感じ取ってもらいたいと考えたからです。
実際に、保護者からも、「頃橋先生、算数専科だより、見てんで~!! うちの子の授業中の様子も教えてや~!」と4月下旬の個人懇談の際に、学校の廊下で出会った保護者から声をかけてもらいました。とてもありがたいことです。
このように、先生からおたよりを出すことは、保護者に学校の様子を知ってもらう1つの手段となります。
もし、管理職と学年団の先生や学級担任の先生と相談の上、専科からたよりを出すことが可能であれば、保護者との関係作りにかなり役立つのでおすすめします。
教科担任制が新しく始まったときや新しく赴任した学校の場合などは、ぜひお願いしてみましょう。特に4月に、専科として授業の考え方を発信して、保護者の信頼を少しでも得ておくのは、1年間授業がしやすくなるので、力の入れどころです。
2 授業参観の仕掛け
授業参観は、保護者がわが子の学習の様子を直に見ることができる、極めて貴重な場です。
学校によって、実施する授業参観の回数は異なりますが、多くの学級担任の先生は、保護者に多様な教科の学びの様子を知ってもらいたいと思い、年間を通して様々な教科を公開していると思います。
とりわけ、4月・5月の初めての参観では、保護者はわが子の学習の様子というより、学級担任を見に来ていると言われます。児童への声のかけ方や元気のよさ、清潔感などに気を配り、「この先生なら、1年間安心して任せられる!」と思ってもらえるように、教師側にも気合が入るのは言うまでもありません。このように、授業を参観してもらうことは、保護者からの信頼を得る上でも絶好の機会です。
では、先生方の学校では、専科教員の先生は授業参観で授業を公開していますか?
おそらく、4月・5月は学級担任の授業が優先されると思います。しかし、授業参観は年間を通して、複数回あるはずです。そのときに、ぜひ、自分から学級担任の先生にお願いして、可能であるのなら授業を公開する場をもらうことをおすすめします。
私の場合は、本校では11月に日曜参観があるので、そのときに2時間分の授業を公開させてもらう機会を得ることができました(4年生と6年生)。
可能であれば、全学年で公開授業を行いたいところですが、1時間や2時間の決められた時間のみを公開する学校が多いと思います。
では、授業参観で授業をするチャンスを得た場合、どのような点に気を付ければよいのでしょうか?
私が意識したのは、
〇 普段通りの授業をすること(“協力ミッション”をする)。
〇普段、教師に考え方を説明するところ“説明ミッション”を保護者に手伝ってもらうこと。
の2点です。
おそらく多くの保護者は、アクティブラーニングなどではなく、“THE 一斉授業”を受けてきた世代の方ばかりです。そのため、『算数は先生の話をしっかり聞いて、そのあと座って、黙々と問題を解くものだ。』という強い先入観を持っていると感じました。
子供たちが、生き生きと対話しながら問題を解き、主体的に学びに向かっていく姿を見せたいと思い、いつもよりはるかに難易度の高いジャンプの課題(教科書レベルをはるかに超えた課題)を設定しました。そして、①「普段の学びの様子を紹介する1枚の大きなポスター」と②「本日の協力ミッションの問題と答え」を教室入り口に置いておき、授業を参観に来た保護者の方に協力してもらえるように呼びかけました。
6年生のクラスで参観が始まると、最初に以下のように話をしました。
みなさんは、これまで“場合の数”を8時間学んできました。そして、今日は、みんなで協力しながら、中学校の問題に挑戦してもらいたいと思います! いつもと違うところは、考え方を説明する(説明ミッション)は頃橋先生にではなく、保護者の方に説明しに行ってください。誰の保護者でもOK です。どうしても頃橋先生に説明したい人は、先生でもOK ですよ。
保護者の皆様、子供たちが考え方を説明に来たら聞いてあげて、「へ~」とか「なんでそうなるの?」などと声をかけてあげてください。ご協力よろしくお願いします!
と授業の開始に子供たちに説明をして、以下の板書のようにステップを組みました。
日曜参観で保護者の方がいっぱい見に来ていると、子供たちは緊張してしまうものです。しかし、この日の6年生は、いつも以上にこの難易度の高いジャンプの課題を熱心に考えていました。保護者の方々は、子供たちが友達との対話をしながら答えに迫っていく過程を、とても楽しそうに見ていました。
ちなみに、このときのステップも、徐々に難しくなるような仕掛けをしておきました。
子供たちが、保護者に考え方を説明に行く場面では、なんとも微笑ましい学びの姿が見られました。本校は単学級で6年間クラス替えがありません。そのため、児童は互いの保護者の顔を知っています。これは保護者も同じくです。保護者の方は、話を聞いて何度も相づちを打つのを重ねていました。おそらく子供たちの学びの深さに驚きとうれしさがこらえられなかったのだと思います。
チャイムが鳴っても子供たちは、まだ解くのを止めません。困ったものです。
実はこの授業では、子供たちと保護者に、ある嘘を付いて授業をデザインしました。ということで、最後は、私のネタばらしの時間です。
最後の語りは以下のようなものでした。
みなさん、今日はとてもよく学べていました。協力ミッションでしっかりと、友達と話をして答えに迫っていく姿は、さすが6年生でした。保護者の方への説明も見事でした。しっかりと考えを伝えることができていましたね。保護者の皆様もありがとうございました。さて、この授業で、実はみなさんと保護者の皆様に嘘を付いたことがあります。
謝らせてください。
今回の授業のめあては、「6年生が協力し合えば、中学校の問題も解けることを実証しよう」でした。ごめんなさい。実は、ステップ3の問題は“高校の問題”でした。詳しく言うと、大学共通テスト(旧センター試験)で過去に出題された問題でした。それを、いくつかのグループは解くことができていました。その問題を解こうと果敢に最後まで考えているグループもありました。見事でした!
この瞬間、子供たちからは、
え~‼︎ うそ~⁉
という驚きの声。保護者から「お~~‼︎」という歓声があがるとともに、教室は大きな拍手で包まれました。
学びのプロフェッショナルを目指して
今さらですが、私は決して算数の専門というわけではありません。しかし、13年間の学級担任の経験から、子供の実態に応じて授業のデザインを柔軟に変更し、主体的・対話的で深い学びが得られる授業デザインを追い求めてきました。
2023年4月当初は、一斉授業をベースにペア学習やグループ学習を中心に、たまに『学び合い』をしてきました。しかし、6月頃から、「もっと子供たちに委ねても、授業のデザイン次第でさらに主体的に学んでいくのではないだろうか?」という思いから始めてみたのが、スモールステップ型×協同学習、いわゆる“協力ミッション”です。12月時点では、全クラスでこの協力ミッションを取り入れた学習をしています。今では、「協力ミッション」という言葉は私の算数の授業のデザインに欠かせないものであり、子供たちの大好きな学び方の1つです。
私たち小学校の教員は、学校事情や勤務体系によって、学級担任のときもあれば、専科教員になることもあります。他にも、特別支援学級担任や通級指導教室の教員になることもあります。1つの教科の学びを追求していくことは自分の中の軸となる可能性もあり、間違いなくすばらしいことです。ただ、もっと大事なことは、学びのプロフェッショナルであるという自覚をもち、日々新しい教育の在り方にアップデートしようと向上心をもち続けることだと思います。
子供に直接関わる私たちは、教育現場の最前線です。多様な実践を行うことができ、反省的省察を経て、さらなる実践に挑戦することができます。現場から生まれる実践や理論は、再現性・汎用性が高いのが魅力の1つです。ぜひみなさんも、“協力ミッション”という授業のデザインに新たなアレンジを加えて、さらなる実践をつくり上げてください。
今後も「主体的・対話的で深い学び」の視点で、自らの授業を見つめ直し、信念を変容させながらより質の高い学びのある授業デザインを追求していきたいと思います。
【連載終了】
頃橋真也(ころはし・しんや)
教員歴14年。県の道徳研究会に13年間所属し、道徳の授業作りについて研究を深める。2021年度「第27回日教弘教育賞奨励賞、2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」教育奨励賞、授賞。X(旧Twitter)でも、情報発信中(ro5ro5先生@小学校の先生 @ro5r_o5)。